⒈ 目交(7) 神眼の謎
「ここは……」
一人の少女が先の見えない真っ白な空間へと迷い込む。
「ここは人間界で言う、【天国】と呼ばれし
「ひゃっ!」
突然、彼女の背後から透き通るような美声が聞こえてきたかと思うと――
そこには髪を二つに
驚きのあまり、振り向きざまに立派な縦ロールが
「あ、貴女は………」
「私はここを管理する神様の一人、目の神ヘアムにございます」
「目の神……?――ッ、そうだよ!奇妙な目をした連中に殺されて私は…………」
「成程、それは災難でしたね」
ヘアムのその妙な一言を前に少女は疑問を抱く。
「あの、『自称:目の神』だか、何だか知りませんけど、これって………もしかしなくとも、さっきの――あの人達と何か関係している、とか?」
「
どうです、貴女も神眼の移植を挑戦してみますか?」
「つまり、生き返るチャンスがある……そんなの、挑戦するに決まってるじゃない。
もう一度ゆっとに会って、言えなかったことを伝えるんだから………後悔したくないもの!」
「挑戦をご希望ですね。でしたら、この場で横になって下さい」
「横に……ですか?良く分かりませんが、取り敢えず………そうすれば良いのですね」
疑問を抱きながらもひとまずは言われた通り、横になった華。
「ご協力ありがとうございます。それでは、こちらの眼球を今から移植していきます」
ヘアムは華の眼前に手をかざすと、彼女の両目はひとりでに動き始め、まるで――ヤドカリが元いた
代わりにヘアムは涙を流し創造した手の平の上で転がる二つの透明な眼球を前に差し出すと、それはガタガタと独りでに動き始め、華の空いた二つの眼窩に向かってゆっくりと、それぞれが
直後――、地獄のような痛みが彼女を襲った。
「ぁああああああああああああああぁぁぁぁ―――――ッ!」
これまでに味わったことのない壮絶な激痛が、彼女の
だがそれでも、彼女は耐え続ける。
彼女の活力-『恋心』が
どんな結果が待っていようと、ここには彼が存在しない。
彼女は見事、激痛に打ち勝った。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…………」
「これにて貴女は見事、新しい命を受け入れることに成功しました。
少し
「……あの、一つよろしいでしょうか?」
「
ここで彼女は、どうでも良いようなことを質問する。
「……その、これって横になった意味があったんでしょうか?」
だがその問いは、神眼の謎を知ることとなるのだった。
「かつて力を持った一人の神様は、生涯を終えた生物の魂に新たな命を与え――、その生物は別の生命体として、繰り返し生きることを許された」
「えっ?」
彼女は何の話をしているのか、自分が発した質問との繋がりが全く見えず、華は疑問を抱く。
しかし、ヘアムはその疑問に答えることなく、話を進める。
「その昔、地球上の生物は
だがそれは繰り返されるのち、地球の資源は消費し続けられ、結果として【環境破壊】が起こることとなった。
現代の地球が抱える驚異的な《熱波》と《寒波》の異常現象により、絶滅を余儀無くされた数種の生物は
人類もまた、特殊な防護服を身に付けなければ、まともに野外活動も出来ない程に、地球は追い詰められてしまいました」
「………」
もはや話の繋がりを考えるのをやめ、黙って話を聞く華。
ヘアムの話は続く。
「この現実を前に
彼らは天国で
魂の分別-すなわち魂を生かすべきか殺すべきか、それを判断するのは魂が持つ、己の渇望――。
《生きたい》と思う力の強い者だけが生きる、世の中を作っていったのです」
「???」
華の脳内では、もはや理解不能と言わんばかりにこれだけが浮かんでいた。
「何度も繰り返し甦る生物の魂には、計り知れないエネルギー:【生命力】が宿っています。
《転生》という手段であれば、母体の中で一から成長していく、小さき生命の誕生に
そこで魂の分別を行うにあたり、
すでに一度生涯を終えた生前の
ましてや、
そこに求められるのは、《生きたい》という強い【欲望】と、すでに活動を停止した
それらの力が足りず、耐え切れなかった者の魂の
私の場合は言うまでも無く、それが『眼球』であるという………ただそれだけのこと――」
「は………はぁ……?」
結局自分は何を聞かされているのか、あまりに長々しいその話に、当初の疑問はどうでも良いやと思えてきた
けれどそう思ってしまっても、私のしょうもない質問の為に話を続けている神様の為にも、ここは全てを聞くことにした。
そして、ヘアムはついに華の質問に答えた。
「神眼は言うなれば、生きることの出来なかった幾つもの『生物達の魂の結集』を形としたもの―――。
ひとたび手を
ただし、眼球には器用な手足は生えていない。
全ては――神眼が眼窩の中へと入りやすいよう、姿勢を横にするよう指示したのは、まさにその為なのです」
「こ……この目の正体が………幾つもの生物の魂の結集……………」
ようやく自分の問いに対する謎は解けたが、それ以上に神眼の衝撃の事実を知った華は動揺が収まらなかった。
「だ……だとしたら、神眼では無い私の目が動いたのは何故………………」
「すみませんが、それ以上お答えすることは出来ません。……おや、そろそろ魂が元の身体に戻るようですね」
新たに出た謎の答えは告げず、そしてこのタイミングで華の……人魂としての身体-【霊体】は元々半透明だったその形が消失していくように、身体は更に薄くなっていく。
そうして華の霊体が完全に消滅する様子を見届けると、ヘアムは一人答え始めた。
「………まさか、新たな神眼を創る為の生命エネルギーを――、魂の一部を少し刈り取っているからとは言えませんからね。
なんて……、あの時それを話してしまったとしたところで所詮――、ここでの出来事が目に焼き付くことはあろうと、この場で交わしていた筈の会話は、あちらの世界へと戻った頃には………ふふっ。
それまで何を話していたかだなんて、人の頭ではロクに記憶として残らないまま、
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