⒈ 目交(3) 噂

 NEMTDネムテッド株式会社内の一角にもうけられている、とある大フロア内にて――


「えー、本日より旧本部からこの布都部新本部へと移動になった、社員達諸君である。君達には遺憾いかんなく、この本部においてもその実力を発揮して頂きたい」


 現在このフロアには、ここの会社で働いておられる全社員達が一同に集まっており――、【社長】の凞彦てるひこは新しく入ってきた社員たちと並んで、彼らの紹介をしていた。


「では、一人ずつ自己紹介をしてくれ」


 その一言をきっかけに、次々と新しく配属はいぞくされた社員達が、この場にいるこれから共に働く仲間達に挨拶をしていく。


 夢見夫妻を含め、計五名の社員が各々おのおの自己紹介を終えたタイミングで、【社長】の凞彦が彼らに対して最後の言葉を告げた。


「分からないことがあれば、ここにいる社員に聞くと良い。皆もどうか、仲良くしてやって欲しい。それでは以上、解散!」


 大フロアからぞろぞろと退出し、自分の持ち場に戻っていく社員達。


 ポツンと残された彼らの誘導は配属先の工場長が責任持っておこなった。


 工場長が彼らの案内をしていると、その内の一人-細身の三十代男性で、名を『田所利人たどころかずと』という人物が前を歩く工場長に一つ質問を投げかけた。


「あのぉ〜、一つ聞いてもよろしいでしょうか?」


「なんだ、言ってみろ」


「実は私の知り合いがこの島に暮らしていまして。そいつから聞いた話なんですが、どうやら二年前にこの会社で爆発事故が発生し、社員数名がというのは本当のことなのでしょうか?」


 それを聞いた瞬間、他の四名がザワつき、工場長は顔付きが変わった。


「お前、さっきの自己紹介で確か……、田所とか言ったな。それ以上、何か余計なことを言ったら最後、このことを社長の耳に届ける。その時にどんな処分が下されるかは………分かるな」


「そ、それだけはご勘弁かんべんを」


「他の者もさっき言っていたことはすぐに忘れろ。良いな!」


 その言葉で彼らは一瞬にして静まり返り、そうして何事もなかったかのように工場長は案内を再開するのであった。

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