⒈ 目交(4) 転校生

 これは夢見夫婦が会社に挨拶をした次の日のことである。


 午前八時三十五分。いつもならホームルームが始まる時間だが、悠人のいるクラスで担任を勤めている柊恭次郎ひいらぎきょうじろう先生が入ってくるなり、第一声にこんなことを言い始めた。


「お前ら、席に着いてるか。突然だが、今日この教室に転校生が入ってくる。ほれ、来ていいぞ」


 ガラガラと扉を開ける音が聞こえてくると、廊下からアームウォーマーをしたベージュ色の髪の少女が一人、姿を現す。


 静かな足取りで先生の横まで移動すると、彼女は自己紹介を始めた。


夢見華ゆめみはなって言います。その、よろしくお願いします」


 すると学校の黒板………と言うより電子版に華の声を拾って自動的に電子文字で彼女の名前が映し出された。


「この島で転校生なんてのは珍しいとは思うが、夢見さんは両親の転勤でしばらくこの学校に通うことになった。皆、仲良くしてやってくれ」


「「「はーい!」」」


 クラス一同、こころよく返事をした。


「夢見さんの席は窓際まどぎわの一番後ろの席だ」


「分かりました」


 と言って、彼女が座った席は悠人の左隣であった。


 彼女は隣に座る悠人の方を向き、何気なく会釈えしゃくするのだが、彼の顔を見て何かを思い出す。


「あれっ、もしかしてゆっと?」


「ゆっと?……あっ、俺をそう呼ぶってことは、まさかあの華ちゃんか?」


「そうだよ、久しぶりだね。でも、最初は分からなかったよ。昔の黒髪だった記憶しか無いから、白髪はくはつになるととこうも違って見えるんだね」


「これはその、なんと言うか………」


 とてもじゃないが、多くの人が密集みっしゅうするこのクラスにおいて、人前で白髪になるまでの経緯を言えるはずもなく、彼はどうしたことかと一人で戸惑っていると……


「おい、そこうるさいぞ。ほれ、さっさと授業に入れ」


「「すいません」」


 先生のその言葉に助けられ、二人は静かに前を向いて授業を受け始めるのだった。

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