第一部 ⒎ 目茶
⒎ 目茶(1) 命の値
「ありゃあ、相当お怒りのようだぜ」
すっかりイカ墨が綺麗に落ちた悠人は海から上がると、目の前の女性の
「私もあのタヌキ以上のことをされると、 厄介です」
「あれくらいだったら、まだ良いだろうが。俺なんかサメだぞ、サ・メ!(本当のところ……、さきのカラスも
「あれくらいと言われるのは
「いや、あれはまさにそのお困り狸を手っ取り早く引き離そうと思ってだな」
「――テメェら、うるせぇんだよ!」
二人がしょうもないことを言い合っていると、突如として強烈な
「こっちは一度視界をやられて不機嫌だってのに、どうでも良いことをゴチャゴチャ言いやがって。よけいに腹が立ってくるんだよ」
「確かにどうでも良いことだったな。あんたの
「そ、そそ、そうですね。ここは素直に謝りましょう。
彼の謝り
ちょっと前に刹那と
今や別人にも思える態度で、ただただ
そんな様子を見せる二人の態度には妙な
「そうですよぉおおおおおおおぉぉ――ッ!そうやって、私に
(やべぇよ、あの人。キレたかと思えば、今度は
(御免なさい、御免なさい、御免なさい、御免なさい……)
相手のさらなる変化を前に、二人は思い思いにそんな言葉が浮かんでいた。
季世恵に至っては、心の中でも謝罪をする
「さあさあ、おいでなさい。私の【
奴は三百六十度見渡し、視界に
空からは多種多様な鳥の集団、海からは
一瞬見とれてしまうほど壮大な光景であったが、すぐに自分達が
季世恵は内ポケットからさらなる道具-『匂いの強い香水スプレー』を取り出すと、それを思い切り全方位に向けて吹き掛けた。
野生動物達はその匂いを嫌がるように、今度は一斉に引き返していった。
ただし魚の集団だけは足がある訳でも無かった為、そこにぽつんと一匹何も出来ずにいるサメのようにバタバタとその場を跳ねるだけに終わった。
悠人は絶対的な境地から救ってくれた季世恵に感謝の言葉を告げようと、少しの間だけでも香水の臭い香りを我慢しようとしたのだが………、
「ありがどな、季世恵ざん。おがげでだすがったぜ」
どうしても我慢出来ず、ついつい鼻をつまんで話してしまった悠人。
折角の感謝の言葉が台無しである。
だが、その救いは完全なもので終わらなかった。
スプレーの
大半の鳥類は人間に比べ嗅覚が
「さあ、お前達!その口で奴らの目ん玉を引っこ抜いてやるのよ!」
次々にそのくちばしを開けて、まさに彼らの目玉を噛み付いて引き抜こうと飛びかかる野鳥達。
季世恵は再び上下の
「やめとけ。そいつを使ったところで、あの数の集団を追い払うことは無理だ。ここは二手に分担して牽制攻撃を仕掛ける。互いに背中を預け、前方の敵を追い払うことだけを考えるんだ。来るぞ!」
そう言って彼は季世恵の前に立ってファイティングポーズをとると、これまで見せなかった力の入った
最初に飛びかかってくる数羽の野鳥が一定距離まで近づいた時、彼は動き出した。
まずは目にも
そこから右ストレートや左ストレート、ワンツーパンチといったリーチの長い技も駆使して一定距離を置きつつ、いつにも増して集中している悠人の姿があった。
そうした動きが出来るのも
そんな中、季世恵に至っては点火棒を使用してのメタノール、エタノール、イソプロパノールを配合した引火性の強いアルコールが入った加圧式の霧吹きと組み合わせた即席の火炎放射器でなみいる野鳥達を圧倒していた。
本人いわく、風向きが変わって
だが彼にとってそこに感じる『恐怖』は、決して火傷することでも野鳥の集団に襲われることでも無かった。
貧乏性ゆえ、一番に貴重な衣服が燃えたらどうしようという心配が何よりも恐怖なのであった。
そうこう思いながら彼は前方の野鳥の集団を撃退してみせると、それと同時に季世恵も
彼らの周囲には闘いの跡が……、罪無き多くの野鳥達が地に堕ち苦しむ
鳥もまた一つの生命。
このふざけたゲームに巻き込まれてからというもの、どうにも『命』が軽く見られているように思えてしまい、いつか人の心を失ってしまうのでは無いかと………いつか自分が自分でなくなってしまうことを常に恐れていた彼だったが――
「
その目には決して推し量れやしない、命に対する『
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◼︎能力解説◻︎
目力:【
一度に従わせられる動物の数は無限。ただし、従える数が多いほど複雑なコントロールをすることが出来ない。
基本、全ての動物をコントロール出来るが、例外として人間だけはその効果が効かない。
監修:M.K.
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