⒎ 目茶(2) 捜索

「んしょ、ようやくマシな空気が吸えるわね。場所も場所だけに、すっかり服がよごれてしまったわ」


 目崎悠人とたちばな季世恵の二人が鳥の集団を相手にしていた頃、ようやくマンホールから抜け出した未予。


 だがここは石化した裏目魔夜の近くのマンホールでは無く、自動販売機が置かれたどこかの路地裏へと繋がっていた。


 彼女は思わず、地下のよどんだ空気から逃れようと、近くのマンホールから出てきたのであった。


「何かしら?あれは………鎌?」


 どういう訳か、自動販売機に謎の薄鎌が突き刺さっており、明らかにこの場で何か揉め事があったことだろうと思い浮かべられる。


「せめて痕跡こんせきでもあれば、この場所であの男が干渉かんしょうしていたかどうか分かるのだけれど……」


 靴跡こんせきの一つでも残っていないか調べようとはしたが、さっきの雨でその一つや二つ、何もかも残されてなどいなかった。


 とは言え、自動販売機に薄鎌が突き刺さった……この奇妙な現場を見て、どうにもこの場所で闘い………それこそ、思い浮かぶでも繰り広げられていたのか…………


 何処か事件性を感じざるを得ないこの現場において、一番に目がいく薄鎌以外で、何かここで起きていたことの手掛かりになるような痕跡でも見つけられないものか……、自動販売機の周りをよくよく観察していると、あるものが発見された。


「これは……白髪ね。毛先がピンと張った髪の毛となると、まだ新しいものだわ」


 自動販売機の下に落ちていた一本の白髪を手に取り、少なくとも白髪の神眼者がこの辺りにいたという手がかりを掴んだ未予。


 どうやらあの時、悠人が紙一重で避けた薄鎌の刃が僅かに彼の髪をかすっていたようだ。


 彼女は慌ててEPOCHエポックを起動すると、《神眼者リスト》をすみから隅まで穴が開くほど見つめていた。


 すると、未予はあることを発見する。


「……現在確認されている白髪の神眼者プレイヤーは、あの男を除けばとさっき私が下水道で拘束したあの女だけのようね。まあ、この短さからしてあの男か拘束した女あたりだと考えられるけど、女はこの私が下水道内で拘束したから、自然とあの男のものだと決まるわ」


「そこで何をしている?」


 背後からそんな声が聞こえ振り返ってみると、そこにはイヌ耳のカチューシャを頭に付けた、メイド衣装のようなNEMTD-PCに身を包む一人の女の姿があった。

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