⒍ 洞視(4) 乱入
時刻は十一時を回り、ブシュラ達は屋敷の
いつしかどんよりとした天気に包まれ、向かい合う刹那と使用人のリンジー。
事前にそれを使った闘い方をほんの参考までにブシュラから教わってはいたのだが、今までの人生においてハサミ以外で………
何か
その様子を見かねたブシュラは、彼女にキツく当たり出した。
「なんてみっともないところを見せてやがる。
実の母親に
言っておくが、こちら側がその手伝いをすると思っては困る。自分を成長させるタイミングは、人生の中でそう何回も転がっている訳では無いことを忘れるな!
少ないチャンスの中――、いかにモノに出来るかどうか、自分の
本当に叶えたい目的の為なら、そんなものの一つや二つ、ブルってないで振り回してみせろ!
こいつを使って、生き残ってやるぐらいの戦意を見せたらどうなんだ」
「うわぁああああああああああああぁぁぁ――――ッ!」
ぼろくそに言われ、
そして彼女はやけになった手の付けられない子供のように、むやみやたらと試作品を振り回し始めた。
特に狙いを決めて放り投げた訳でも無い、
目線は再び試作品を
すると当然ながら大人の引く力に抗えず、スルッと滑るように持っていた薄鎌の
「しまっ………」
彼女に動揺している余裕も無く、すぐにリンジーは繋がれた二挺の薄鎌をヌンチャクのように軽く振り回して勢いを付けては、
ただの小学生でしかない
だが、下を向いた直後自分の影が目に入り、反射的に開眼すると小柄な影は立体化し、そいつは迫り来る薄鎌の
冷や汗をかく
薄鎌の刃が迫る恐怖心の中――、どうにかその境地を抜け出せたことに
「……その、さっきは取り乱しちゃってごめんなさい。犬耳のお姉ちゃん、ケガしてない?」
「はい、かすり傷すらありませんので、心配に及ばず。
ですが犬耳のお姉ちゃんと言われるのは、少々お恥ずかしいので、今後はリンジーとお呼び下さい」
「
突然ブシュラに呼ばれ、一度能力を解除して彼女の方へと歩み寄る刹那。
「
自分の命が惜しかったら、何事にも動揺せず、目の前の相手だけに集中してみせろ」
「……さっきみたいなことにならないよう、その………努力します」
すっかり落ち込んでしまった
「よし、もう一度やってみろ。リンジー、もう一度
「
始めにリンジーが真っ先に駆け出した。
徐々に二人の距離が
だが、その手に持った試作品をむやみに振り回そうとはせず、意外にも手先が器用な
「くっ……」
先程とは打って変わって予想外の動きを見せた
すぐに左手に持ったもう一挺の薄鎌を
だがあくまで右手には一挺の薄鎌を手に持った状態をつくり、バンジーコードの伸縮と身体の軽さを生かした大ジャンプの跳び蹴りで、リンジーの
リンジーの顔は自然と上を向き、
直後――、リンジーは身体を横に
そして、この行動が次なる攻撃へと繋がっていた。
勢いよく蹴り出された衝撃から薄鎌を手放してしまったことで、バンジーコードの伸縮する力がもう一方の刺さった薄鎌の方へと強く働きかける。
手放されて空中を舞う薄鎌は、芝生の上に固定された
事もあろうに、そんな二挺の薄鎌の間に働く引力に
予想だにしていなかった空中からの襲来に対応出来ず、こちらへと飛んでくる一挺の薄鎌の存在に気付き、急いで影を出現させようとした時にはすでに自身の胸部をグサリッと貫通していた
「ごはっ……」
口から血を吐き、徐々に力が入らなくなっていく
リンジーは立ち上がり、
涙滴型の瞳孔に水色の瞳をした神眼が現れると、突然その目から涙を流し始めた。
流れ出た全ての
するとみるみる内に
どうやらこれが彼女が持つ
これはまた珍しいタイプではあるが、それだけまだまだ神眼には多くの種類が存在するのであろう。
「なんてこった。ここにいる奴ら全員、神眼者じゃねぇか」
「誰だ!」
突如として庭園の草木の奥から人の声が聞こえると、ブシュラの声に反応して、フードを目深に
「お前が言っていた注意人物とは、こいつのことか?」
「はい、間違いありません」
隣にいる目撃者のジョジョの確認も取れたところで、ブシュラは
「
「舐められたものだな。こんな小学生ぐらいの女の子一人に私の相手が
まぁ、私としても一対一が望ましい限りではあるけど?」
「リンジーの涙の力で、その傷もすっかり癒えた筈だ。
始めての実戦になるが、お前一人の力であの者を追い払うぐらいのことはしてみせろ」
「言ってくれるじゃねぇか。そういうことなら、あんたらは手ェ出すんじゃねぇぞ」
あれからずっと尻餅を付いたまま、
その下に隠されていた顔は
「
どうやら立体化できる形は人型に限らず、それでいてバンジーコードのように伸縮自在に動かすことが出来るようで、いつの間にか
少し前の逃走劇の中でジョジョが
だが奴は影を操る
その者はフードの奥から目を光らすと、開眼した透視能力を頼りにパーカーのファスナーを開き、内部から上下の
アルミ缶の中に点火棒を近付けて火を付けると、ジリジリと中に仕掛けられた
その正体は、奴の手作り
アルミ缶の
その光によって球体状の影は一時的に薄くなり、目を閉じた状態からでも
「残念だったな。この
ザクッ!
奴の背後で何かが刺さったような鈍い音が聞こえて来たかと思うと、あろうことかフード越しに一挺の薄鎌が自身の後頭部に突き刺さっていた。
「ぎぃあぁぁああああああああぁぁぁ――――ッ!」
数秒遅れて
「このガキィ、何しやがったぁぁあああああああぁぁぁ――――ッ!」
「ハハッ、アハハッ、ハハハハハハハハッ…………」
相変わらず後ろを向いたまま、大声で笑い上げる
「お姉さん、下を向きなって」
そう言われて奴は視線を落とすと、
「これは………影………?
だが、これは一体…………いくら日の光の加減や角度によって………変化があることは…………だがしかし、これ程の……この妙に伸びた、長く大きい影は何だって……………」
謎の大きい影の出現――この一瞬で何が起こったと言うのだろうか。
一挺の薄鎌が奴の後頭部に突き刺さるまでの流れを――、少し振り返ることとする。
あの時、奴が
神眼に備わった高い視力によって見事に
一つの巨大な人型の影と成り変わったそれは片手でぶん投げるように
「これで終わりだよ」
奴の背後で待機していた《二つで一つの巨大な人型の影》は、繋がれたもう一挺の薄鎌を
手型の影はその手に持った薄鎌を強めに引っ張り、そうして極限まで伸ばされたゴムの伸縮が奴の刺さったままの薄鎌に繋げられた
まるでバネの付いたおもちゃのようにビヨーンと一切の抵抗もままならず、勢いのまま後ろへと身体が飛ばされ――、
引っ張られるがまま、影主の
「ぐあああああぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁ――――っ!」
これまで感じたことの無い激しい痛みが奴を襲った。
これが命を奪われる痛みなのだと――………
まさかまさかの神眼の回収までやってみせた
「イテテテ……ってあれ?しまった!
あのお姉さん、頭に鎌が刺さったままどっか逃げて行っちゃった。どうしよ、急いで鎌を取り返してこなくちゃ……」
そう言って、顔面強打した際に鼻血を出してしまっていた
だが、それをブシュラが制した。
「いや、無理に追わずとも良い。仮にあの者にも仲間がいるとなれば、逆にお前が不利になりかねないからな。
それにあの程度の武器、失ったところでいつでも作れる。それどころかあれより良い物を用意してやるつもりだから、今は休め」
「うん。そう言うことなら、ちょっと………休むね」
そう言うと、
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