⒍ 洞視(3) 試作品

「頼まれた品を買って参りました」


 使用人のジョジョは無事に屋敷へと帰られると、主人の研究好きから高じて作ってしまった、地下にもうけられた『研究兼開発室』にて、ブシュラに買ってきた品を渡した。


 怪しげな薬品やら、何か色々と設計図のようなものがしるされた紙々が多く置かれた、独特な匂いに包まれた開発室。


 ごくろう――、と礼の一言を告げて受け取ったブシュラは、早速袋から物を取り出していき、鉄製のテーブルの上にそれらを並べ始めていく。


 持ち手に滑り止め加工された、ステンレスモリブデン鋼を使用した薄鎌が二挺にちょう


 長さ一メートルくらいのポリエステル性のバンジーコード。


 それと電動ドリル、乾電池とサンドペーパーの品々がテーブルの上に置かれると、ブシュラは早速作業に取り掛かった。


 まずは包まれたビニールを剥がして乾電池をはめ込み、電動ドリルの電源を入れて稼働させる。


 薄鎌の持ち手の下部に、それぞれ穴を空けサンドペーパーで綺麗に研磨けんましたのち、二つの穴にバンジーコードを引っ掛けることでそれは完成した。


「これは?」


「日本に伝わる鎖鎌くさりがまを参考に、小柄な刹直セツナの体型にあった軽量武器として、形となる試作品でも簡単に作ってみたところだ。

 今朝けさのリンジーとの手合わせを見て、どうも接近戦は向いてないことが分かったから、リーチをおぎなう手としてここは一つ、伸縮自在のバンジーコードをチョイスした。

 鎖に比べてはるかに軽く、それでいて伸びる分、繋がれた片方の薄鎌を放り投げての攻撃は、鎖以上に距離が取れる。

 とは言えこの武器では、放り投げた薄鎌がバンジーコードの伸縮によって、自分の元にやいばが返ってくる危険性があることは確か。

 だがあの時やって見せた、実体化する例の影の力を持ってすれば、それをカバーすることは可能な筈。

 念の為、こんなのは一種の気休めに過ぎないが、この薄鎌の持ち手は滑り止め使用にもなっている。

 ひとまず刹直セツナがこれを使いこなせるか、こいつを使ってもう一度リンジーと手合わせさせるとしよう」


「それも良いですが、私の方から一つお伝えしたいことが」


なんだ、言ってみろ」


「先程私が買い出しにった際、一人の謎の神眼者しんがんしゃ遭遇そうぐうをし、なんとかくことには成功したのですが、まだこの近くにいる可能性もありますゆえ。

 お庭の中とは言え、外へ出る際には警戒をおこたらない方が良いかと」


「……ほぅ、神眼者であるか。そいつは面白い」


 狐耳の中に仕込まれた、小型カメラの中身を確認していないブシュラは、少し驚いた様子をみせる。


「さてはお嬢様、よからぬ事をお考えで?」


「さぁ、どうだろうな」


「お嬢様もこくなお方です」


「ふッ……―――さて、実験の開始だ。

 行くぞ、ジョジョ・ユ=ルナール」


 そうして二人は刹直セツナと使用人のリンジーがいる、屋敷の一階へと戻るのだった。

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