⒊ 視忍(5) 殺っちゃう?

「ここなら、ひとまずおそってはない筈よ」


 道中――、未予の【未来視ビジョン】の力を駆使して例の人物の行く手を避けるように移動したその先で二人が辿り着いた場所とは………まさかの、悠人が明日からお世話になるバイト先のスーパーマーケットであった。


「確かに人が集まる室内なら、相手もうかつに手出しをしないとは思うが……、寄りにもよってこの場所に逃げ込むことになるなんてな」


「ここのスーパーがどうかしたのかしら?」


「……実はな、ここは明日から俺がバイトするお店なんだ。それだから、前日にあまり目立つような行動は極力きょくりょく避けたいのだが…………」


「成る程………、事情は分かったわ。けれど私たちは今、命を狙われている身―――。

 悪いけど、そんなことを気にしていられる程、おちおち場所なんて考えていられないわ」


「そりゃあ、そうだけどよ………だぁぁ―――っ、くそッたれっ!どうか奴が来ませんように……………」


「奴が来たわ」


 彼の願いは一瞬にして砕かれ、店内へと入って来る斬月の姿を目にした未予がそう言った。


 慌てて調味料が並ぶ一角のコーナーへと身を潜めた未予と悠人。


「げっ!マジかよ。追い掛けて来るとか依然いぜんにあの格好で店内に入るってどういう奴だよ。

 そこはしのびらしくNEMTDネムテッド-PCを着て、一般人にりすますだけのことはしろよ。あんな忍ばない忍者がいていいのか?」


「色々とツッコんでいる場合じゃないわ。敵が私たちをぎ付けて、ここまで追い掛けてきたのよ。少しは危機きき感ってものが無いのかしら?」


「なんというかあんなマヌケっぷりを目にしたら、ちょっと驚異きょういが薄れちまいそうな自分が、いたりいなかったり…………

 ……まあでも、こちら側からしたらかえって目立ってくれるのは、それだけ奴を見逃すリスクが減ることだし?――ありがたいと言えば、ありがたいけどな」


「そうね。でも如何いかにして、ここを出られるかそこが難題よ」


 彼女がそう言うのも無理はない。


 あろうことかこのスーパー、小さい造りな上に出入り口が一つしか無いのである。


 そもそもそのことに対して、いちいち文句を言っていられる状況では無い。


 斬月ざんげつは二人を探すように、辺りをキョロキョロと見回していた。


 場違いな格好にお店にいた人達は目の前の野菜や魚等を差し置いて、物珍しそうに彼女の方へと視線を向けている。


 斬月はその原因がいまいちピンと来ず、一人頭をかしげていた。


 それにもう一つ問題なのが、両腕に備え付けられた十字型手裏剣。


 これについては本物かどうか、素人の目にはさっぱりな訳で………


 ただただ不思議な子がいるという、主婦たちの都合の良い解釈とあからさまに関わり合いにならないよう、目を背ける様子を見せていた店員たちの対応が大きな要因となり――


 まぁ……分からないでも無い周囲の無関心っぷりのおかげで、この格好でも不審人物扱いとして追放ついほうされるようなことは無かった。


「えっと、彼は何処どこでしょうか?」


 すでに目立ちまくりの彼女だが、これだけの人が集まった空間において軽率けいそつな行動は控えるべきだと――


 むやみに食品棚を飛び越え、手っ取り早く悠人たちを探すのではなく、順当に店内を回って探し始めた。


「……なんだ、あれ?随分と間抜けな格好して、簡単に仕留められそうじゃね?」


っちゃう?」


 何やらヒソヒソと話す二人組の女性客。


 そんな彼女たちの横を斬月が過ぎ去ろうとした時だった。


 先に――神眼者斬月の存在に目がった片割れの短髪少女ショートヘアが連れ添いの双髪少女ツインテールに向かって、何やら左手を差し伸べる。


 すると双髪少女ツインテールは彼女の左手を右手で取り合ってはその直後、短髪少女ショートヘアし、能力を発動。


 だが周囲には何も変化が起こらず、そのまま双髪少女ツインテールが斬月の目を奪おうと、背後からもう片方の左手を静かに伸ばしていく。


 はっと危険を察知さっちした斬月は即座に少しだけ横へとび、から避けた。


(さっきそこにいた人が消えている………?)


 いな、それはすぐそこにいる筈なのに、姿をとらえることが出来ないという方が正しい。


 短髪少女ショートヘアが使った目力めぢからは、開眼している間だけ自分の存在を周囲の人の目にとらえなくさせる、言うなれば視覚的に捉えることの出来ない【認識阻害にんしきそがい】を起こしていた。


 双髪少女ツインテールまで姿が見えなくなったのはその能力の効果性にあり、能力の発動中にれた相手の存在もまた、とらえられないように出来る……。


 ……なんてのは短髪少女ショートヘアが馴れ合いしている双髪少女ツインテールに始めて自身の持つ能力の説明した時に言った建前上でその実――、


 使い手以外の姿も一緒に見えないようにする為には、常にその相手の存在を視界に捉え続けていないとならず、適当に動かれてしまっては目で追うのも一層大変になることが目に見えている訳で………


 手っ取り早く手を繋ぐことで必然的に距離が近くなる為、最小限の視線移動で双髪少女ツインテールを常に目で追えるというものである。


「あいつ、どうしたんだ?……何か様子が可笑おかしいぞ?」


「良く分からないけど、周囲に目をくばっていない今がチャンスよ。さっさとここを出ましょう」


「そうだな」


 斬月の様子を見ていた悠人と未予は、これをに店を出るのであった。


 それからというもの、斬月は姿の見えない二人の彼女から逃れるように、周囲の目を気にせず、悠人たちを探しながら走り出した。


「ちょっと、お客様。店内では走らないで下さい」


 あらかた店内を、グルッと一周した頃だろうか――。


 一人の店員が呼び止めようとすると、斬月は身長百八十センチはある、男性店員の頭上を軽々と飛び越え、そのままスルーするかのように立ち去っていった。


「……ちょっ、なんだあいつ」


「……そう言えば、前にリストで忍者がどうとかって」


「……あれマジ情報だったわけ?」


「……とにかく追い掛けるしかないじゃん」


 周囲の人間に話し声が聞こえないよう、小声で会話をする二人。


 そして彼女たちも同様に店内から出て行くのであった。

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