⒊ 視忍(4) 恩は仇で返される
体力が続く限り、走って走って走り続ける。
「くそっ、
彼を追い掛けるのはパンダ耳のような髪型をした、両腕にマフラーを巻いた一人の少女。
「貴方が
ただあの時は空腹でまともに動けそうになかったことといい――、あの時点ではまだ、ゲーム開始時刻になっていませんでしたので……って私なんかが生き抜く為とはいえ、貴方から目を奪うなんて良くないですよね」
「ちょっ待っ……、それ言っていることとやろうとしていることが、矛盾しているじゃねぇか」
悠人は住宅街を駆けて行きながら、必死に彼女の視界から外れようと逃げ回るのだが、奴は時として
「意外にも足がお早いのですね」
「いつでも
……っ、つーかお前、絶対本気出して無いだろ。さっきから見せる動き、本気で捕らえる動きじゃねぇじゃんか。俺をおちょくってて楽しいかよおい!」
「一応、私の飢えを救ってくれたお人ですから、少しの間の
「慈悲って言うのなら、そもそも俺を追い掛けるのを止めやがれってんだ。このっ、こんチクショウがッ!」
そんなやり取りをしながら逃げ続けている内、いつしか彼の目の前にはブロック
「おいおい、嘘だろ………」
実はおちょくっていた訳でも、ふざけていた訳でも無く、彼をこの場所に誘い込むことこそが彼女の狙いであった。
行き場を失った彼は周囲を見回し、どうにかして逃げ道になりそうなところを探そうと必死になるが、左にブロック塀、右には
「やばい、このままでは………」
焦り出す悠人の前に、直後救いの手が差し伸べられた。
「こっちよ」
彼はその声が聞こえた方へと目を向けると、そこには自動販売機が死角となって見つけにくい位置にあった、金網フェンスの破れ穴から顔を出す
「おまっ、どうしてここに………」
「良いから、早くここを離れるわよ」
彼は急いで子供一人通り抜け出来るくらいの大きさはあったその破れ穴から
こうして二人は
「未予、その……どうしてあんなところに…………」
「聞くまでもないわ。未来視で貴方が
「そうか、おかげで助かったよ」
「でもまだ、油断は禁物よ。【
「そういや時々、壁を蹴り上げてジャンプしながら移動していたり、軽々とブロック塀を飛び越えたりなんかして、散々追い掛け続けていたな」
「まるで忍者ね」
「……そう、だな」
一瞬、黙り込んだ彼を不思議に思った未予は問いかけた。
「何か思うことでもあるのかしら?」
「実はさっき俺を追ってきた彼女、今朝の登校中に一度出くわしていてな。
腹が減っていたみたいで近所の神社前に座り込んでてさ、一目見て
その場では俺に感謝していたけど、自分の命が
「そんなの、始めから予想出来た筈よ。それとも何?食べ物で人が釣れるとでも思ったのかしら?」
「何もそこまでは………」
「甘いわ。私たちは命賭けのゲームをしているのよ。恩を
「でも彼女はあの場で能力を使わなかった。そこにどんな意図があると言うんだ?」
「そうね……例えば、あの場では使いづらい能力?それとも貴方を
確かに《神眼者リスト》には、神眼者一人一人の事細かなデータが
「その手があったな。それじゃあ調べるとするか……って、あ――っ!」
「ちょっと、急に大声を上げないでくれるかしら?」
「いやそんなこと言ったって、この腕に付けられた
「それならリング内には掃除機のコードのように、引っ張り出すタイプの直結型ケーブルが
「いやいや、知らなかったわけじゃないんだ。ただ、充電していなかったのには、我が家の生活費に響くと言いますか……」
「ああ、貴方が貧乏だって話?」
「ちょっ、ストレートにそれ言っちゃう?」
「言うも何も、
その時に、妹さんが貴方のことや家庭に関する話を話していたのよ。『兄さんは常に私の前では不平不満言うこと無く、一生懸命家計を支えてくれる頑張り屋なんだ』って」
「あいつ……そんなこと言ってたのかよ。ああ、そうさ。二年前両親が死んでから、我が家は親が残したお金をどうにかやりくりして今日まできたんだ。そりゃあ、一切の
「誰か、頼れる人はいなかったのかしら?祖父に祖母、はたまた知り合いの一人や二人―」
「それは――」
彼は、何か思うことがあったのだろう。
何せこんな生活をしているということは、それ相応の理由があってのこと――
「……俺には何もなかった。そりゃあ、身内にはいなくとも、
けどな、そいつら寄ってたかってこう言うんだ。
『貴方達を引き取ったら、私たち家族も不幸に見舞われそうで嫌だわ』ってな。
……正直うんざりしたよ。俺や紫乃だって、好きでこんな生活をしているわけじゃない。
俺たち
「もう良いわ、そのくらいで。理由は十分に伝わったから」
「……くそっ!それもこれもあんなゲームに巻き込まれちまったせいで、余計に気が
「本当にごめんなさい。私も色々と言い過ぎてしまうところがあったわ」
「それを自覚しているんだったら、人のことを深く入り込まないでもらえないか?
……無神経と言うか、色々と改善してもらえないとこの先、未予とやっていけるのかって少し不安にもなる」
「そう言われても、人ってそう簡単に変われるものじゃないのよ」
「まあ、すぐにそうしろなんて無理は言わないが………
あーくそッ、調子狂うぜ。なんか
「それなら、さっき余談している間に調べが付いているわ。これを見て」
言わずとも、未予はいつの間にか操作していた、
「
……ってちょっと待て!平安生まれの
それが本当なら、ざっと千年の間を生き抜いてきたってことじゃねぇか!」
「あの見た目から推測するに、当時若くしてこの世を去るも、神眼によって生き返った彼女はその頃の容姿をしたまま、今もなお生き続けていると言ったところかしら?」
「何てことだッ、ツイてねぇ………。俺達は今、そんな歴戦の忍相手に狙われていたってことかよ。そりゃあ、俺みたいな奴に能力を使うまでもないよな」
「
シュッ!
「これは………まさかッ、奴の攻撃なのか」
「刃で切り付けたような、見えない攻撃………まるで
「そんなこと、言っている場合じゃないだろ。
「かと言って攻撃範囲が分からない以上、デタラメに移動するのは危険過ぎるわ。だからここは、なるべく人を壁にしながら離れることにしましょう」
「言っていることはやばいが、逃げるにはそれしかない、か」
二人は
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