お風呂で見つけた

 私の家のお風呂は、まあ、特別大きくもなく小さくもないです。長方形の浴槽と、それと同じくらいの大きさの床部分があります。二人同時に入っても、冬なら寒くなってしまいますが、この時期ならば、なんら問題ありません。

 私は意識的に月葉から目を離して身体を洗い流していたのですが、なぜか月葉が私のことをじっと視てくるものですから、私は洗うことに集中できません。私が髪を洗い流した頃にはもう、月葉は全身を洗い終え、湯船へと入りました。


「一番風呂もーらいっと。朱音は洗うの遅いねー」

「月葉は髪が短いですからね。私の髪、これでも手入れは大変なんですよ」


 月葉のウェーブのかかった髪は天然ものです。私は昔、いいなーと言っていた記憶があります。でも、私のストレートも月葉に羨ましいと思わせたから、私は私のこの髪を大好きになりました。

 もちろん、一番は月葉ですが。


「…」


 石鹸を手にとって身体を洗い始めると、途切れることの無い視線が、私に向けられました。もちろん、月葉からのものです。


「ど、どうかしたのですか?」

「ん? なんで?」

「いや、だってさっきから私の身体を……」


 はっ!

 もしかしたら見ていたのは別の場所なのでは……

 いや、そもそも見ていたのではなくてぼーっとしていただけとか。そっちの方が納得がいきます。

 だとしたら、私はなんと恥ずかしい勘違いを……。

 ……いいえ、まだです。まだ誤魔化せます。


「朱音? そんなに厳しい顔して、どうした……の?」

「な、なんでもないですよ! ただ、身体をじろじろと見るのはどうかなあと……。そう思っただけです!」


 間違えました。まずいです。まずいです。何一つ変えることなく言ってしまいました。

 ですが、冷静さを欠くわけにもいきません。次の月葉の言葉にたいして上手に返せば……


「そ、そんなに見てなかったよ! ちょっとは見てたかもだけど、ホントに。うん、ホントに」


 えっと、……ということは?

 見ていたのは事実ということでしたか。

……ならば、振り回されたお返しです。からかってやります。


「そんなこと言って、実は凝視してたんでしょ。ほくろの数でも数えようとしてたとか?」


 って、それは私だ!


「(ピンポイントであててくるとか、わかってやってるとしか……。)も、もう出る!」


「あ、……はい。タオルは出て右です」


 月葉が浴槽から出るために立ち上がったことで、月葉の全身が露になりました。そのとき私はあるものを見つけました。


「そのあざはどうしたのですか?」

「え? あざって、どこ?」

「おしりの所です」

「え!? おし……り? どのあたりなの!?」


 はっ!

 今度は私がおしりばかり見ていたと思われてしまったかもしれません。ここは弁明しないと……。


「いや、見つけたのはたまたま視界に入ったからですよ! 別に、見ようとしたわけではないんです」

「わかってるよ。それで、どのあたり?」


 あ、全然気にしていないみたいですね。


「えっと……、ここです」


 そう言いながら指をおしりの山の近くをさしたとき、ちょうど月葉が動いたものですから、私の指は月葉の柔らかい山をつつくかたちになってしまいました。


「ひゃっ……! ちょ……、朱音! なにするの!?」

「あっいえ、ごめんなさい。当たってしまっただけなんです」

「もう! 朱音、私がおしり弱いの知ってるでしょ! こういうのやめてよ!」


 そんなことものすごく初耳ですが、今後のために覚えておきましょう。……今後ってなんですか!? なに考えているんですか私は!


「し、知りませんよ! 月葉が何処かって言ったから私は教えようとしたんですよ! それなのに、……うぅ」

「あっ、ごめんね! そうだよね。朱音がそんなことするはずないもんね。謝らなきゃだよね。ごめんね朱音~」


 月葉はうわーんと泣きながら、私に許しを請おうと抱きついてきました。

 でもごめんなさい。私には月葉に触りたいという気持ちが大いにありました。そしてごめんなさい。今、あなたの腕とか胸とか脚とかが私の肌に直接触れて、とてもどきどきしています。

 私のフリーな腕は月葉の後ろへと回しました。そこでがっちりと組んで、離さないように。月葉じゃなくて私の理性をです。

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