眠れない
お風呂をあがっても、まだ私の身体はぽかぽかにあたたかくて、なかなか服を着られません。月葉が全身に衣を纏いきって、かつドライヤーもかけ終わった頃にはまだ、私はパンツしかはいていませんでした。
私が遅かったのもありますが、月葉が速すぎたというのもあります。お互いに対する意識が別の形ででてしまったのでしょうか。
「着替え終わったし、先に出てるね」
「はい、それなら私の部屋で待っていてください。水は冷蔵庫から勝手に出してもらっても構いませんので」
「了解っ!」
月葉は脱衣所の扉をそっと開けて、誰もいないことを確認してから大きく開けて、出ていきました。まだ、ほとんど裸の私に配慮してでしょう。
こんなさりげない優しさも、私が月葉に惚れた理由のひとつです。
月葉が出てからは、いつも通りとまではいかずとも、普段に近いペースで着替えられました。
ドライヤーをかけるときの音はとてもうるさくて、一人っきりのこの空間で、余計に私を孤立させます。だからこそ見えてくるものもあるから、私は長い髪を乾かす間に、考え事をするのです。
たぶんだけど、月葉は私に隠し事をしている。
私が知ったらなにかが崩れてしまうのかもしれないけれど、言って欲しいという気持ちもある。だから私は今日、映画のときに尋ねようとした。尋ねようと……した。
だけど、崩れてしまうのが恐ろしくて私には手が出せなかった。
いっそのこと杞憂であったらいいのに。
なにもなければいい。なにも悪いことがなければ。私にも、月葉にも。
それがわからない間は、その決心は決まらない。
私の長い髪を乾かすのには時間がかかってしまったので、月葉より10分ほどおくれて脱衣所を出ました。
リビングに入ると、私の妹の澄が帰ってきていました。
「あ、お姉ちゃ。ただいま」
「お帰りなさい。……あれっ? お母さんは?」
「なんか、コンビニ行ったよ。プリン買ってくるって。私も欲しいって言っておいたけど、お姉ちゃも欲しかった?」
「いや、私は大丈夫です。その、太っちゃうし……」
母も妹も太りにくい体質で、非常に羨ましく思います。私はすぐ体重が増えるから気をつかってばかりいるのがちょうど良いです。
「……さっすが、恋する乙女は違うねー」
「そ、そういう問題ではないですよ!」
「そう? まあいいけど。あ、いくら月葉ちゃんが隣に寝てるからって襲っちゃだめだよ」
「襲いませんよ!」
まったく、何を言い出すんですかこの子は。母の影響をもろに受けた子の末路でしょうか。私も一歩違えばこんな感じに……
「だけどさあ、考えてみてよ。大好きな人がだよ? 無防備にも服をはだけさせて、同じ布団で寝ているんだよ? 変な気持ちになるなってのも無理な話じゃない?」
服がはだけた月葉、同じ布団で。「いい……よ?」なんて言われて……。
「一度考えておいて良かったでしょ?」
「まあ……はい。これである程度の耐性はできたと思います」
結局は私もあの母の娘で、この子の姉です。血には抗えませんでした。
「それはよかった。月葉ちゃんに嫌われたらお姉ちゃ、いきる意味とは……って言いかねないからこわいよ」
「いくらなんでもそこまでは……」
「いやいや、全然あるから」
「む……」
ここで否定できない時点で私の負けです。私には少なからず心当たりがあります。
「じゃあ私はお風呂入ってくるね。……お風呂で既に変なことしてないよね?」
「してません!」
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