おみやげ
随分と空に雲が多くなった。これなら外も歩きやすい。
昼を食べ終えて、そのあと、私と月葉が次に来たのはお土産屋さん。
一泊のこの旅行なら一日目になにか買っても、消費期限とかの問題はあまりない。それと、お土産屋さんで自分用を買うのもありだ。たくさん買ってしまわないように気を付けていないと、財布はすぐに軽くなってしまう。
「月葉は何を買いたいの?」
「家へのお土産だよ。お父さんとお母さんでしょ。お姉ちゃんにもだし、それに八尋にも」
「たくさん必要になるね」
お土産を選ぶのを楽しむことは、私にも覚えがある。土産選びは億劫だと思うこともあるけど、これはその人に渡したいって気持ちがない時だ。つきあいで渡すものだったりそういうのは楽しくない。
「どれがいいかなぁー。やっぱり食べ物?」
今日は月葉と一緒。月葉へのお土産を選ぶ機会はないけれど、過ぎる時間の全てが楽しい。
とはいえ私にだって大切な人は月葉のほかにもいる。お母さんと妹に土産期待してるよって言われているのだ。
「えーと」
呟きながら店内を見渡す。アクセサリーやこの場所限定のお土産のお菓子とか、ここに行ってきたよという報告にぴったりなお土産が陳列されている。
「いろいろな物があるんだねー」
「そうだね」
「特にお菓子がさー」
月葉は新しいものを見る小さな子供のように目を光らせている。いや、実際そうなのか。
新しいものなんだ。月葉にとっては。
「えっ、これこんなに高いの!?」
「あまり大きな声で言わないで。わかるけど」
今度は梅干しサイズの置物が1000円もすることに驚いている。私も驚いたけど月葉の反応が大げさでおもしろい。
私は注意しながらも笑ってしまった。
手を口に当てはっとなりながら気づく。時間は過ぎていくのにちっとも土産を決められていない。
こうなってしまうから月葉ばかり見てられない。私もお土産のこと考えないと。
「うーん」
これは、ハンカチかな。タオルじゃないやつ。
薄い緑をベースにして、青い花が描かれている。小さく折り畳んであるから、全体は掴めない。
それでも、とても気に入った。
月葉にも見せてみようと思い、後ろでお菓子を見ていた月葉の横に並んで顔を覗く。そうすると、月葉がなにか悩んでいるということに気がついた。
「どうしたの?」
ぽんと、月葉の肩に手をのせて、私は尋ねてみる。
ちょっとだけ驚いた様子で月葉は身を震わせるが、月葉は私に気づくとすぐに口を開いた。
「どっちを買おうかな~、って悩んでたの。こっちの抹茶クッキーか、こっちのチョコレートお菓子かで迷ってて」
家族のお土産か。どちらも月葉の好むものだから選んだのだろう。家へのお土産なら、月葉自身も食べられるし。
「どっちがいいかな。朱音はどっちがいいと思う?」
「私?」
「うん」
どっちがいいといわれても困る。
月葉の家族の食の好みまでは把握していないという点でもそうなんだけど、私的にはどちらも好きなものだし、お土産にする上で障害があるものでもない。甲乙をつけるポイントがない。
「うーん、チョコの方が良いんじゃない? なんとなくだけど」
「朱音が言うならそうしよーっと」
そう言って、月葉はあっさりとチョコのお菓子の方を手にとった。
「朱音はなにか悩んでいないかい? 私でよければ相談にのりますよ?」
月葉は少しおどけた調子でそう言う。
そんな月葉の元気な姿に、私はちょっと笑いそうになりながら、相談することになり得るような悩み事がないかをちょっと真剣に考えてみたりしてみる。
頭に浮かんだ悩みは、決してまだ口にはできないもので、世界にいる誰よりも月葉にだけは言えないことだった。ゆえに私は頭からそれを振り切るように思考を飛ばし、五感が私を支配してようやく右手に持っていたハンカチを思い出した。
「なら、相談ではないけど、私の気に入った物を見てくれない?」
私は月葉に、買おうと思ってさっき手に取ったハンカチを見せた。
きっと、月葉はいいねと言ってくれる。私と月葉の趣向は似ているから。そう思って見せたハンカチ。
結果として、やはり私は予想と大差ない反応を受け取り、それに私は笑って言葉を返し、月葉もいい笑顔を私にくれた。
いつも月葉がくれる笑顔。それが戻ってきた。
でも、私の望みはそんないつも通りじゃない。私がほんとうに欲しいのはもっと違う場所。
けれど踏み込んでしまえば、沼にはまっていくみたいに今の場所には戻れなくなるかもしれない。月葉と過ごす時間は私が大好きな時間だから、余計に躊躇ってしまう。
前に進むにはあまりにも、私の勇気が足りなさすぎる。
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