商店街にて
月葉にとっては屋根があってもそれが日を遮るものでないのなら傘をささない理由にならない。
商店街に来た。公園から5分ほどの距離だから、バスを使わずに歩いた。私はバスで行こうと提案したのだが月葉が歩きたい気分と言って聞かなかったのだ。
この商店街の一番大きな通りであるここには透明な屋根が張られていて、雨風はふせげるのだが太陽光まではどうしようもない。月葉にとっては何よりも防がねばならないものなのに。
「写真はどこで撮ろうか」
私たちは何となく歩いてはいるが、商店街に来てからまだカメラを取り出してすらいない。
「うーん。適当に?」
月葉は笑って私に甘える。
ここは旅行先だ。もちろん行ったことのない未知の場所なので、探索は手探り状態。
そんな中で、日傘片手に歩き回る月葉は、ずっと目を輝かせている。
月葉にとって旅行すること、遠出することは滅多にないことだ。学校行事である遠足も参加したりしなかったりというほどだったから。
「あ。あれ見たい!」
月葉はそう言ってすぐに、今覗いていたお土産屋さんの向かいにある、バッグが店頭に並んでいる店へと入っていく。
日傘をたたむのは手慣れているみたいで、折り畳み式なのにてきぱきとたたんでのける。それはもう見事な動き。
「ちょっと待ってよ」
私は月葉に置いていかれないように月葉の元へ走る。走っても走っても追い付けなくなる前に追いつかないと。
私も後を追うようにして入った店には、私たちのお揃いで持ってるピンクのバッグのようなチャーミングな物ではなく、ゴシックホラーな雰囲気のものばかりが売られていた。
「つ、月葉ってこういうの好きなんですか……?」
「え? 好きだよ。かわいいじゃん」
月葉に意外な趣味が……と思ったら、持っているのはヴァンパイアになりきった熊のぬいぐるみ。
一見すると怖そうだが、その表情は穏やかで優しさすらみえる。かわいいと言うのも頷ける。
「どう?」
「どうとは?」
「欲しくならない?」
「うーん。かわいいとは思うけど私なら」
と言いながら辺りを見回す。よく見て言ったのちに、私はかっこいいバッグを見つけて月葉に見せた。
「このバッグとかよくない?」
黒を主においたデザインで大きめのファスナーがついてる。
「かっこいいかなって思ったんだけど……私に似合うかな?」
私がかっこいいと思ったバッグを肩にかけながら月葉に見せる。
月葉の返事を笑顔で待った。
「似合わない」
そ、即答……!?
「そんなにダメですか」
かっこいいと思ったのに、そんなにダメと言われると少しショック。言われたのが月葉だからなおさら。奈由菜なら落ち込まないのに。
「……そうじゃなくて」
私があからさまに落ち込む表情をしてしまったと自覚したところで、月葉は私をフォローしようと言葉を選ぼうとするのがわかる。
「いや、似合わないなら、そう言ってもらえる方が助かりますし」
ちょっと……いや、かなりダメージはあるがこれが私にとって一番いい答え。はっきり言ってくれるのは嬉しいこと──
「違うの!」
私が自己の中で解決を促していると、月葉は大きな声で私の顔を上げさせた。
「な、なに?」
ちょっと驚いて私はたじろいた。
「私と一緒じゃなくなるのは嫌……。だって、折角のお揃いのこのこのカバン。使ってくれなくなるんじゃないかなって思っちゃって……」
月葉はピンクのバッグで顔を隠しながら、弱々しい声を放った。
「顔赤くしてるのすごくかわいい」
「い、言うなー! というか見えてないでしょ!」
「声音でわかるよ」
きっと顔を真っ赤にしているだろう。それくらいには恥ずかしいと思うもの、今のセリフ。
「……私の顔見ないでよ」
「わかった。月葉だけ恥ずかしいんじゃ不公平だし私も恥ずかしいこと言うよ。このバッグはさ、ずっと繋がっていられる証でしょ。あの時の誓いの言葉言い直してあげるよ」
私と月葉でおそろいのバッグを買って、誓いの道具にした記憶は新しい。その時にはなった言葉は覚えている。この提案も月葉からだった。
この誓いも死ぬほど恥ずかしかった。こういうのを提案してくるあたり、月葉は恥じることに何かの趣を感じるような特殊な性癖でも持っているのだろうかと疑う。
「この誓いのしるしがある限り、いやこれが消し炭になったとしても私たちは離れないように一緒にいよう」
「もう一回言って」
「嫌。ほら、次いこ」
単にこういうなんていうかロマンティックな感じ?の言葉が好きなんだろうな。
「待ってて。これだけ買ってくる」
月葉は私にどうかなと言って見せたヴァンパイア熊の小さなぬいぐるみだけを買った。
私のバッグのデザインはピンクの無地である。
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