2話 挽きますよ

「どうしたんですかその装備?」


 俺がもっとも接客をしている冒険者のおっさんーーガールドが、どうにも新調したらしい装備を身につけていた。それも見る限りかなり高額のもので、魔術刻印? なるものが施されている。


 ガールドは無精髭を生やしたおっさんで、かなりの頻度でここに入り浸っている。なのだが、いつの間にこんな高額装備を揃えられるほどの大金を稼いだのか。貯金なんてする柄じゃないだろうし。


 この迷宮都市では珍しくもないレベルの装備だけど(かなり見かける)、それでも高額だったはずだ。この街の平均が高く目が肥えている。


 注文のビールを持っていくとガールドは得意げな表情を見せ、滑舌は悪いが明朗な声色で答えた。


「聞いてくれよぉカナデちゃん。この間ようやく三級冒険者に上がってよぉう。そんで三級から受けられる依頼を受けたらこの通り、あっという間に稼げちまったよ」

「ほえー。三級に昇級したんですか。おめでとうございますガールドさん」


 冒険者にも階級があるらしいのだが、三級とはいかほどのものなのかはわからない。だって俺はただのウェイトレスだし、冒険者とこうして話すもそこまでのことは話さない。酔っ払いがほとんどだ。


「いやぁやっと上級冒険者の仲間入りだよ」

「上級冒険者?」

「ありゃ、知らないのカナデちゃん」

「知りませんよ。わたし、ホール担当で一ヶ月前に来たばっかですもん」

「そっかそっか。そりゃあ知らなくても仕方ないな」


 まあ、冒険者には興味もなかったしな。でもここに来て、こんなにも稼ぎが良さそうだと少し惹かれてしまうな。


「冒険者には階級があんのは知ってんだろう」

「はい、一応それくらいは」

「初級冒険者って呼ばれるのが最下級の七級と六級。中級冒険者が五級と四級。んで、上級冒険者が三級と二級級ってわけさ。まあ上には最上級冒険者として一級様がいるし、特別な権利を持つ特級なんてある話も聞くな」

「へえ。じゃあガールド様は凄いんですね」

「そうなんだよぉ。これでもおっちゃん凄えほうなんだよ」


 上級冒険者になってようやくここまで稼げるわけか。これは、思っていたよりも冒険者は大変そうだな。普通に暮らす分には下級でも大丈夫かもしれないが、冒険者なんて普通に暮らすためにやるものじゃないだろうし。


 やっぱり、コツコツと稼いで貯めるしかなさそうだな。


「ガールド、カナデちゃんを独り占めしてんじゃねえよ」

「痛えな。お前らが来んのが遅かったからだろうが」

「はいはい。喧嘩はよしてください。みなさんビールでいいですか?」

「おう、よろしく頼むよカナデちゃん」

「あ、俺も追加でよろしく」

「俺はカナデちゃんをーー」

「ご注文承りました。少々お待ちください」

「無視ぃ!?」


 変態も多くて一人で冒険者になるのも怖いし。

 俺はガールドさんとその飲み仲間達のテーブルを後に、せっせと働きに戻った。



 ***



 昼休み、女性職員と一緒に昼食をとっているとリディアさんが来た。いつもはリディアさんも一緒に昼食をとるのだが、今日は時間が合わなかったのだ。


「カナデちゃんちょっといい?」

「どうかしたんですか?」

「支部長が呼んでるの」

「えぇ……」


 支部長がお呼びとは、どう考えても嫌な予感しかしない。だってアレン事件(とりあえずそう呼称してる、それっぽいから)を解決して報酬をたっぷりと貰って以来、どうにも支部長が優しくしてくるのだ。


 いやね、俺も優しくされるのは慣れてるんだよ。けど支部長の優しさはなんていうか、そう、面倒事を押し付けるために媚びを売ってくる奴、みたいな優しさだ。それも上司だったり微妙に親しい人からの。

 勘だけど、侮れない。でも、断れない。


「わかりました……行きます」

「嫌ですオーラが凄いけど大丈夫?」

「はい」


 そうだ、こうなったら腹をくくるしかない。もし面倒事なら、今度はもっとふんだくってやればいいんだ。俺のオシャレ資金の足しにしてやる。


「じゃあ早くいきましょうリディアさん。支部長さんを待たせてはダメですから」

「だね」

「ということなので、少し席を外します」

「うん、私達も食べたら仕事に戻ってるね」

「はい」


 俺はお姉さま方との昼食から席を外し、リディアさんと一緒に支部長室へと向かった。

 こうも支部長室に呼び出されるのは俺くらいじゃないだろうか。いや、別に悪いこと意味ではない。


 そもそも支部長室に用がある者を挙げるなら、協会のそれぞれの役割の長のみだ。あとは副支部長だったり、秘書であったり、茶などを運ぶ者くらい。


 リディアさんは受付嬢の責任者。リディアさんも結構若いはずだが、受付嬢は総じて若い。だからそこまで違和感はないが、それにしても随分と出世している。

 対する俺はホールの下っ端だ。ホールは責任者であるフレンシスさんもバリバリ働いているから、そこまで上下関係が目に見えるわけじゃない。けど、フレンシスさんがいる時の安心感はハンパないために、精神的支柱だ。ホント。


 ここまで来て思うのが、リディアさんと俺ってどれくらい給料が違うのだろうか。今リディアさんと暮らしている部屋だって結構いい部屋そうだし、それなりに貰っていると思うんだけど。

 なら、このままホールで働いて責任者まで登り詰める方が堅実なのか? その方がより安定的に稼げるのか。


 そんな未来設計を軽ーく考えていればもう支部長だ。……いや、というか考え過ぎじゃね? もう思考が加速してるよ。金のことになる俺、もしかしたら能力が上がるのかも。我ながら、なんてことだ。


「カナデちゃん大丈夫? なんか難しい顔してたけど」

「大丈夫です。自分の腹黒さを再認識してただけですから」

「そう?……それはどう反応したらいいかわからないけど、大丈夫。どんなカナデちゃんもかわいいよ!」

「ありがとうございます。部屋、入りましょうか」

「うん」


 俺は身だしなみを改めて整えて、リディアさんも一応体裁を整えて、扉をノックした。


「リディアです。カナデちゃんを連れて来ました」

「どうぞ」

「失礼します」


 許可も得たので入室した。そして入室早々に、


「またあの姿になってくれないか」

「あの姿?」

「君の能力を確かめた時のだよ」

「ああ、あれですか。……ヘンタイ」

「ストレートに言うね!?」


 このヘンタイ支部長。最近優しかったのはそういうことだったのか?


「支部長、そんなことでカナデちゃんを呼んだんですか? 挽きますよ」

「君達遠慮がないね!というか挽くってなに、怖すぎるでしょう!? リディア君が言うと冗談ですまないからね!」

「なら、とっとと本題に入ってください」


 リディアさん最大の蔑みと脅しを以って、支部長はようやく本題に入るようだ。まあ、その蔑みだったりも支部長は悦びにしている気がしないでもないのだが。

 ……支部長への警戒レベル、上げておこう。


「今回私が君達を呼んだのはね、実を言うとまたお願いしたいんだ。カナデちゃんの能力を使うことを、ある人物にね」

「支部長じゃないですよね?」

「まあ、私にも使って欲しいが……って待った待った! その手に持った花瓶を下ろしてリディア君!」

「次はありません」

「わかったわかった」


 支部長、やっぱり悦んでるな。しかしそれ以上は危険だと悟ったのか、降参したかのように両手を上げため息を吐くと続きの言葉を言った。困り果てているかのように。


「対象の人物はグレッグ・フィルード。二級冒険者だ」


 どうやらめんどくさいことになりそうだ。そしてどこでフラグが立ったのだろうか。

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