二章 鈍才努力少女ミア

1話 金が欲しい

 俺の異世界生活に冒険はない。だって疲れるし、協会でちやほやされている方が楽しいから。


 冒険者のあんちゃん達は気前もいいし明るいはで、湯水が如く酒に肉に金を使ってくれる。もともとそんな感じだったのに、俺がそこに拍車をかけたものだから、飲食の売り上げは2倍近くになっていた。


 おかげで俺の懐も潤ってきている上、貯金もかなり出来るようになってきた。将来に向けて貯金するというのは、なかなかに快感だった。こう、貯まっていく感じが、増える0が喜びを与えてくれいた。


 そんなことをリビングで考えながらごろついていた。


 しかし、


「もっとお金稼ぐ方法ねえかなあ」

「急にどうしたのカナデちゃん」


 俺の呟きに返したのはもちろんリディアさんだ。

 アレンとの言葉の応酬をリディアさんは聞いていたわけで、するとその日の夜に「素のカナデちゃんもかわいいから普通にしていいよ」と言ってくれたのでそうすることにしていた。

 その後には「かわいいのに男っぽい言葉使いでいいよぉお」と、変態気質なのを垣間見せてくれたが。


「もっとおシャレしたいし、試したいこともあるし、金が欲しいなと」

「カナデちゃんもっとかわいくなっちゃうの!?」

「あたりまえじゃん。今まではすっぴんだったけど、化粧道具があったらさらにかわいくなれるよ」

「スッピン? ケショウドウグ?」

「化粧道具は綺麗になるための道具。スッピンは化粧道具を使ってないことだ」

「へー。そんなものがあるんだ」


 そう、この世界には化粧道具や化粧をするという概念がないみたいなのだ。もしかしたら、上流階級のお貴族たちには知られているのかもしれないが。それでも平民が化粧しているところを、少なくともセレントでは見ていない。


 化粧道具は女の子の必須アイテムだというのに、この世界にはないのだ。もちろん俺は化粧しなくてもかわいいが、手元にはあって欲しい。『萌え』を使って理想変化をした大人の姿の時には、あった方が色気も出しやすだろうし。


 しかし、化粧道具が発達していないのも納得出来るんだよなぁ。

 俺ほどではないにしろ、この街の人はみんな肌が綺麗だ。流石に冒険者だったり、多くの人の手は荒れたりしているが、それでも顔だったり腕は本当に綺麗な肌をしている。


 自然志向があたりまえという文化なのかもしれないが。それでも、やはり俺は化粧することを広めたい。だって楽しいし、選択肢は増えるべきだから。


「ああ。化粧道具をうまく使えば、もはや詐欺と差し支えないレベルで変化させることが出来る」

「じゃあ私も?」

「リディアさんは素材がいいから、軽くするだけで十分だよ」

「きゃあー、カナデちゃんに褒められたっ」


 リディアさんは身をよじり自分を抱きしめた。

 これは俺が抱きしめるのは苦しいからヤダと言ったら、渋々、仕方なくといった様子でやめたからだ。その反動として年頃の乙女にあるまじきリアクションとなった。


 しばらくして落ち着きを取り戻したリディアさんは話を戻した。


「まあ、もっとお金を稼ぐ方法がないことはないよ」

「なんか言いづらそうだな」

「うん。底辺と頂点の差はあるけど、冒険者はかなり稼げるよ」

「ああ、なるほどね」


 それは、そうだな。確かに冒険者達はかなり稼げるのだろう。だって毎晩のように呑んだくれているということは、そういうことだろう。稼ぎが良く、同時に散財もする。一流冒険者ともなればその稼ぎは果てしないものになるだろう。

 しかし、答えは決まっている。


「なら無理だな。この体だし、身体能力はそこらの子供に負ける。魔法も無理そうだしな」

「よかったよ。カナデちゃんが危険な目にあうのは、嫌だもん」

「俺も嫌だよ。危険は怖い」


 それに、この柔肌に傷ができたらどうするのだ。


 適当に話しいれば意外と時間は早く過ぎ、休日はあっという間に日暮れを迎えていた。


「そろそろお風呂入ろっかー」

「一緒に入るニュアンスになってるけど?」


 断じて、一緒に入ったことなどない。俺とて男だし女体を見たいとは思うが、それ以上に気を使いたい事があるのだ。


「入ろーよー」

「俺は一人で入りたいんだよ。お風呂っていうのは、美容の重要ポイントなんだから」

「うぅ、わかったよ。先に入るね」

「おう」


 リディアさんは風呂場に向かった。いつも最初にリディアさんが入り、その後に俺が入る。

 これはまあ、俺の入浴時間が長過ぎるので先に入ってもらうという理由だ。というか、リディアさんが女性のクセして入浴時間が異様に短い(差別的過ぎる意見かもしれないが、リディアさんは綺麗なのでもう少し気を使って欲しいだけだ)。


 こうして少しばかり考え事をしていれば、あっという間にリディアさんは風呂を出てきた。頬は赤くなってないし、髪も乾かされていない。……うう、俺の中の美容欲がぁ。


「どうぞー」


 リディアさんの間の抜けた声に促され、俺はとぼとぼと風呂に向かった。


 そもそも、リディアさんの中での風呂に対する認識が甘いっ! 風呂は健康・美容に欠かせないものなのに。


 風呂には様々な効果がある。


 まず、最も有名だと思われる『温熱作用』。これは熱により皮膚の毛細血管や皮膚下の血管が広がることにより、血流がよくなる。そうすると老廃物や疲労物質が除去され、また、コリもほぐれ疲れがとれるのだ。

 他には自律神経をコントロールする作用や、細胞が活性化され免疫力がアップする効果なども。


 次に、『水圧作用』。これは足に溜まっている血液が水圧によって戻されることで、血液の循環を促す。さらに腹部にかかる圧力が横隔膜を押し上げることで、肺の容量を減らし、呼吸の回数が増え心肺機能が高まる。


 そして『浮力作用』。これは本当に良い。お風呂に入ると浮力がかかり、体重は約9分の1になる。すると普段体を支えている筋肉や関節にかかる負担が減り、緊張からくる脳への負担が軽減される。

 目に見えないストレスから、体だけではなく心までもが解放されるのだ。


 他にも色々とある。それに入浴法だって。けど、お風呂に浸かっている今そんなことを考えているのも億劫になり、俺は湯船の中でふやけていった。


 まあ、長風呂は厳禁だからキッカリ10分で上がったんだけどね。


 それにお風呂から出た時は、胸までタオルで隠してたりする。

 これは、修学旅行で俺の裸に興奮してしまう男子に対する処置として施されたものだ。というか、強要された。苦肉の策として。

 もっともその後、女子風呂男子風呂と入浴が終わった後に、俺専用の時間が出来たんだが。


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