3話 今夜、楽しみね

 話しやすい相手になる、というのも萌えさせるには重要な要因になる。そして俺の聞き役に徹する事には慣れており(男子の自慢話、女子の恋話黒話等でだ)、だからかリディアさんもよく話してくれた。


 要約する。


 今日アレンは定期視察で訪れた。これは毎月の事で、冒険者協会セレント支部として領主にある程度の内情を報告する場だ。以前は領主が行なっていたが、近年では跡取りにするべく馬鹿息子アレンな任せているそうだ。

 さて、そんなアレン君は今日とんでもない事を口にしたらしい。


「この冒険者協会に課す税をかける事になった。これは父上の決定であり、変更はない。もちろん、緊急時の対応は今まで通りだ」


 もちろんこれに支部長もリディアさんも反対した。が、既に決定事項だという事でそれらは全く聞き入られず、譲歩の余地すらなかったそうだ。


 冒険者協会は多くの国多くの街にあるが、基本的に一般の商業とは違い税をかけられていない。もちろんこれにはそれ相応の対価がある。

 冒険者は魔物を狩り迷宮を巡る強者だ。彼らその戦闘力を活かして、活動拠点の街を守る役目を負う。冒険者協会はその統括指示をしている為、それが防衛奉仕として税の代わりになっているのだ。当然いつも呑んだくれているおっさんどもも、緊急時には防衛に駆り出させるのだ。

 加えて、このセレントには七大迷宮の1つがあり、その管理調査をするという面もある。


 だからこそ今回の領主側の宣告には不当性があった。


 一連の流れを聞き、1つ俺も訊いた。


「これって、本当に領主様の宣告なんですか?」

「え?」

「聞くところによるとですね、今回の宣告は領主様の決断をアレンが伝えたって形になりますよね? で、普段の行いが悪いらしいアレン、対してその父である領主様は悪印象がない。外部から来た人間からすると、アレン何かしてるように見えるんですけど」


 まあこれは、結構無理矢理な意見だ。だって領主が普通にそういうやつな可能性だってあるし、仮にいい奴でも何か思うところがありきでの今回の決断かもしれない。だから今の俺の指摘は、言葉通りの意図を持たせたわけじゃない。

 ただ、アレンの野郎に仕返しするためのある程の理言い分が欲しかっただけだ! 真実とかさどうでもよくてアレンに疑いを向けられれば俺が動きやすくなる、それだけ!

 ……我ながらかなり酷い言い草だ。


「確かにそうよね。……明日、支部長にも相談してみましょう」

「それ、わたしも付いていっていいですか?」

「うーん。いいよ。カナデちゃんの意見だし」

「ありがとうございます」


 ありがとうございます! よしよし、思った通りに話が進んだ。

 それよりも、


「だけどさっきの話でなんでアレンにイラついてたんですか? 」

「ああ。さっきの件もあるけどね。それよりもあいつ、私の胸見て尻見て、座ってる時はずっと腿に視線が行ってたの! あのエロ跡取り。それに、来るたび来るたび口説いてきて……。眼中にないわよっ!」


 そりゃ嫌だわ。リディアさん、スルースキルが低いんだな。かわいい人には必要だよ。

 やっぱりそこからまたしても愚痴が流れ流れ、我に返ったリディアさんは顔を赤くしていた。色々とお酒のせいだよ!




 ***




 リディアさんも二日酔いに悩まされることはなく、翌日もしっかりと出勤した。そして仕事が終わりリディアさんと俺は支部長室にいた。


「その可能性は考えているよ」


 昨日の話をそのまま(リディアさんの愚痴は抜いたが)支部長に伝えたところ、意外にもしっかりとした答えが返ってきた。


「ただ、ね。領主様に確認を取ろうにも、肝心の領主様が今王都にいるから」

「王都は遠いいんですか?」

「ここから半月は掛かるよ」

「だから領主様が帰って来るのを待つしかない、と」

「そうだ。納税は月末だしあと二週間。いやあ、参った。急な話が過ぎるよ」


 支部長はどうやら本当に参っているようで、というのも机の上には昨日は無かった資料が大量に積まれていて、予算の見直しをしていたらしい。

 これはどうやら思ったよりも深刻な事態だったらしい。個人的な仕返しをっ! と思ってはいたが、俺個人の問題に収まりきらない。が、上々です。大義名分が出来たも同然じゃないですか。


「この件、わたしにお任せください!」


 俺は切り出した。さあ、いっちょやってやろうではないか。


「どういうことだい?」

「わたしがアレンの調査をして、悪事の証拠を掴むんです」


 あるいは堕とす。


「君にそんなことができるのか?」

「わたしには固有能力があります」

「なっ、固有能力だって!?」

「カナデちゃん固有能力持ってたの!?」

「はい。『萌え』という固有能力です」

「モエ? ってなに?」

「まあ、効果を言うと変化へんげです」

「変化、ね」

「はい。まあもっとも、わたしの『萌え』は対象の理想のかわいいなどにに変化するというものですが」

「……」


 うーん? どうにもぱっとしない反応だ。まあこの能力の効果は体感してみないと分かりづらいのだろう。俺だって女神にかけるまでぱっとしなかったしな。


「じゃあ1つ試してみましょう」

「ああ、うん。構わないよ」

「では」


 対象はもちろん支部長。さあ、支部長の理想はいかほどに。


「『我写すは理想の萌えなり』」


 おお! 女神の時とは違って身体が光に包まれていく。ずしっと胸に重みが。それに目線が高くなっていく。うっ、服がキツいな。太ったわけじゃないよね?

 そして光は収まった。


「それ、は……」

「うん? さて、支部長の理想はどんなものでしょう」


 姿見の前に立つ。

 これは、エロい。いや元の俺の体が小さくて服が小さいっていうのがかなり作用してるな。

 胸はぱつんぱつん。フレンシスさんにも負けず劣らずなナイスバディで……、胸って重いな。髪は黒髪のままだけど、ショートくらいまで短くなっていた。それに目付きが厳しいというか、ややきつい雰囲気が出ている。まあ、美人さんだ。

 俺の制服がぱつんぱつんのムチムチなってしまった。……これ、後で支部長に請求しなきゃな。


「これが、支部長の理想の女性。本当に?」

「だそうですが、支部長審議のほどは?」


 リディアさんと俺は支部長に問う。

 支部長は固まったままで、視線はまあ俺の胸に。すげえ露骨。俺だからいいけど、普通だった嫌悪されるぞ。


「いいな」

「はい?」

「理想の女性そのものだって言ってんだ!」

「支部長!?」

「それは良かったです。けど、まだありますよ」


 そう、女神の時はメルの理想が俺だったからなのかもしれないが、支部長の理想になった今俺の頭にははっきりと浮かんでいる。

 それすなわち属性なり。容姿しかり性格しかり、それらを総合したもの。

 理想変化で容姿は完璧に再現された。そして今、性格の部分が頭に浮かんでいる。

 支部長……。


 俺は胸のボタンを2つほど開け、支部長に近づいた。ビクッとしていたが、ここは攻める。白く細い指を肩に絡め、軽く体重を乗せて背伸び。耳元に顔を近づければ囁くのみ。


「今夜、楽しみね」

「はぃいっ」

「ふふ」


 支部長はその場で硬直し、緊張からか冷や汗をかいていた。

 こんなもんかな。


「で、どうです支部長? わたしの固有能力の効果は」

「あ、ああ。いいんじゃない? うん、凄く良かったよ」

「支部長……」

「リ、リディア君! そんな目を向けない。仕方ないんだよ!」


 蔑みや視線を刺すリディアさんに必死の言い訳をする支部長。まあ、わかる通り、支部長の理想は『少しエロい黒髪ショートの巨乳美女』だったわけだ。


「それよりも支部長。これでアレンの身辺調査をしてもいいですか?」

「まあ、いいんだが。それってつまり」

「はい、ハニートラップですっ」


 俺は今、凄くいい笑顔をしていることだろう。だって、二人がこんなにも美人さんな俺の顔を見て、やや引いてるから。

 ……まあ、支部長は少しだけグッとくるものがあったらしく頬が緩んでいたが。



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