第五話-11

「――――――――許せなぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!!」


 大きく息を吸い込んで、思い切り叫んだ。


 突然叫んだのでみんなビックリしているが、そんなことは関係ない。


 一度爆発した怒りはそうそう収まりはしないのだ。


「ど、どうしたのですじゃ急に!?」


「急ではありません!!僕は数時間前からずっと怒りに震えていたのです!!でも!この怒りがもし間違いだったら申し訳ないな!とも思っていたのです!!しかし!!今の会話で、ちゃんと怒りをぶつけるべき相手が間違いではないと確信出来た今!!僕は怒りを爆発させているのです!!怒りエクスプロージョンです!!」


「確定しないと怒れないとか、本当に面倒な性格ね…」


「全くその通りですよねそーりゅん!自分でもそう思います!」


 怒りのテンションでそのまま同意してしまったが、今更止まらない。


「アイドルは……アイドルっていうのは、人類の至宝なんですよ!!!見るものすべてに笑顔を届ける平和の使者であるかのように!!最高の時間を与えてくれる、人生を救ってくれる存在!!……それを、自分たちに都合が悪いから殺そうだとか…………そんなことが許されると思ってるのか下衆めが!!下衆ゼープめが!!」


 久々に変なテンション出てるー!!


「そもそもアイドルに限らず、気に入らないから殺すなんてのはもう考え方からして下の下!!下衆で下劣で醜悪で卑しく愚かで低劣で……ああもう世界中の罵りを全てぶつけてやりたいくらいですよ!!

 そのうえで、殺そうとした相手がアイドルとなれば、それはもう許されざるにも程がある行為!!

 おのれ!!おのれゼープ国!ああもうなんて生意気な名前!贅沢だ!ゼープ国なんて名前は贅沢だ!おのれプコ!今日からお前の名前はプコだよ!!」


「落ち着くのだわご主人様!もはや何を言っているのだわ!?」


 何を言ってるかと言われれば、それはもう自分でもよく解らなくなっているので、聞いている人間が理解できなくて当然だ。


 けれど―――1つだけ、単純明快な事がある。


 それは――


「よし決めました!!僕はこれからもエイルドアンジュを全力で応援します!!」


 悩みはいつの間にか、怒りと、そして使命感に塗りつぶされた。


「ほ、本当ですじゃ!?」


「そうですとも!!このまま戦争が続いたら、さらに刺客を送りこんでくるかもしれない……それを防ぐためなら僕は出来る限りのことをしますし、それが戦争に繋がるのだとしたら――――僕も全力で戦います。戦争に勝つためではなく……大好きなアイドルを守るためにです!」


 今回のことで思い知った。


 僕は想像力が足りていなかったと。


 仮に戦争で負けたとしても、上に立つ人間が変わるだけなんじゃないか……どこかそんな風に考えていた。


 だって、あまりにも「戦争」と言うものに対して実感が無かったから。


 でも今回のように、自分に都合が悪い相手は殺してしまえば良いと、そんな考えの人間が上に立ったとしたら―――――考えるだけで寒気がする。


 お婆さんを失い泣いていたあの子みたいに、大切な人を失って悲しむ人が増えるのだろう……それを、僕の力で少しでも減らせるなら……それはとても価値のある「応援」なのかもしれない。


「ありがとうございますですじゃ!」


「良かったのだわ!嬉しいのだわ!」


「まあ……これからもよろしくお願いしますわ。ただし、下手な応援したら焼き焦がしますわよ!」


シュナイダーさん、ピロッパ、そしてマリカさんにお礼を言われて、なんだか少し照れくさい。


 ミサキさんはよく解ってないのか、「よろしくなー」と軽いノリだったけど、むしろそのくらいでちょうど良いや。


 レナンさんは……相変わらずなぜかちょっと泣きそうな顔で、それでも会釈してくれたので、迷惑がってはいない……と解釈しておこう。


 そしてそーりゅんは……こちらを見て、柔らかな笑顔を見せてくれたと思ったら――――そこからのウィンク!!


 はあああぁぁあ…!!


 なんたるキュート!!なんという天使…!


 一言も言わずに、ただウィンクするだけでこんなにも僕の心を幸せにしてくれるそーりゅんってやっぱり最高だ!!


 それを見ていたマリカさんが、対抗したいのかこちらに何度もウィンクっぽい事をしてきたのだけど……全然うまく出来てなくて、ほぼ両目をつぶっていたのがむしろ可愛かったのも、記憶にとどめておこうと思う。


「よーし、これから頑張ります!!」


 気合を入れて、自分の足をぱしーん!と叩いた。


「―――――――――いったぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁい!!!!」


 わーすーれーてーたーー!!!


 脚怪我してたの忘れてたぁぁぁぁぁーーー!!


 ひとしきり痛みにのたうちまわったのち……


「おのれ!!おのれプコめ!!許さんぞぉーー!!」


 恨みと決意を強める僕なのだった。



「……今のは、ただの自爆なのだわご主人様……」


「ゆ、許さんぞプコーー!!」






 そこから、僕らバロンス国の快進撃が始まった。


 戦争以外の時にもライブを行い、経験を重ねることでライブのパフォーマンスも、コールの一体感もどんどん高まってった。


 簡素だったステージにもセットが組まれるようになり、ライブの盛り上がりに華を添えている。


 それにより戦争は、兵法では相手が上回りつつも、応援の力でパワーアップした生体人形兵士の力押しで連勝。


 何度か再び刺客が現れたり、戦場へ向かう道中を塞がれそうになったりしたが、あの襲撃以来こちらも警備を万全にしている事もあり、なんとか切り抜けて来た。


 そして―――ついには、あと1勝すればこの戦争に勝利できる、その最後の戦いの日がやって来た―――

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