第四話-4
「戦争に使われる生体人形は、先ほどお話した3のルールにあるように、改造が禁止されておるのですじゃ。まあそもそも、人知を超えた神様の力で生み出されておるので、改造しようにも無理な話なのですがじゃ」
「でも、戦争をすれば人形も壊れて減っていくでしょう?補充はどうするんです?」
「各国に10個ずつ、「神の卵」という装置が与えられているのだわ。そこから定期的に人形が産まれて、なくなってもすぐに補充されるんだわ!」
「決まった数以上は産まれてこないので、人形が増えすぎて国が埋まる様な事も無い……まさに神の力のなせる技なのですじゃ」
2人がかりで……いや、1人と1匹がかりで説明されて、ようやく理解。
「まあ、言ってる事は解ったけど……僕がその戦争にどうかかわっているの…?」
「先程のルールの4は覚えておられますか?『しかし、国民の想いを反映させることで、生体兵士の能力は一時的に上がるモノとする』ですじゃ」
「……それで?」
「国民の想い―――それが、「応援」なのですじゃ」
―――ああ、なるほど、なんとなく繋がってきたぞ。
「つまり、その「応援」ってやつに、僕のアイドルオタクとしての経験を活かそうって計画だったってこと?……けど、アイドルの応援と戦争の応援が、どう結びつくのさ?」
「そう、そこがまさにキモなのですじゃ。今まで、生体人形への応援は、今までずっと国民総出で声を張り上げていたのですじゃ」
「この国に来た時にご主人様に見てもらった映像の、あのライブでの声援みたいにやっていたのだわ」
……アレか……思い出しただけでもクラクラするけど、ライブじゃなくて戦いへの応援として考えれば、まあ魂はこもっていたと思う。
「しかし、どうにもイマイチ応援の効果が薄い気がして、一番効果のある応援は何かと色々調べた結果……」
「それが、アイドルのライブだったのだわ!」
「はぁぁぁぁぁ?」
なんですかそりゃあ……!?
「もう少し詳しく言うとですじゃな、色々な応援の方法を試した結果、一番効果が有ったのが、歌だったですじゃ。しかも、若くて可愛い女の子の歌ですじゃ」
「そりゃまたずいぶん限定的ですこと!」
「まあ、生体兵士は成人男子の肉体で産まれて来ますし、基本的な動きも実に男性的なので、心や意思は持たなくとも、その性質は男性なのではないかと考えられているのですじゃ」
男性的だから若い女の子の歌が好きってのも安易な気がするけども……そういうモノだと言われたら、そうなのかもしれない。
自分は男性じゃないからなんとも言えないけど。
「そんな時、漂流物でアイドルって言う存在を知って、これだー!って思ったのだわ!」
「すぐにアイドルグループを結成して、実際に歌とダンスをさせてみたら、今まで無いほどの応援効果が表れたのですじゃ!興奮しましたですじゃー!!」
暗闇に突然花火みたいなのが光る。魔法で演出してるのか……興奮すると自然に出るのか、良くわからないけども、ちょっと綺麗だ。
「でもそれなら、その子たちが歌ってればそれで良いんじゃないん…ですかね…?」
その花火(興奮)に冷や水をぶっかけるようで恐縮だけど、まだ僕の介入する理由が見えてこない。
「アイドルの歌に効果が有るのはわかったのですじゃが、歌っているアイドルの状態によっても、効果に違いが有ることが解ったのですじゃ」
「つまり、気分良くノリノリだったり、強い意思や使命感……簡単に言うと、魂込めて歌ってる場合は効果が高いのだわ」
なるほど……まあ、普段のライブでも、アイドルさん達見てて、ノッてるな!って感じる時は良いライブだものな。
良いライブとは、すなわち人の心を動かすライブな訳で、それが応援の効果に繋がると言うのも、解らない話では無い。
「なので、ライブと同時に観客の声援を入れる事で、気持ち良くライブが出来て、観客の声援による応援効果も乗っかって……と、一石二鳥、いや三鳥!……になる予定だったのですじゃ」
「だけれど現実は……あの時に見て貰ったライブ通りなのだわ」
あの圧倒的悪循環か……
「―――はぁ~なるほどなるほど……長かったなぁここまで……ようやく話が繋がった…つまり、僕がアイドルの応援を教えることは、そのまま戦争への勝利に直結しているということですね?」
「そういうことですじゃ!ご理解頂けてなによりですじゃ!」
「そうですね、理解はしました。でも―――――
―――――納得したかどうかは、別問題です」
そう、理解はした。
けれど、納得はできない。
「ど、どうしてですじゃ?」
「……いろいろ理由はありますけど……一番の理由は―――僕にとってアイドルは、笑顔と幸せを届けるモノだからです。戦争の道具になんて、して欲しくないですね」
僕は、辛かった時、アイドルに救われた。
だからアイドルには、希望をもたらす存在であってほしいのだ。
幸せをもたらす存在であって欲しいと、願わずにはいられないんだ。
「お気持ちはわかりますじゃ。けれどこれも、この国の国民全員の、笑顔と平和のためなのですじゃ。アイドルの頑張りが、そのままみんなの希望なのですじゃ」
それは……形としては確かにそうなのかもしないけど…でも…。
「隣のゼープ国は、大陸全土を制覇しようと、あちこちの国に戦争をしかける無法国家で、皆迷惑してるんだわ!近隣の国もどんどん支配されてて、このバロンス国が墜ちるようなことが有れば、大陸の過半数が奪われる事になるのだわ!そんな事は許してはいけないのだわ!」
ピロッパも、今までにないほどの熱弁で僕を説得してくる。
「――つまり、これは正義の戦いだと、そういう事ですか?」
「もちろんですじゃ。我が国には、他国を侵略する意図は有りませんですじゃ。あくまでも自衛のために戦争が必要なのですじゃ」
「……一応質問しますけど、話し合いで解決とかは……」
「隣の隣の国『ヤダキ』は、戦争を嫌い、何度も話し合いを持ちかけたのですじゃ。……しかし、一方的に戦争を仕掛けられ続け、敗戦。今はゼープの奴隷地域として、酷い扱いを受けています……戦うしかないのですじゃ。守るためには、そして救うためには!」
まあ、世の中はそんなには甘くない…か。
「戦争に勝って相手の本国を奪うと、最高責任者をその地位から引きずりおろすことが出来るのだわ!ゼープ国の王様は有名な独裁者だから、きっと王様を止めれば戦争も止まるのだわ!」
「――――なんかもう、協力しないと僕が悪人になりそうな勢いですね……」
「いやいや、そうではないのですじゃ、その……すいませんですじゃ」
「ごめんなさいなのだわ…」
「あ、いや、その…今のは僕も意地悪な言い方でした、すいません」
落ち着け落ち着け。
話を聞いて解ったのは、シュナイダーさんもピロッパも、決して悪人ではないと言うことだ。
もちろん、一度嘘をついたのだから、全てを信じるのは危ういという気持ちもあるけれど、ここまで20日程関係性を築いてきたからこそ、理解できる部分も多い。
……確かに、召喚されていきなり「戦争に協力してくれ」なんて言われたら、僕は決して首を縦には振らなかっただろう。
でも今なら、この国の人達とも触れ合いを重ねた今なら、この国の人達を守るために出来ることをしたいという気持ちも、少なからず有る。
――――考える。
僕が今すべきことを。
でもそれは、今すぐ結論を出すことではない気がする。
結論を出すために、すべきことを考えるのだ。
「――――とりあえず、いくつかお願いを聞いていただけますか?それによって、結論を出します」
僕の言葉に、しばらくの沈黙。
向こうとしては今すぐにでも肯定的な結論が欲しいのだろうことは理解できるが、まだ僕の心の中にある葛藤を消すことはできない。
「……了解しましたですじゃ」
妥協のニュアンスを隠そうともしない返事が聞こえた。
現状では、とりあえず完全に否定はされなかったから良しとしよう、という感じかな?
望む答えが出せなくて申し訳ないけれど、まだ判断するには情報が足りない。
この決断はきっと、僕の人生においても重大な決断になるような、そんな予感がするから。
「それで、お願いと言うのはなんなのだわ?」
「…ん?ああそうそう、とりあえず一つ目の願いは―――この暗闇から、出してもらえます?」
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