第三話-3

 めまぐるしい日々が、3週間ほど続いたが―――――その日は、ついにやってきた。



「いよいよ、4人で初ライブの日!!たーかーまーるー!!」


 街から大分離れた場所へと馬車で行き、高い壁に囲まれた大きな門をくぐる。


 中は、草原のような広場で、屋根もなく空が見える。野外ライブだ。


 全ての草が短く刈られていて、それが僅かな隙間も無く見える範囲全てを緑に染めている。

 まるできれいに整えられた芝生のようだ。


 椅子もないので、芝生に直座りか。

 まあ野外フェスみたいなものだと思えば問題ない。


 右側に大きなトラックを3台並べたくらいの割と広くて高さのあるステージ、そのステージの少し前に、並行して柵が置かれている。この辺りの配置は、漂流物のライブ映像を参考にしているのだろう。


 近くのテントでは、水と、魔法で光るペンライトを、まさかのタダで配っている。


 どういう運営をして利益を出すつもりなのか……もしくは出さなくても良いのか。

その辺は謎だけど、別に聞こうとも思わない。あくまでも僕はただのファンなのだから。


 ただ、音響や照明の機材が無いな…。


 まだ明るい昼間から夕方にかけて行われるライブだから、照明はそれほど重要ではないかもしれないけど、この広さで音響設備が無いっていうのは……?


 それに、巨大なモニターも見当たらない。


 この規模では後ろの方はほぼ見えないだろうから、メンバーを映す巨大モニターは必須なのだけど…。


 ライブまであと……時間で言うと2時間くらいあるけど、今から機材搬入するのだとしたら……大丈夫か?


「ふみゅ~もう来たのだわ~?ご主人様~」


 聞きおぼえが寝ぼけ声と共に、また頭上にぽすん、とピロッパのぬくもりが伝わる。


「おはよう、ピロッパ。っていうか、どこで寝てたの?」


「お城の部屋で寝てたのだわ~。我には、ご主人様と決めた人の頭上に瞬間移動できる能力があるので、それでここに来たのだわ~」


 そんな能力があったのか……その能力を設定するほどに、ちゃんと「ご主人様」として慕ってくれているとは光栄の至りだ。


「よーしよーし、寝起きのモフモフタイムだー!」


 頭から持ち上げて、腕に抱くとピロッパのお腹やら背中やら首やら肩やら脇の下やら、全身をマッサージするようにモフモフる。


「あふ~ん……至福の時なのだわ~」


 我ながら、ピロッパを気持ちよくさせるツボがどんどん理解できている気がする。


 恍惚のあまりよだれを垂らすピロッパを、さらにモフるモフるモフりまくる。



 どのくらいの時間そうしていたのか、気づくとだんだん周りに人が増えてきた。

 けれど、まだ音響設備は見えない。


「……ねぇピロッパ。スピーカーとか無いけど、ライブ大丈夫なの?」


「ふぇぇ?あ、うん。魔法で音を増幅させるから平気なのだわ~。ふみゅるるる~」


 もうすっかり気持ち良すぎて脱力してるピロッパのその言葉が、とても腑に落ちた。


 どうやら僕は、まだ自分の世界の常識に囚われていたみたいだ。


 ……時間も経ち、少し日が傾いてきて、ステージの見えるスペースが全て、草原の緑が隠れるほどにお客さんで埋まったころ、ついにライブ開始のアナウンスが響き始めた。


「お、来た来た!!」


 僕は慌てて立ち上がり、臨戦態勢に入る。


 実は、シュナイダーさんからは、応援団長みたいに最前列の辺りに一段高い場所を用意するので、そこで先導して応援してほしいと言われたのだが、それはもう絶対に嫌だと断っていたのだ。


 やはりライブは客席で、他のファンの人達と一緒に見るのが何より楽しいに決まっているのだから!!


 ―――と、思ったのだけど……他のお客さんは、立ち上がる事なく座ったままだ。


 僕が立ってるのを見て、立つの?立つの?という顔をしている人が何人も目に入った。


 けれど周囲を見回すと、小さな子供もお年寄りもたくさんいる。いつも行ってるライブはやっぱり若い人が多くてみんな立ってるからそれが当たり前だと思ってたけど、このライブは国民の多くが集まっている事を考えると、座った方がみんなちゃんとライブが見れるかもしれないな……。


 仕方ない、個人的には物足りないけど、座ろう。まずはみんながライブを楽しめることが最優先だ。


 僕が座ると、みんなほっとしたような表情を見せたり、立っていた人も座りだしたので、やはりこの方が良いのだろう。


 次の時にはスタンディング席や親子席、家族席なんかも作っておくようにお願いしてみようかな?


 そんなことを考えている間にも、ライブ開始のアナウンスは進み、そして――


「それでは、ライブ、開演です」


 さあーーーーーライブの、始まりだ!!!

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