overture
第2話
客間に案内された僕の目の前には3人の女の子が居る。
3人ともお揃いの制服っぽい服に身を包み、衣装も顔立ちも、素直に可愛いと思う………思うのだけど……ビックリするくらいの仏頂面ですよ…。
「え、えーと、では、救世主様に自己紹介するのですじゃ」
バツが悪そうに自己紹介を促す魔法使いさんだが、あからさまに無視をされています。
「お、おっほん!ほら、自己しょ…」
「チッ」
うわお、舌打ちだ。一番お嬢様っぽい女の子が、完全なる舌打ちだ。
もう一人はイライラして足元を蹴ってるし、もう一人はずっとスンスンと鼻を鳴らして泣いているし……
なにこの居心地の悪さ……なんか、こっちも罰ゲームみたいな気分なのですけど…。
「あ、あの、お願いなのだわー。とりあえず自己紹介だけでもして欲しいのだわ…」
見かねたピロッパが泣きそうな顔で頼み込むと、さすがに可愛い動物……マジカルマスコット(?)の頼みは断れないのか、しぶしぶ自己紹介を始めた。
「マリカよ。スレミック・バロンス・リリラルルメ・マリカ。覚えておきなさい。一文字でも間違えたら、その時は舌を雷の魔法で焼き焦がすわ。仮に噛んで言い間違えただけでも焼き焦がすわ。私に口答えしても焼き焦がすわ。指図をしても焼き焦がすわ。とにかく焼き焦げなさい!墨になったら、調理場で燃料として使ってあげる。光栄に思いなさい?」
透き通るような青に所々白が混じり合う、まるで晴天の空のような長い髪をファサっと片手で持ち上げるマリカさん。
こんな綺麗な青空の髪を持つ人は、暖かい日だまりを授けてくれる太陽のような存在で居て欲しい……と思わせるくらい美しいのだけど、出すのは雷の様だ。
それを象徴するかの如く、雷マークが3つ並んでいるようなヘアアクセが特徴的だ。
瞳は切れ長で美しく、一言で言って美人。
もう言う事は無いわ、とばかりにマリカさんが一歩後ろに下がると、魔法使いさんが補足する。
「ちなみに、マリカ様はこのバロンス国の第二王位継承権を持っておられる、国王直系の姫様ですじゃ」
ああ、どうりで自信に満ちあふれてると言うか、上から目線というか、高慢というか、威圧的と言うか……高飛車だぁ…。
少しの沈黙の後、「あ、アタシか」と小さく呟いて自己紹介を始めたのは、茶色で短髪のツンツン跳ねた髪が特徴的で、クリッとした大きな目がキラキラしてる、ちょっとボーイッシュな雰囲気の、小柄な女の子。
12歳くらいかな?という印象を受ける。
「アタシはミサキ!アタシは、キミの事なんて認めな…あ!お腹空いた!食べる!もぐもぐもぐ、あ、わはひはそほほおぎぎのむふへみはいなふほへ」
……喋ってる途中で、急に懐からトウモロコシくらいの大きさがある、棒状の肉の塊を出して食べ始めたよこの子……後半何言ってるかわからないけど、ちょっと面白い。
でも待てよ……?
あれ……生肉じゃないか?
…………いやいやいや、そんなバカな。生肉に見えるけど、実はハムだとか、軽く焼いてあるとか、そういう……いやでも…?
「ん?なになに?キミも食べる?」
じっと見ていた僕が肉を欲しがっていると思ったのか、持っていた肉の塊の端に噛みついて、そのまま首を横に動かし、肉を薄く裂いて渡してきた。
「ありが…とう」
おずおずと出した手に、勢いよくパーン!と置かれた肉は………完全に生でした…。
どういうことなんだろう……この世界の生肉は食べても平気なのかな……と思いピロッパの方を見ると、ゆっくりと首を横に振りました。
……それを受けて、ゆっくりと首を縦に振った僕は、生肉をそっと机の上に置きました。
そういう柄のテーブルクロスだったかな?と思うくらい綺麗に置きました。
「すみませんですじゃ。この子は祖母が獣人なので、4分の1獣の血と肉体を持っていますのじゃ」
おお、なるほど獣人。ファンタジー異世界にありがちだ。
良く見ると、ツンツン跳ねてる髪の中に、獣耳が紛れてる。
けど、獣人らしい要素はそのくらいだ。クォーターらしいので、肉体的な獣要素は少ないのだろうか?
……まあでも、生肉は平気で食べているので、内臓的には獣なのかもしれないけど。
「あ、そうだ!アタシたち怒ってたんだった!ぷんぷぷぷぷーーん!!」
思い出したかのように……というか、完全に今思い出したのだろう、突然ほっぺを膨らませて、不機嫌さを表に出したミサキさん。
忘れてたならもう良いのでは……ああほら、結局お腹空いてるから凄い美味しそうに生肉食べてるし。
……純粋な子……ということにしておこう。
そして最後、3人目は―――
「うう、ひっく。ひっ、ひっ、ひっ。ふえええーーん……うぐっ、うぐぐ……おえっ…!おぅぅえ…!ごぼっ……ごくん…ひっく…」
さっきからずっと泣いてる、ピンク髪をツインテールに結んだ、たぶん14歳くらいの女の子。
……泣き過ぎて、一瞬吐瀉物が上がってきたのをなんとか口の中で止めて飲んだ……よね?泣きゲロって……小さい子ではたまに見るけど、思春期の女の子ではそうそう見ないな…。
嫌だな……吐いたゲロ飲みこむアイドル…。
というか、ずっと両手を軽く握って、手の甲の部分を目に当てて泣いているので、まるで顔が見えないし、まともに喋ってもくれない……なんて対処が難しい子だ…。
魔法使いさんとピロッパが、頭を撫でたりして必死でなだめているが……マリカさんとミサキさんは、特に何もしていない。
一緒に慰めるなり、いつまでも泣くなと叱るなりしてもいいようなものだけど……。
その様子を見ていて、僕の中には確信が産まれた。
一目見た時から思ってたけど、やっぱりだ、やっぱりこれはそうだ。
圧倒的な確信だ。
その時、なんとか泣きやんだ女の子が、
「…レナン…」
と、自分の名前だけを、聞こえるかどうかギリギリの声で呟いた。
けれど、それきり何も話さず、またスンスンと鼻を鳴らしながら泣いている。
マリカさん、ミサキさん、レナンさん。
……事前に受けた説明によると、この三人が、この国を代表するアイドルグループなのだそうだ。
困り顔を隠す事も出来ず、魔法使いさんが無理やり僕に向かって微笑みかける。
「ど、どうですじゃ?実際会ってみて、印象は変わりましたですじゃ!?」
ほんの僅かに残った希望にすがるように、僕の目を見つめてくるのだけど……その希望を打ち砕く言葉しか、僕は発することが出来ないだろう。
だから、先程生まれた確信を、そのまま伝える。
「…………推せない!!!!!!!!!」
この流れで、それ以外の結論が出る筈も無い。
そもそも、どうして彼女たちがこんなに不機嫌に僕の前に現れたのか。
それを説明するには、約一時間前まで時を遡る必要が有るのだろう―――――
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