第1話ー2

 僕と魔法使いさんしかいないハズの部屋に、突然響く妙に可愛い声。


「……ボイスチェンジャーの魔法ですか?」


 完全に、魔法使いさんから聞こえましたけど……。


「ああ、いや、これはですじゃな…」


「ぽっこぴょーん!!我の言葉を聴くのだわー!」


 !?!?

 髪の毛!!パープルピンクのフサフサの髪の毛が全部取れたーーー!!

 ってか浮いた!!その下には見事なつるぴか頭!!

 

 イメージ通りぃぃぃーー!!やっぱ魔法使いのお爺さんはハゲてなきゃ!(偏見)


 いや、今は そこじゃない!なんだ!?髪の毛が取れて、そして浮いて喋った!


「やっぱっぱー!」


 モコモコの中から、ひょっこりと顔が見えた。クリっと大きな目が特徴の……小動物?


「我はピロッパ!可愛い可愛いマジカルマスコットなのだわっ♪」


 空中で踊るように、あざといくらいの可愛さを振りまく謎の生き物……似ている生き物を探せば、モモンガ…だろうか?


 お腹側がわりとツルッとしていて、手足の間が薄い膜で繋がってる感じがモモンガっぽいが、背中側の毛がすっごいモコモコしているのはモモンガとも違う。


 横から見たら半円に見えるくらいのモコモコだ。


 そもそもモモンガは、仮に南国で産まれて浮かれまくって育ったところでこんなパープルピンクにはならないだろう。


「こらピロッパ!おとなしくしてろと言ったですじゃろ!」


 ……言ったですじゃろ…?意地でも「ですじゃ」を語尾に入れるタイプ…?

や、まあもうそれは置いておこう。


 それよりも……だ…ピロッパ……これは……これは…!!


「てっへへー、ごめんごめんだわ。けど、ピロッパも救世主様とお話をぉぉぉぉ!?!?」


「ふおわぁー!……モフモフ、モフモフ可愛い…気持ち良い…!!」


 おもむろに、ピロッパを抱きしめてモフモフする。


 やはり、やはりそうだ!!圧倒的モフモフ!!一目見た瞬間から、触りたくて仕方なったよ!!


 モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモーフモフモフ。


「ちょっ!離してなのだわ!離し……はな……はな……ふわわわー……ふみゅるーん」


 ふふふ、顔がトローンとしてきたぞ…?


 人間にはあまり好かれないのに、動物には妙に好かれる謎の人生を送って来た僕の撫でテクを舐めるなよ!


 僕の腕の中で、完全に腹を見せて服従のポーズを取るピロッパを、さらに撫で続ける。


「あふぅ~。も、もうやめてなのだわ~。どうにかなってしまうのだわ~」


「よーしよしよし、可愛いなぁ、可愛いなぁ。ピロッパちゃんは男の子かな~女の子かな~?」


「ふにゅみ~。ピロッパはマジカルマスコットだから、性別は無いのだわ~。ピロッパはピロッパとして可愛がってくださいだわご主人さま~」


 てれれれってれー。ご主人様の称号を得た。


 しかし、そんな二人のモフモフタイムを切り裂く声が。


「あのーですじゃ……救世主様。色々と話したい事も有りますので、場所を移すのはどうですじゃ?お食事も用意してあるのですじゃ」


 魔法使いさんの言葉に我に帰ると、そういえばお腹が空いていると気付く。考えてみれば、朝目が覚めてから携帯用ゼリー1つしか食べてない。


 イベントやライブに挑む時は、途中でトイレに離脱するのが嫌なので、あまり食べないスタイルなのだ。

 腕時計を見ると、もう2時半。

 握手会の開始が午後1時だったから……そりゃあお腹も空く訳だ。


それに、せっかく異世界に来たと言うのにこの狭くて暗い部屋しかまだ見ていない。


 文句を言いたい気持ちは山ほどあるが、せっかく来たなら異世界ってものを見てみたい気持ちも当然ある。


「そういえば、そもそもこの部屋ってどこなんです?地下?」


 窓がないので外も見えず、今が朝なのか夜なのかも判らない。


「はい、ここは城の地下深く……封印されし儀式の間でございますですじゃ」


「地下深くって……どのくらい?」


「そうですじゃのぅ、階段で言うと、地上から1200段を下りると到達する深さですじゃ」


「うへぇ……ってことは、これからその階段登るのかな……?エレベーターとか無いですよねぇ…」


 体力はライブ参戦でそこそこ鍛えられているけど……1200段はさすがに…お腹も空いてるし…。


 東京タワーの下で行われたライブを見た帰りに、ついでに階段で東京タワー登っちゃう?みたいなノリで挑戦して、死ぬほど後悔した記憶が……あれが確か600段とかだったような……1200は死ぬな、うん、死ぬね!


「ほっほっほ」


 げんなりする僕を見て笑う魔法使いさん。

 ……この人はイメージを裏切らないな!「ほっほっほ」って笑う老人!!凄いや!


 どうして笑っているんだ?とかいう疑問よりもその凄さへの驚愕で一杯だ。


「ご安心くださいですじゃ。行きますぞー、ホイですじゃー!」


「ホイですじゃー、って何ですかそ………ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」


 気付いたら僕は―――空に居た。


「はっ?え!?な?」


 眩しい。突然の明度の変化に眼球が付いて行かずに、一瞬目の前が真っ白になるが、少しずつ目が慣れると……太陽がひどく近い。


 イカロスだったら羽の蝋が溶けて墜落している事だろう。


 ってか、空!横に雲!落ち、落ちる、落ちてる!


 ……いや、落ちてない……?


 落ちて……ない!浮いてる!!空に浮いてる!


「瞬間移動の魔法ですじゃ。この老体、階段の上り下りは膝と腰に辛いのですじゃ」


「……浮いてるのは?」


「それは我の力だわ!ご主人様っ!」


 ピロッパの声……が、上から?


 うわっ!モフモフだ!僕の髪の毛がパープルピンクのモフモフだ!黒から変えた事の無い、ギャルゲーの主人公みたいに目をほぼ隠している前髪長めの僕の髪がパープルピンクに!


「我は、帽子みたいに頭にかぶられる事で、かぶった人にちょっとした魔力を授けることが出来るのだわ!すごいだわ?すごいだわー!褒めてだわご主人様―!」


 そうなのか、なるほど頭皮がほんのり暖かいぞ。


「よーしよし、えらいピロッパー!あとでまたモフモフしてあげよう!」


「えへへ、えへへへへー。楽しみなのだわー!」


 頭の上のピロッパを撫でてやるが、なんか自分で自分の頭を撫でてるような変な感じだ。


「すごいなー、空飛ぶ魔力かー」


 生きてるタケコプタ―みたいなものか。


「ほっほっほ、それは能力の一部に過ぎませんぞ?……まあ、今はとにかく、下へ降りましょう」


 言葉に釣られて下を見ると、そこには……荘厳で、高貴で、威風堂々たる佇まい。権力の象徴のような神々しさをまざまざと見せつける、巨大な城が建っていた。


 どのくらい大きいかと言うと……そうだなぁ……土地面積で言うと、日産スタジアムくらいだ。


 ライブで行った事あるけど、7万人収容出来る国内最大級のあの日産スタジアムに、更に高さが加わっていると言えば伝わるだろうか。


 ……伝わらないかもしれないが、まあとにかく広くて高い。


 全体は上品な白い壁で、所々にこの国(?)の紋章らしき模様が赤で描かれている。


 お城の下半分程は長方形で作られているが、そこから何本も角が生えているように、突出して高い円形の塔が伸びている。


 ザ・洋風の城って感じだ。

 特に、中央の塔は最も太くて高い。あの一番高いところに王の間とかがあるのかな?


「さあ、下りるですじゃ」


 驚いている僕を尻目に、スーっと、エレベーターくらいのスピートで下へと移動する魔法使いさん。


「ご主人様、我らも行くのだわー」


「お、おぅ。ゆっくりな。ゆっくり」


「ぷぷぷー。怖がりなのだわご主人様―。しょーがないのだわー。ピロッパが、優しく下ろしてあげるのだわー!」


 酷く勝ち誇られた気がするが……まあ仕方ない。


 それに、怖いのも確かなのだが、それ以上にちゃんと景色を見たいという気持ちが強かった。


 ゆっくりと下降していき、丁度城の頂上、真ん中の一番高い塔の窓が横に来たその時―――世界が見渡せた。


 まず、城の正面入り口らしき場所から真っ直ぐ伸びる通りを中心に、城5つ分くらいの広さの城下町が広がっている。


 中央の通り付近は、この高さからでも伝わるほど賑わっていて、そこを中心として住宅街が広がっているように見える。


 そんな城下町をぐるりと囲む塀の向こうには、大自然が広がっている。


 中央通りの先に見える大きな門の向こうには、すぐに広い草原が広がり、右側には山脈が、左側には大きな湖が有る。


 その時、不意に何かの気配を感じて後ろを向くと、僕の身長の二倍ほどは有る、遠近法が狂いそうな大きさの怪鳥が、円を描くようにくるくると飛び回っている。


 ……これが、異世界―――いや、この世界なんだ。


 胸の中で、不安と興奮と恐怖と高揚と、あらゆる感情が混じり合う。


 これから先、いったい僕の運命に何が待ち受けているのだろうか――――


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