終章
終章
見た目も肩書きもハイクラス。
自分とは無縁な雲の上の人だけど、その性格は最悪最低の野郎。
そんな奴が何故かあたしのご主人様。
今日も仕事だと朝から朝廷に出かけた彼を迎えに、式神先輩である一夜さんと彼の帰りを朱雀門で待つ。
「ねぇ、一夜先輩。あいつ、まだです?」
漆黒の髪と真紅と紫のドットアイ。
見た目最上級で、性格は不思議ちゃん系の、優しい先輩だ。
「もうすぐだ。しかし…桃子。その格好はどうしたの?」
「あ、これですか?」
よくぞ気づいてくれました!
くるりんと、その場で一回転。
「これ、実は昨日助けた姫様から貰った古着なんです!へへっ…どうです先輩。似合いますか?」
ハートマークがつきそうな甘い声で、少し照れたように尋ねる。
すると、微かに驚いたような彼が、次の瞬間、滅多に見せない輝かしい笑みを浮かべた。
「うん…可愛い」
にこりと笑われ、その無邪気な笑みに嬉しくなった。
「やった!先輩ならそう言ってくれると思って…今日は思い切ってイメチェンです!」
「イメチェン…?ああ、いつもと違う格好をしてみたことね」
この時代にはまだ使われていない用語らしい。
それを聞いた一夜先輩が頷いた。
「あ…!そこにいるのは桃子殿かい?」
そこに、朱雀門の外、背後から道長さんが現れた。
「道長さん!」
久しぶりだな、と嬉しくなって彼に駆け寄る。
「今日も晴明の迎えかい?」
「はい!そうなんですよー。アイツ…じゃなかった、晴明様。朝廷に呼び出されたみたいで…この後他の仕事があるから先に迎えに来たんです」
自分たちのことを説明すると、道長さんは軽く肩をすくめた。
「あー…晴明か。今日は公達の集まりだって言っていたね。私は他の仕事があり行けなかったのだけど…そうか。もうそろそろ来るんじゃないかな」
「そうだといいんですが…」
そうため息とともに答えると、
「あ、桃子。来たよ」
一夜先輩が声を上げた。
ハッとして門の向こうを振り向くと、二人の先輩式神を連れた晴明が現れた。
「なんだ、道長。お前もいたのか」
着いた早々、晴明は道長さんに話しかけた。
…おい。あたしと一夜先輩は無視ですか!?
「ああ、晴明久しぶりだね。今、ちょうど彼女たちと会ってね。君のこと喋っていたんだ」
そう言って道長さんがクスクス笑う。
「私の…?」
彼は眉を寄せ、こちらに冷たい視線を寄こす。
「何を話していたんだ?」
そう言って、じろりと睨まれた。
ビクッとしたあたしと違い、一夜先輩は微かなため息をつく。
「晴明様。そんなことよりも次の仕事です。早く行かなければ時間がありません」
そう上手く話を変え、急かすように告げた。
晴明は微かに眉をひそめ、フゥとため息をつく。
「そうだな…。道長、会ってすぐに悪いが、今日はもう一件仕事がある。また時間ができたら、会いに行く」
それだけ言って、晴明はあたしと先輩を軽く睨み、背を向けた。
なんというか…。相変わらず、冷たいなぁ。
会ってからずっと、それは変わらない。
「なんなのよアレ…。全く、相変わらず…」
ふとそう思って、何故かあたしの中に疑問が浮かぶ。
何故、今、相変わらずと思ったのか?
初めて会ってまだ一ヶ月も経ってないのに。
「相変わらず」とか「ずっと変わらない」という表現は少しおかしい気がした。
「はて…?なんでそう変な感じがしたのかな?」
自分で自分がわからない。
「おい!何をしてるんだ?」
そこに、いつまでもその場から動かないあたしに、振り向いた晴明が声を上げた。
あたしは弾かれたように顔を上げる。
「どうしたの桃子。早く行こう」
少し前にいる一夜先輩が、こちらに優しく手を差し伸べる。
「早く行かないと、また晴明が拗ねちゃうよ」
あたしたちのやり取りが楽しいのか、クスクスと笑って側に立つ道長さん。
「おい、いい加減さっさとしろ!」
そう焦れた晴明が、再び叫んだ。
怒る晴明と優しく見守る一夜先輩と、楽しそうに笑う道長さん。
どの日常でもあるような、たわいない状況だろうに、あたしにはこれがとても懐かしく、温かい気持ちにさせた。
自分が一人ではないと、そう思えるような感覚。
あたしは嬉しくなって、満面な笑みを浮かべた。
「はーい!今行きまーす!!」
そう元気いっぱいの返事をして、晴明のいる方に向かって駆け出した。
満ちる夜に妖し華 綺璃 @rose00
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます