第51話
横山大観と修行する
知人に勧められて以前から茨城県の北部にある五浦海岸に行ってみたいと思っていた。五浦海岸には岡倉天心が所有していて横山大観や菱田春草が「修業した」有名な六角堂がある。そこからの景色はとにかくこの世のものではないということだ。ぜひ見てみたい。
そしてついにチャンスが訪れた。
今日こそは五浦に行くんだ。朝起きてテレビをつけて大谷君のエンジェルスを見たい欲求を振り払い電車に飛び乗る。一つ難関を超えた。なんか煩悩を捨て去る修行をしているようだ。
上野からJRの常磐線に乗り換えた。けっこう客が乗ってくる。僕の正面に小さな子供連れの若い奥さんが腰掛けた。その彼女が首の周りの大きく開いたシャツを着ていて、前屈みで子供をあやす時胸元がワイドオープンで、つい気になってしまう。気にしなければいい、と言うかもしれないが悲しいかな男である。また一つ煩悩がのしかかってきた。
するといかにも田舎の爺さんという感じの人が席の埋まった電車の中に入ってきて僕の前のつり革に手をかけた。どうするべきか。
「旦那さん、こちらの席どうぞ。」
「ありがとうございます。」
こちらこそありがとうございます。この爺さんは仏の生まれ変わりか。しかし、やっぱり惜しかった。クソ爺い、余計な時に来やがって。まっ、いいか。
「私はここで降りますがどちらまで。」
「遠くまで。」
「お気を付けて。」
爺さんは土浦で降りて行った。
早い時間に出たのだが水戸まで来るともう学生が帰る時間になっている。ここで乗り換え。人がほとんどいないのをいいことに高校生くらいの恋人が待合室でいちゃついている。これも修行の一環か?そんなことはないか。しかしここから五浦海岸まではもう十駅ぐらい。そろそろだ。だが田舎の一区間は長い。
日立。海岸が見えてくる。もうすぐだ。
やっと最寄り駅の大津港駅に到着。ここから普通の人はタクシーか温泉直行のバスに乗るらしい。しかしそんなもの姿が見えない。
「五浦海岸まで3.6キロ。」
看板を見つける。じゃあ歩いても一時間だ。歩け!
涼しいし林に囲まれているので歩いてても気持ちがいい。むしろ歩いてよかった。しかし田舎の蜘蛛はでかい。よっぽどいいものを食ってるのだろうか?
もうそろそろ近くなってきてもいいんじゃないかと思っていると何だろう、どこからか飛行機が真上を通過する時の地響きのような轟音が聞こえてきた。少し歩くとその正体が分かった。実はこの日台風が通過した翌日で、台風を追っかけるように北上したのだが、音の正体は台風が引き起こした波の叩きつける音だった。なんかすごいことになってる。これはほんとにすごいぞ。
そしてお目当ての六角堂へ到着。これは言葉にできない。世の中には言葉にできないこともある。見て下さいとしか言いようがない。
「あれ、まだいたんですね。」
ひたすら海を見ていたので係の人に閉門されてしまっていた。
これからまた一時間歩いて駅まで行き、五時間電車に乗って東京まで。結果として海を見ただけだが素晴らしい修行だった。
ちょっと最近の隣国との関係について一言
「車の衝突事故ってのはどっちかが気を付けてりゃ当たっても軽傷で済むんだ。両方馬鹿だからああいうことになるんだ。」
僕の知人がよく言うのだが、最近の日韓関係はこれに似ている。どっちかが気を付けてればいいのだが。
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