第40話

              踏まれたい女№1

 先日渡辺千萬子さんという女性が亡くなったのに気付かれた方がいるだろうか。気付かなかったからといって別に何か問題がある訳じゃない。そもそも彼女は一般女性なのだから。それではなぜ彼女は有名になったのか。谷崎潤一郎の法的な義理の娘で『瘋癲老人日記』という小説の登場人物になったから。

 では谷崎潤一郎と彼女の関係はどんなものだったのか。

 ある日谷崎潤一郎は彼女に「靴を買ってあげるから足の型を送ってほしい」と連絡し、送られてきたその型をもとに足を作り、その「足」に踏まれたという(詳しいことは小説を読んでほしい)。


 それにしても「抱かれたい男」とか「抱きたい女」とかなら分からなくもないが、「踏まれたくなるような女」とはどんな女なのだろうか。単に美人であればいい訳でもないし、賢い女やかっこいい女、優しい女とも違う。ヨーロッパ的なファム・ファタル、運命の女(例えばクレオパトラ)ともちょっとニュアンスが違う。一番最適な表現で言えば「いい女」ということになるのだろう。

 残念なことに世界観や価値観の変化によりそういう「いい女」は絶滅危惧種になり、見かけることもなくなってしまった。今だからこそ僕らはこう言うべきなのか。

「僕を踏んでくれ!」


 とにかく、さらば、いい女!あの世で思いっきり谷崎潤一郎を踏んでやってくれ!





               続・意外な友

 相変わらずチェスを舞台にした僕と人工知能との間の戦争、および奇妙な友情は続いている。しかし最近かなりムカついている。

 例えばこんなことを想像してもらうと分かりやすい。

 あなたのもとに真面目であなたより格段に頭のいい教師が派遣されたとする。彼は常にあなたの行動を監視している。そして何かあるとすぐ「君、それはいけない」、「そこはこうした方がいい」と注文を付けてくる。もちろん彼が絶対的に正しいのは分かっている。

「しかしいつもそんなに厳格にやらなくたっていいだろ?」

 しかも困ったことに彼には一切のユーモアも通用しない。

「だから冗談だって言ってんだろ?」

 そんなことで最近心の中でいつもこう叫んでいる。

「てめぇ、いつかぶっ殺してやる!」

 それなのに彼と別れられないでいる今日この頃。


 さて、明日から世間はゴールデン・ウィーク。皆さんはぜひ楽しい連休を過ごしてください。僕は仕事してそうじゃない時は人工知能と戦ってます。



 ところで全く関係がないのだが、うちのベランダの梅と桃の鉢植えに今年初めて実がついた。実が熟した時に食べてみる勇気のある方はいないだろうか。


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