第38話

                等比級数

 最近コンピューターを相手にチェスを始めた。レベルが100まであるうち最初の日でレベル5までクリアしてしまった。これなら単純計算であと20日あれば全てをクリアできる。最も毎日やってるわけではないから一週間にレベル5づつとして20週間あればなんとかなるということだ。

  そして次の週。全く進まない。今更こんなことを言うのもなんだがコンピューターの奴、頭がいい。お手上げ状態。それでも何とか一つはクリアした。


 さて、最初の一週間で5つクリアし、次の週で1つ、そしておそらくその次の5週間で1つというようにクリアしていくと、レベル100までクリアするのには何週間必要なのだろうか?というより何十年、何百年必要なのだろうか?

 何光年だったりして。コンピューターよ、計算してくれ。


              世界で最も悲惨な人

 ところでその人工知能がらみで先月の朝日新聞に興味深い記事が載っていた。アメリカでの話なのだが、もし警察の尋問に人工知能が導入される日が来たら黒人の人たちが真っ先に尋問される、という記事だった。確かに犯罪に関与した黒人の割合、彼らの出身地域や家庭環境などのデータをインプットされればそういう事態が起こるのも予測できる。彼らの嘆きの声。

「黒人というだけで……。」


 しかしアメリカ中の黒人の人たちよ、心配しなくていい。アメリカにはあなたたちと同じくらい差別的な環境に置かれている人たちもいる。

「イスラム教徒というだけで……。」

「メキシコ人というだけで……。」


 だとするとメキシコ人の黒人のイスラム教徒はどういうことになるんだろうか?




             外務所の役人の知恵

 これも新聞に出てた話なのだが、何かと最近もめているお隣の国韓国の日本領事館の再建築の申請をせず、しばらくオフィスビルを借りて業務を執り行うことを決めたそうだ。なるほど、それなら最近日本に謝罪と賠償を求めて領事館前に慰安婦像や徴用工像を建てようとしている人たちの裏をかくことができる。領事館そのものが存在しないならそこでいくら抗議運動をやってもあまり効果はない、という風に持っていったわけだ。なるほど頭を使ったものだ。


 しかしせっかく外務省の役人をやってるんだったらそんなこざかしい猿知恵じゃなくて、問題を解決するもっと大局に立った知恵を使ってくれないものか。それとも三十六計逃げるに如かず、ってのが最善の策だと読んだのか。




               桜の木の下で

 個人的にあまりに寂しい春の訪れだったので、ちょっとは華やかさを持たせようと桜の枝を一輪もらってきて空き瓶に差しておいた。


 次の日、動くはずのない桜の花が動いたような気がした。まさか花の精でも現れたのか。

 なんてことはない、蛾の幼虫だった。それも三匹。

 桜に蛾の幼虫がたくさん出るという話は聞いたことがあったのだが本当だった。しかしたった一つの枝にこれだけ蛾の幼虫がいるということは木全体でみるとどれだけの数いるんだろうか。そして日本全体では。

 だが不思議なことに僕らの生活の周りでそこまでの蛾を見ることはない。彼女たちはどこに行ったのか。もちろん他の昆虫や鳥に食われたんだろう。とするとこういうことになる。

 桜の木を中心として人間などとは関係なく生命のサイクルが成立している。どうかその営みが続いていってほしいもの、と願うばかり。

 



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