第35話

          新しい時代にふさわしい元号のご提案

 平成に代わる新しい時代がやって来る。いったいどんな時代になるのだろうか。平成が「平らかに成る」時代だったかどうかはともかく、次の元号はこのような時代であってほしい、このような時代になるだろうという期待や展望の込められたものになるのだろう。しかしその期待や展望は人さまざまだ。そこでここでは僕なりの期待と展望を込めた新元号のご提案。


 さて僕なりの提案をするのはいいのだが、僕らの阿部総理大臣はどうやら新しい元号の出典が日本の古典であることをお望みのご様子。それも考慮に入れなければならない。そこでこんなのはどうだろうか。

 第一の案、『斜陽』。

 出典は言わずと知れた太宰治。新興国の台頭によって日本の世界における位置づけは低下し、今後かつての世界帝国だったイギリスやフランスのようになるだろう。背伸びをして大国としてのプライドや発言権を維持するのではなく、多数の国の一つとしていかに世界と調和していくのかが課題になり、ポジティブな言い方をすれば自分たちの身の丈に合った素直な生き方が可能になるかもしれない。 

 斜陽元年。

 第二の案、『檸檬』。

 若い方はご存知ないかもしれないが出典は梶井基次郎、川端康成などと同系統に属する小説家である。ちなみに読み方は『レモン』、あのレモンである。読み方が分からなくても大丈夫。僕も読めなかった。しかしレモンにわざわざこの漢字を割り当てたあの時代の人たちの生真面目さと執念が個人的には大好きだ。

 ところでなぜ『檸檬』が新しい時代にふさわしいかという点だが、新しい時代には今よりもっと「世界」が僕らの生活に入って来て溶け込んでい行くだろう。そんな時代を象徴するものとして。それにそろそろ元号のレベルでもキラキラ・ネームがあってもいいんじゃないか?

 檸檬元年。

 最後に第三の案、『傾城』。出典は中国だが。

 傾城(けいせい)とは男が惚れ込み国を傾けるような美女のこと。とにかく今の時代のキー・ワードは日本と世界とにかかわらず「女性の活躍する社会」ということであるらしい。そういう女性が増えるということは逆に言うと男がベロベロになるいい女が増えるということ。活躍する女性たちと没落する男たち。

 傾城元年。音の響きもいい。


 絶対選ばれることのない元号たち。でも新しい元号はきっとこれより退屈なのだろう。




               一番うるさい男

 僕のアパートには大学生も住んでるのだが、年を取ったせいかついこんなことを考えてしまう。

「騒いでないで勉強でもしろよ。」

 しかし自分の大学生の時を思いだしてみるとやっぱりうるさかった。たぶん周りの人も「たまには勉強しろよ」とか思っていたのだろう。

 しかしこれだけは誓って言いたい。ギターをアンプに繋げたりなどということは絶対に、絶対にしなかった。




                再評価ブーム

 今NHKのBSでかつて中国で暴君と言われた皇帝の業績を見直す番組をやっている。実はしたたかな計算のもと万里の長城を築いた秦の始皇帝、長江と黄河を繋ぐ巨大運河を造り後の経済発展を導いた隋の煬帝。今まで日の当たらなかったところを見直すのは問題ない。ただ褒め過ぎるのはよくない。その論理に従うとこういう結論が導き出される。

「アウトバーンとフォルクスワーゲンを造ったヒトラーは偉大な総統だった。」

 

 

 

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