第19話

              いつだって百合が犯人だ

 安かったので百合を買って来た。「百合の花は腐ると雑草よりひどい臭いがする」とか言っても、やっぱり百合は姿、香り共に秀でている。花が咲くのが待ち遠しい。


 数日後、部屋の中を小さな虫が飛び回るようになった。虫が育つには土や食べ物が必要なはずだがそれらしい心当たりがない。少なくとも他の花たちにはアリバイが成立している。となると……。百合よ、やっぱりお前か。お前の植えられているそのカブトムシの好きそうな腐葉土こそが犯人だったのだ。

 百合は香りを楽しまれることもなく外に追い出された。




                 心の貯金

 無駄に知恵を付けたがために新聞にまでもケチをつけるようなかわいげのない大人になってしまった。それでも新聞にはあれだけの字が書いてあるので、探せば一日に二、三か所くらいは興味を引く記事がある(たいてい真ん中位のページの小さな記事)。右派系の新聞にも左派系の新聞にもスポーツ新聞にも、競馬新聞にすらそういった記事がある。そんなのを探して読んでいるこの頃。


 ちっちゃな子供の頃、父親に十円もらってゴミを捨てに行くのが日課だった。最近の子はどうか分からないが、僕らのガキの頃はお札を貰うより、小銭を貰って貯金するのが楽しみでもあったのだが。

 新聞を読むってことはそんな小銭の貯金と同じようなものなのかもしれない。




                 占星術

 個人的に星占いにまったく興味はないのだが、この夏の暑さに対するどうしようもならない感情のはけ口や対処法を外の世界に見出そうというのならその気持ちは分かる。

 今日も夜空に怒りを司る軍神マルスの星、火星が上がっている。




                 非国民

 錦織圭君の活躍のためにジャパン・オープン・テニスが値上がりして見に行けなくなった。かといって活躍するなとも言えないし……。




                 異邦人

 クリスマス・ローズやシクラメンといった冬の花をみんな枯らしてしまった。この場合カミュに倣ってこう言うのは正しいのだろう。

「太陽のせいだ。」

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