第10話
「アヤだと……?」
「そうである! 我が愛娘を取り戻す為、海を渡り、鳥のように舞い、遥かなるこの地までやってきたである! 恋い焦がれたである、マイ・我が子よ!」
突如現れたバンドマンは、狂った様子で言葉を続ける。銃を向けられ、それでも取り乱さない和夢は何者なんだ──そう思いながら、ビクビクしつつ手を挙げる。何も出来ない一般人なんです、元引き籠りなんです、見逃して下さい。
「そんな人間はここにいない。人違いだ、帰ってくれ」
冷静すぎる!
「あっ、そうであるか? これは失敬、うっかりしたである。そう、天才でも間違えることはあるのである、から揚げにレモンをかけるのは朝飯前、二度付けタレに三度付けるのは昼飯前! 夜はアタシ!」
何なんだコイツ!?
「では後日、改めて非礼を詫びるである──とでも言うと思ったか! 言っちゃったけど! お茶目なとこもカ・ワ・イ・イ♪」
本当に何なんだコイツ!?
「天才からは逃げられないである! 天才が天才故に、天才の為に開発した探知機は、ここにアヤがいることを如実に物語っているである!」
銃を構えて脅しながら、くつくつと気味悪く笑う。
アヤとは、ハヤナの元となった人工知能だ。この男はそれを知り、そして今、求めている。
「タキシードで来れなかったことは謝罪するである! だってアレ恥ずかしいし……。いくら愛娘であろうと、きっと辛辣な言葉をかけるである。そんなことされたら、パパ、泣いちゃいそうである……」
ミラーと名乗った男は表情をコロコロ変え、真情を赤裸々に語る。
それを見て、対峙する和夢はかねてよりの疑問を問う。
「娘……我が子? 貴様、まさか工房の──」
「ノンノンノン! あんな薄汚い組織、とうに見限ったわ! やるなら正々堂々である! 私は武士であるのだから!」
武士は銃を使わない!
「直接殴りこむとは思わなかったな。どうやって監視網をすり抜けた?」
「天才である私に不可能など無いのである!」
「工房の追跡、それと隠蔽工作に大半のエージェントを投入しちゃったのが原因だろうね」
「ふむ、そうだな」
「上もお馬鹿さんだね~」
どれだけ呑気なんだあんたら!?
『ご主人……』
ふわり、と視界に人影が映る。
意識を移したハヤナだった。MR装置やVR装置を介さず、網膜に直接投射された仮想の世界の住人。
不安そうな顔をする彼女に、銃を前にするのはとても怖いが、大丈夫だよ、と苦笑いをつくってみせた。あの男が、この少女を求めて踏み込んだのは確実だ。しかも──作成した本人かもしれない。
「無視するのはやめるである! 天才とは、無視されることが大嫌いなのである! 1%のひらめきも、無視されればただのゴミ! 世は無情! 人は無道! 家族を切り捨てて研究に打ち込んでも、辿り着いたのは向こう側しかなかったのである!」
ぷんすかと、支離滅裂なことを叫ぶミラー。
「さあ! 脳漿をぶちまけられたくないのなら、マイ・ラブリー・キュート・ガールを差し出すである!」
「知らないな」
「ふん、あの小娘の監視が解かれたことは知っているである! であるにして、別の場所へ移されたことは明らか! 貴様らのラボを虱潰しに破壊するのも楽しそうではあるが、道草を食っている時間が惜しいのである! むーしゃ、むーしゃ、と噛み締めていたら、天才故にひらめいたである! 人工知能を探知するプログラムを! やだもー吾輩ったら大天才!」
AIを探知だと? 和夢はFBIでも突破できないとか言ってなかったか? 探知ならば可能なのか? 分からねえなこれ。
「相変わらず、変態染みた技術屋どもだ」
「ネット関係はガチガチだったんだけど、それでも掻い潜られちゃったね。このオフィス自体には特別な対策をしてないし、踏み入られたらお手上げだよ」
「手の打ちようが無い、か」
和夢と新菜は、手をあげつつも素知らぬ顔で会話を続けている。
二人とも、普通のメンタルじゃない!
「ヘイヘイーイ、そこまでである! さっさとアヤを渡せ! 媒体はなんであるか? HDD? SSD? それともFD? まさかまさか、氷に閉じ込めたであるか? ならば救出せねばならんである! うーん吾輩カッコイイ! これぞ物語の主人公である!」
「どれでもない」
「ほほーん? ならば貴様らを殺して、ここにあるもの全て頂くである」
え、こいつ何て言った。殺す、だよな。殺すってつまり……殺すんだよな?
「初めの生贄は貴様か? それとも──」
ジロリ、とミラーの瞳が……狂気にまみれた瞳が、
「そこの少年がいいであるか?」
怯える俺を捉えた。
「派手にぶちまけてやるである! それはもう盛大に! AI搭載全自動戦闘モジュール、その名もミラー・シュピーゲル(借り)! 漢字で書くと、鏡の手鏡♪ いや違う、合わせ鏡である!」
漆黒の獲物を手に、高らかに、朗らかに、無邪気な笑顔を見せつける。
「現世と常世の合わせ鏡である……。吾輩は、もう考えるのを止めたである……! さあ、オフィスを臓物で汚したくないのなら、アヤの在り処を言え!」
「ひっ……」
『……!』
銃口を向けられ、情けない悲鳴が零れてしまう。
引き金を引けば、俺は死ぬ。だが死んだら──俺だけじゃない、ハヤナが消えてしまう。なんとかしなければ、この窮地を脱しなければ。だが、混乱する頭では何も考えられなかった。
『だ、大丈夫ですご主人! ハヤナがついています!』
それは励ましの言葉なのだろうか。
そもそも、この少女が事の発端。ハヤナであり、アヤでもある人工知能。引き渡せば、大人しく帰ってくれるのだろう。だがそれは、俺ごと回収されるということで……考えるのはやめておこう。
「ほらほら~、どうなのであるか~?」
どの道、要求を呑むことなど不可能だ。
「聞いたな新菜、行け」
「了解」
覚悟を決めた時、一つの足音が響いた。それはニタニタと嗤い続ける強盗の元へ躊躇い無く向かっていく。
メイド服を装備している、新菜だった。
「何であるか小娘? その奇妙なファッションセンスを褒めて欲しいのであるか? いいであるよ、ズバリ24点! ざ~んねんでした、真っ赤なドレスに変えてやるである!」
ミラーの銃口は移り、その小さな頭へ標準が向けられる。
何をしてるんだ、下手に刺激するなんて! 死ぬつもりなのか!?
「いくであるよ、イクであるよ~! 脳の色は何色であるか? 肉の味はいかほどであるか? ま、人間の肉など、とてもウマイとはいえない代物であるが……どうでもいいであるな。死ぬである!」
やけにスローに見えた。
バンドマンが握る引き金に、力が籠る。
ニヤリ、と口元が大きく歪む。
新菜が新たな一歩を踏み出す。
一つの言霊が風に乗る。
「お父さん」
とてつもない勇気を、見た気がした。
「ねえ、お父さん」
頭のおかしい強盗のことを、父と呼ぶ、その勇気。
「もうやめよ?」
懇願する声音で、切なげに囁く。
いや、これに効果などあるのか、とあまりにも非現実的な光景を前に若干冷静になった頭が思考する。男が求めているのは愛娘であるアヤだ。実体を持たない彼女に変わって、説得でもしようというのか狂った強盗がそんな甘い考えに乗るワケが──
「Oh……」
乗ってる!?
「吾輩が間違っていたである……。すまない、許してほしいである……」
顔を伏せ、ミラー・スミスは懺悔する。なおも構えていた銃口は、新菜が優しく、両手で下げさせた。
彼が幻視したのはアヤだったのだろうか。それとも、実の──
「もうやめよ? お父さん」
「そ、そうであるな! パパは厚生したのである! 家族サービスだって頑張っちゃうである!」
にっこりと微笑む偽りの家族。
え、もしかして解決したのか?
「とでも言うと思ったか間抜けぇ!」
「がっ!?」
怒号と悲鳴──それが聞こえた直後には、新菜の華奢な体が弾きとばされた。まるで狙っていたかのように俺に向かって打ち上げられ、体は四の五の思考する前に、最善の行動を取った。
『ご主人!』
「……!」
ハヤナの叫びを遠くに聞きながら、新菜の体を抱きとめる。慣性が効いたそれは、小柄な彼女をやけに重く、より硬く認識させた。床へ叩きつけられないよう、両腕を背へ回し、きつく縛る。腕の骨が折れるんじゃないかと思う程の衝撃に耐え、少し動かしたら触れてしまうほど目前にある顔へ告げた。
「大丈夫か、新菜!?」
恥じらいはあるが、安全確認が第一。
体が浮く程弾かれたのだ、内臓を痛めている可能性がある。ミラーが腕で薙ぎ払ったように見えたが、信じられない程の馬鹿力であったことは明白。
「う、うん。平気だよ」
その言葉に、ひとまず安堵。
「そっか、良かった」
「あのねお兄ちゃん」
「うん?」
「苦しいよ」
「うおっ!? ゴメン!」
そうだよ、抱きしめちゃってるじゃないか! 女性経験ゼロの俺に、弾力のある温もりと、誘惑するような甘い香りは危険過ぎる! あとハヤナ、そんなに睨むな。
「ヘイそこ! ラブロマンスは止めるである! 見てて腸が煮えくり返るである! 優しい世界などどこにもない! 2次元にしか存在を許されないのであるよ!?」
「うるせーな」
「Why!?」
しまった、つい。
「ふ、ふん! 無気力系主人公など、とうに旬が過ぎているである! これからは吾輩の春! もうすぐ秋だけど! 救世主としてチヤホヤされるである!」
再び銃を構え、勝ち誇ったように高笑う。
「主役の座はいただくである! 企画を立ち上げたTVアニメ、“マッドサイエンティスト、ドクター・ミラー”! 視聴者は踊り狂い、スポンサーは凍てつくであろう! PTAや大手アイドル事務所、五月蠅いところ全てを敵にまわすである! それは何と痛快! 愉快! 感謝感激!」
「下らないな」
騒ぎ続けるピエロに対し、冷たく言い切ったのは和夢だった。
「ただの愉快犯か? いい加減不愉快だ」
「ヘイボーイ? 口の利き方がなってないである、風穴開ければ治るであるか? ガッタガタにいわせてやるぜベイベー?」
「くどい」
向けられた銃口に怯むことなく対峙する。その瞳は闘志……というか、完全に呆れていた。
「生意気であるな……いいである。季節は秋! 調教の秋である! 生かさず殺さず、この世全ての痛みを教え込んでやるである……!」
「残念だが、体験済みだ。それに……時間切れだ」
「なに?」
途端、ドカドカと騒々しい足音が耳朶に届く。
それはまっすぐに開発室へ進み、蹴破られたドアから黒い影が幾人も現れた。
「動くな! 抵抗は無駄だ!」
「こいつ、銃を持ってますよ」
「どうせモデルガンだ! なんだ、ビビってんのか?」
「まさか!」
それらは防護服に身を包み、黒光りする警戒棒を手にしている。
「な、なんであるか貴様ら!? いやいや、吾輩は天才! 天才は動揺などしないである! ごほん、死にたくなければ大人しくしろ! こちらには人質がいる!」
警備員か、それとも警察か。
招かれざる来訪者を前に、僅かながらミラーは動揺していたが、すぐさまジョーカーを切る。未だ発砲はしていないが、この男ならやりかねない。
「読み通り、それはモデルガンです! 臆する必要はありません、やっちゃって下さい!」
和夢さん、あんた何言ってんだ!? 証拠であもあるのか!?
「何を言っているであるか? このミラー・シュピーゲル(借り)は、公開すれば世界で大反響を巻き起こす代物である! アメリカでは爆売れ間違いなし!
「やっちゃいますか?」
「やっちまおうか。正当防衛だ」
「急迫不正の侵害行為から、顧客や他人の生命・身体・財産を防衛するために止むを得ず……ですね」
「警察に丸投げしてもいいが、俺らにもメンツがある……って、お嬢ちゃんが倒れてるじゃねえか!」
「いたいけな少女を……許せませんね、やりましょう」
「4号の意地を見せろ!」
コソコソと相談した後、黒い団体は雪崩のようにミラーへ殺到する。
「チッ、撃つであるよ!? ほ~らバーンバーン!」
思わず目を伏せ──だが痛みが無いことに目を開く。
当の本人も驚いた顔で、作動しない銃を心底驚嘆した表情で見つめていた。
「あれ?」
「確保ー!」
「ぎいぃいやああああああ!?」
黒い波に呑まれ行くバンド風のおじさん。
手にした得物は手を離れ、空しくもボコボコにされていく狂気のおじさん。
「警備保障です!」
「非常通報を受け取りました、ご無事ですか!?」
暴力の輪にハブられ……もとい、出口を固めていた何人かが駆け寄る。
もう心配はない。そう思うと、途端に体から緊張が抜けていく。
「は、はい」
「大丈夫です、問題ありません」
気の無い返事しか出来ない俺の声を、元気な新菜の声が上書きする。すくっと立ち上がって埃を払い、何事も無さげに微笑んだ。
「助かりました、本当にありがとうございます」
そう言って、深々とお辞儀。ひらりと舞い、未知の領域が垣間見えそうな予感──
『ごー主ー人ー?』
予感は、網膜に移る幻想に遮られた。
「は、離すである! いや、話すである!」
「後でじっくり聞く! 大人しくしてろおらぁ!」
「どこ触ってるである! やめるである!」
「じっとしてろコラ!」
「やめろ! 何するである!」
「3人に勝てるワケないだろ!」
「そこはダメである! あっ」
「ふざけてんじゃねえよこっちは正気だおらぁ!」
「あっあっあっあっ」
慎ましやかに、それでいて乱暴に。
マッドサイエンティスト、ミラー・スミスは去った。
「事情聴取は必要ですか? 私が同行します」
喧騒が止んだ開発室で、和夢が我先にと声をあげた。
「あ、そうですね。お辛いでしょうが、よろしいですか?」
「慣れていますので。お前たちは少し休んでいろ」
そう言い残し、和夢も去った。
「何だったんだ……」
嵐は去った。
だが、嫌な予感。
「大変だったね」
「え、あ、まあ、うん。そうだよな、大変だったな」
ニコニコと笑う新菜に対し、咄嗟に出た言葉はそれだった。まるで動じた様子が無い……この子、どれだけ出来た子なんだろう。
しかし何だったんだ、あのおじさん。人工知能を求めてここに来た? AI搭載の銃? しかもモデルガン? とんだ非日常だ、ハヤナがいる時点で普通ではないと覚悟していたが。
「ドアも修理しなきゃだけど、お兄ちゃんは大丈夫? 怪我はない?」
「平気。うん、平気。俺よりも、新菜の方が心配なんだけど……」
吹き飛ばされてたし。
「何も問題ないよ。じゃあ、ちょっと連絡してくるね」
「どこに?」
「保険屋さん!」
「はあ……」
どれだけしっかりした子なんだろう。新菜は何とも無い様子で、開発室を後にした。
俺もここにいるのは何だか気分が悪いので、とりあえず休憩スペースへ赴き、ソファへ腰を下ろす。大きなため息を吐き出して、心を落ち着かせようと努力する。
『…………』
宙に浮かぶ少女は、心ここにあらず、という表情。
「なあ、ハヤナ」
『はっ!? はい、なんですか?』
「いや、大したことじゃない……大したことだけど。お前は大丈夫なのか?」
強盗という一大事。しかも目標はこの少女──もとい人工知能だ。さっきはいくらかの愛嬌を見せてはいたが、今は暗い顔を無理に晴れ模様に変えている。やはり辛いものがあるのかもしれない。
『勿論ですとも! 第一、あんな変態おじさん知りませんよ! 私の製作者は、もっとイケメンで、高身長で、裕福で、エレガントだった気がします!』
「最後の一文で台無しだぞ」
『エレ……エレ……エレクトリックでした!』
「お前の親も人工知能なのか」
もう世界終わってるかもな。
『えぇい、そんなことは些細な問題です! これ以後は、和夢たちがセキュリティレベルをあげてくれるでしょう! 健気に働く私の為に! だからもう安心ですよ!』
「だといいけどさー」
正直、しぶとく襲ってきそうなんだよな、あのおじさん。ゴキブリっぽいというか、異常にタフというか。執着心が半端なさそう。
『そんな暗い顔しないで下さい! こんな時こそゲームしましょう、ゲーム!』
「空元気じゃねーのか、それ」
『根暗ですねご主人、そんなんではこの先生き残れませんよ?』
「これでも心配してやってんだぞ?」
『はっ!? それってもしや、求婚ですか!? ダメですよ、私、心の準備が!』
「話が通じてねえ! やっぱお前、あのおっさんの子供だよ!」
確信した、間違いないわ。世界はきっと大丈夫……やっぱつれえわ。
『ごほん、まあそれは置いておいてですね』
「切り替え早いな」
『こちらをご覧ください! 【アイレス☆ドールズR】に搭乗するメインヒロイン、ナツメちゃんです! モデリングは業界内では最高の出来ですよ!』
そう言って身を翻すと、視界に新たな影が差す。幽霊のように音も無く、気配も無く現れた人影──絶賛誠意製作中のゲームに登場する、一人のキャラクターだった。
ハヤナと正反対な漆黒の髪に、強い意志を秘めた瞳。とてもこの世ならざる異常の存在が降臨。触れれば触れる距離に、美少女が二人もいる!
『可愛いでしょう? 可愛いですよね? まあ私には敵いませんが! ユーザーは彼女の装備、もといえっちぃ着せ替えの為に金を──いえいえ、お布施をするのです! プレイ年代は幅広いでしょうが、実際に課金するのは30~40代でしょう! 理不尽な社会に疲れた大人たちが、癒しを求めてプレイするのです! なんて健全なのでしょう!』
髪も細かく表現し、風に揺れる演出にも力が入っている。表情も滑らかに切り替わり、本当に生きているかのように錯覚してしまう。技術の発展ってすげー。
『私は知ったのです、子供よりも大人を重視するべきだと! 世は少子高齢化、購買力を持った独身が蔓延っているのです! そこを狙わない手はないのだと! 架空とはいえ現実に美少女が! そんな子のためなら万札の犠牲など取るに足りません! そしてコスプレ大会をおっぱじめるのです! Web小説もそうです、何故俺Tsueee系が未だ流行ってるか知ってますか? 自己投影していい気になれるからですよ! まあ上澄みはそうでもないですが、最近は食傷気味です」
だらだらといらん説明を続けるハヤナ。ちょっと黙ってろ、今から未知の領域がどれだけ作り込まれているか確認するんだから。
ふと気づく。
あれ、これっておかしくないか。
「おいハヤナ、これはどういうことだ!?」
『私、また何かやっちゃいました?』
「お前も毒されてんな、不気味だぞ」
『黙れ(ドン)』
「そんなことよりもだ!」
『ぶっちゃけ、課金するのが当たり前って人種は信用できません』
「製作者としてそのぶっちゃけはどうなんだと突っ込みたいが話を聞け!」
『判断力の乏しい人間を煽る構造を悪質な形で発揮してるアレが大嫌いです』
「原作の力なのに開発が自分の力だと思いあがったアレは置いてだ!」
言及したい! すごく言及したいが、今はその時ではない!
気を紛らわすつもりなのか、はたまた真実を追求されたくない故の出鱈目話なのかはどうでもいい。
「俺、MRデバイスつけてないぞ」
『それはご主人の錯覚ですよ!』
そんなまさか。
「いやいやいやつけてない! どういうことだ、何で見えてるんだ!?」
軽くパニック状態になりながら、漫画のように顔中をぺたぺたと触る。うん、デバイスの類はついていない。じゃあまさか……網膜ではなく、脳に直接?
いつかの地獄を幻視し、頭がどうにかなりそうだった。
『落ち着いて下さいご主人、心配する必要はありません!』
「するっての! え、マジで幽霊かなにか!? 見えちゃいけないものが見えてんのか!?」
『ゲームのキャラクターです、実在している存在です! とにかく落ち着きましょう、深呼吸です深呼吸! ひっひっふー、ひっひっふー』
「するか馬鹿! お前が落ち着け!」
馬鹿の相手をしてたらむしろ冷静になってきた。うん、落ち着こう。大丈夫、いつかの肉の世界は迫ってきていない。ここは現実で、あるべき世界だ。
『簡単に言うとですね、こちらの領域にデータをお引越ししたんですよ! MRデバイスで見るより高画質で高音質です!』
「データをお引越し? どういう意味だ?」
『えぇとですね……ご主人のツルツルな脳味噌に、ちょ~っとばかり領域をお借りしてですね』
「は……?」
脳に領域……それを借りる? つまり……どういうことだ。
落ち着け、冷静に考えろ。そもそも、このAIは脳に住み着いているんだ。14.26テラバイトの空きスペースに寄生する、電子生命体。
こちら、というのは俺の脳か。そこに引っ越しするんだから……つまり?
「侵略……?」
『違いますよ!? 問題ありません、多少記憶の再現に齟齬が発生するくらいです!』
「合ってるじゃねーか! すぐに消去しろ、というかハヤナも引っ越せ!」
『んな!? ご主人は私のことが嫌いなのですか!?』
「どうしたらそんな話になるんだ!?」
『女っ気の無いご主人に与えられた、可愛いくて愛嬌のある美少女なのですよ!? 手放すのは惜しいですよね、惜しいに決まっています!』
「うるせー! 美少女は自分からそんなこと言わないの! あまり思いあがるなよ、触れもしない存在だろうーが!」
『2次元は究極の幻想ですから価値があるのです!』
「はあ!? お前みたいな中身が無い存在に価値があると思ったか!? いやあるけど!」
下らないし不可能だとしか言えない、だけど熱心に取り組む夢が。
それは野望か、はたまた救済の光か。
「危険過ぎる! 内容の無い異世界アニメより悪質じゃねーか!」
『アレは元から無いではないですか! 虚無こそが至高! 積み上げた何もかもが無駄になったガンパムより潔いでしょう!?』
「知るかー! アニメを語るなら売り上げで語れ!」
『喋るオナホがいるだけで、有名イラストレーターが挿絵を描いたライトノベルの円盤より売れているのですよ!? 甲高い声で意味不明な歌を歌えば特典目当てにCDだって売れるのですよ!?』
「卑猥な言葉を使っちゃいけません! 内容の無い会話して美少女が無駄に悶絶する姿を視聴者は求めてるの! その割にエロ描写は無いけど! 一言で言えば音の出るゴミ! それに、あれは話がまったく進まないのが悪いんだろ!」
『現実描写はウケないから当然です!』
「ラノベも同じだ、編集から指示があるらしいからな! 読者のレベルに合わせろって! 売れるのは単純な内容とえっちな表紙! これがあればヒットするんだよ、薄っぺらい内容でもな!」
『いい年こいてラノベやアニメ見てるなんて、恥ずかしくないんですか!?』
「どこかの監督が言ってそうなセリフだな!?」
『殆どが違法視聴しているのですよ!? エロゲの割れ被害と同じです、声の大きい者ほど利益をもたらさないのです! 豚がいくら喚こうと知ったことではありません!』
「割れ対策はもっと強化するべきだという意見には賛成! まあいい、入院生活がどれだけ暇だったか、お前に分かるのか!?」
『むう……』
「よし」
なんか知らんけど勝った。
いや違うんだ、言いたいことはこんなつまらないことじゃない。
落ち着け、クールになれ。そうCool。
何か言い返そうと思考を巡らすハヤナと、仏頂面を保ち続けるゲームキャラクターへ目を向け、やはり幻ではないことを認識する。
間違いない。脳へ直接描写されたものだろう。
「で……引っ越したんだっけ? 何でそんなことしたんだ」
静かにハヤナへ尋ねる。
もう声を荒げるつもりも怒るつもりもないのだが、ハヤナはシュンとなった表情で口を開いた。
『それは、ですね……』
言い淀み、思案顔。
『そ、そうです! 作業に疲れたご主人の身を案じて、美少女に囲まれるという野蛮な夢を叶えようと思ってですね!?』
慌てたように綴るが、それが嘘であることは明白だった。
「で、本音は?」
『…………』
フリーズ。
なんだ、人工知能ってのも案外ショボいもんだな。処理が追い付いていないじゃないか。
いや、違う。
ハヤナはポンコツAIなんかじゃない。
確かに生きている、一人の人間だ。
『友達が……欲しかったんです……』
ぽつり、一滴。
まあ、なんとなく予想は出来ていた。
和夢や新菜は呼び捨てなのに、この存在にはちゃん付けだ。特別扱いしているのは明白。たとえ仮初のものだとしても、ハヤナにとっては世界を共有する大事な欠片。
「そうか。まぁ……いいけどさ」
『怒らないのですか?』
「問題無いみたいだし、いいんじゃねーの。で、パンツの作り込みはあそこの会社より上なのか?」
『それは勿論ですとも! パンツだけではありません、汗で透けるブラ、柔らかに揺れる胸、唇の立体感は、それはもうどこも太刀打ち出来ない造形で──って! 何覗き込もうとしてるんですか!?』
「確かめようかと」
『浮気ですよ!? 犯罪ですよ!? 辱めることは許しませんよ!?』
「あ、もうちょい──」
『ナツメちゃんの貞操は私が守ります! 天罰!』
「──ッ!?」
屈んだ俺の視界に火花が散った。
共に、鈍い衝撃──殴られたような感触だが、物理的に殴られてはいない。俺意外に誰もいないんだから当然だ。眩暈と気持ち悪さにのたうち回っていると、人工知能の鮮明な音声が脳裏に響いた。
『だ、大丈夫ですよねご主人? 死んだりしませんよねご主人?』
犯人はお前か。
「何……しやがった……!?」
『あっ、無事みたいですね! ええそうですとも、ご主人はゴキブリ並みの生命力を持っているのですから、易々と死ぬワケがありませんとも!』
「何したって聞いてるんだよコラ……!」
『いやーん怒らないで下さいよ~! ちょっとばかし脳の回路に負荷をかけてですね?』
「やっぱ危険だ! 引っ越せー!」
『えぇ!? 見捨てないで下さいご主人~!』
日常は非日常。
最近、どんどん酷くなっていっている気がする。
まあ……刺激的といえばそれまでだが、一歩間違えれば死に直結する。するよな?
でも何故だろう、意外と悪くない気もしている。
ぽっかり空いた心の隙間が、少しづつ、少しづつ……埋められていく感触。
ヘラヘラ笑う、人工知能がいる非日常。
慣れてしまえば悪くない──多分。
「さっきからずっと仏頂面だけど、何か出来んのか?」
それは黒髪の少女を差した言葉だった。
『勿論ですとも! 私の演算技術を用いればなんだって出来ます! では早速……ナツメちゃん、お願いします!』
ハヤナは両腕をナツメというキャラクターに向け、なにやらパワーを送り込む。まったく無駄な動作だとは思いつつも、何が起こるのかという期待が胸中に涌いた。
波動を受け取ったのか、ナツメの瞳に光が輝き──動き出した。
『…………』
仏頂面と、相変わらずの無言を貫き──右腕から剣を顕現させる。デバッグ作業で見慣れた装備に間違いなかった。
それを振りかぶって決めポーズ。スカートが風になびく。中身こそ見えなかったが、その煽情的な太腿に目が釘付けになって──
「おかしくねえか」
『何がですか?』
「いや、ここでスキル名叫ぶじゃん」
『あ、音声データの引っ越しはまだでした』
「えぇ……ほんとポンコツだな」
『なんですとっ!?』
だって事実だし。
「待て待て、そもそも音声データあったっけ?」
あまりのことに混乱していたが、ようやく冷静になってきた。
ええっと、確か先々週あたりに、誰だったかプロの声優を起用した筈だ。この間、僅か2週間。プロのスケジュールなんて埋まりに埋まっている筈、到底収録なんて不可能だ。ましてや、新規のソーシャルゲームなんかを優先するワケがない。
先程の決め台詞は、脳内で勝手に補完していたものだ。スキルの発動には決め台詞、まあ当然。呪文に似たそれは誰かの──多分、ハヤナの声で再現していただろう。
『ふふんっ、実はあるのですよ!』
「またまた、冗談はよせ」
『この組織の力を見くびらないほうがいいですよ? あらゆる情報を収集し、声優の秘密を握り、スケジュールを組み替えさせるのはお手の物です』
「なんだそれ、おっかねえな。AVに出てたとか、そんなことを漁るのか?」
『ここからはご想像にお任せします』
「は……?」
郷愁に満ちた顔。遠く、どこかを見つめる瞳。
どうやらまじっぽい。
「嘘だろ……嘘だと言ってくれよ!」
『えぇ……マジ泣きですか』
「超人気声優だぞ!? 暗い過去を発掘するなんてサイテーだぞ!? 活動自粛したらどうすんだ!? 何枚かCD持ってんだぞ!? 夢を壊して楽しいのか!?」
『落ち着いて下さいご主人、声優業界も闇が深いのです』
「知ってるけどさ!? 新人の頃は端金でポンポン出演して、人気が無くなればバイバイする業界で、生き残るには営業して、偉い人のを咥えたりとかが普通だって知ってるけどさ!? それでも……うぅ、あんまりだー!」
『世は弱肉強食。力がある者にすり寄ってでしか生き残れないのです』
「うわああああああ!」
『気に入られた方は幸運でしょうね。ゲームのイベントでも贔屓してもらい、懸賞金をがっぽりしたりしました。アレはやらせだと誰もが気付いていましたが』
「いやあああああ!」
『あの変態も言ってましたね、世は無情だと……悲しきかな、誰しもが闇を持つのです』
「あんまりだあああああ!」
酷いよ、酷すぎるよ……。
俺たちの夢が、希望が、薄汚れていってしまう……。
『知っているでしょうが、口外は禁止ですよ? まあ、ご主人一人が呟いたところで誰も共感しないでしょうが』
「うっ……うぅ……」
『ご安心下さい、証拠は全て隠蔽されていますから! 後は、事実を知る者がいなくなれば、無かったことになるのです! さあご主人、忘れましょう! 何も聞かなかったことにしちゃいましょう!』
「お前……悪魔だな……」
忘れることなんて出来やしないのに……。
『小悪魔AIです!』
「知らねーよ……」
神よ、鉄槌を下せ。
この傍若無人な人工知能に。
『まあまあ。それよりナツメちゃんの造形はいかがですか? 完璧ですよね、完璧でしょう?』
「お前、エグイな……少しはいたわれよ」
『あっはっは、ご主人の心臓には毛が生えてるんですから、大丈夫に決まってます!』
「ひでぇ……」
渋々顔を上げ、ソファへ座り直す。
にっこにこのハヤナと仏頂面のナツメを見上げ、大きく肩を竦めた。まあ、業界なんてそんなものだ。幸い俺自身は声優にド嵌りしている訳でもないし、大した嫌悪感は抱かない。
「それで? 次は音声も引っ越しすんのか?」
『そのつもりです! 大分容量が大きいですが、まあなんとか収まりきるでしょう!』
「キツキツなのか!? やめてくれよ死んじまうよ!」
『大丈夫ですとも!』
「記憶に障害が出たらどうすんだ!? お前、責任取れんのか!?」
『はっ!? それはつまり、結こ──』
「違うわ! 本当に話通じねえな! はあ……えらい疲れた、もう止めよう」
口論にほとほと呆れ、自販機へ向かう。一本の炭酸飲料を購入し、乾ききった喉を潤す。
冷静になれと何度も繰り返し、体が冷めることを祈った。
なんかコイツ──以前より大胆になってきてないか? 前は照れながら言っていたというのに、この頃は臆面もなく口にしやがって……誑かされてる? 本当に小悪魔──いやいや冷静になれ、相手は人工知能だ。姿かたちはそれらしくとも、触れることが出来ない異世界の住人だ。
気にする必要は無い。
なんだかんだで気に入っている今が続けば、それでいい。
望んだのは俺だ。
「で……音声データってどれくらいの容量なんだ?」
飲料を半分くらい飲み干した頃、宙に漂ってナツメと戯れるハヤナに聞いた。
『まだ圧縮が済んでおりません。非圧縮で詰め込んでも良いのなら、そのまま移しますが』
「それはやめろ、少しでも無駄を省け。データ量が大きいソシャゲは嫌われるぞ」
『分かっていますとも! 分かっていますが、今回は音質に拘りました! 収録環境にも拘ったので、最高の音源ですとも!』
「最高?」
『ハイレゾ音源です!』
「は、はあ!?」
思わず叫ぶ。ハイレゾってことは、非圧縮された音源ってことだよな。
それの音声データだと? いくら一人分とはいえ、結構な数のセリフが用意されていた筈。短い単語ばかりだとしても、塵も積もれば山となる。
「えらいデータ量じゃねえか! 形式はなんだ、wavか!? そのまま移すなんて許さねえからな! せめてmp3に変換しろ!」
『仰る通りwavです!』
「でかいわ! 音ゲーじゃないんだ、拘る必要ないだろ!」
『マニアには受けますとも! 莫大な予算を掛けておいて普及に失敗したハイレゾですが、求める人は求めるのです! ご主人のスマートフォンだってハイレゾ対応のものではないですか!』
「流行に乗ってハイレゾ対応のイヤホンも買っちゃったけどさ!? 聞き慣れた音じゃねーと違いなんか分からねーよ!」
『可聴域のデータも増えてはいますが、可聴域外のデータも盛っていますからね!』
「ハイレゾなんてオカルトだ! 可聴域云々言うなら、CD規格自体無駄なデータばっかりだ!」
プロの音質評論家がランダムに流れるハイレゾとmp3を聞いても判別できない。それがハイレゾというものだ。
『まあ、ハイレゾ対応商法自体は上手く行ってるのが気に食わないんですよね』
「聞けーい!」
『まあ、倍音の成分を考えればハイレゾは正しいんですが』
「オーディオオタク位しか喜ばねーよ!」
『オタクだからいいんです! アニソンばっかり聞いてる金持ちオタクがターゲットなのですから!』
「可聴域外の情報量が増えて喜ぶ層がいるのはいいことだけどさ!? どうせハイレゾ対応SDカードを買っちゃうような層じゃねーの!?」
『あれは通販ページの大喜利を楽しむものです!』
「一理ある」
『急に冷静にならないで下さい』
Cool。そう、冷静になれ、流されるな。話すべきことはこんなことじゃない。
「まあ、信者一人に20万のマシン売るのと、一般人20人に1万のマシン売るのは同じだからな」
違うんだよなあ。
『ソーシャルゲームも同じです、全員にアイテムを買わせるつもりはありません。自分は違いが分かるのだと思い込んでマウントを取りたがる人間が買えばいいのです。同人上がりのアレのように』
そんなこと言うと叩かれるんだぞ。
「ぶっちゃけ、ノイズキャンセリングがあれば十分だと思う」
『電車内では必須ですからね!』
「技術屋が金融屋になっていってるのに、それでもものづくりをアピールしてるのは現実逃避だと思う」
『その思想は反日だとか在日だとか叩かれますよ!』
思ったことも自由に言えない、こんな世の中!
『だからこそ回帰の波が発生しているのです!』
「回帰?」
『最近、レコードやテープが流行しているのはご存知ですよね?』
「巷で噂のあれか。それともネットで真実のあれか?」
『実際に売れてるんですよ!』
「何がいいんだろうな、この時代に」
『不自由さがいいらしいです! ご主人も買いませんか? 買いましょうよ!』
「悪いな、俺はデジタル派なんだ」
『ですが腕時計はアナログですよね』
「ほっとけ」
『ハイレゾというのは、つまるところデジタルの波形がアナログに近いことをいうのです! ビット深度的に! 可聴域云々はサンプリング周波数の話です!』
「専門的過ぎて訳分からねぇ……」
『時間軸方向の正確性が上がるのですよ!』
「ますます分からねぇ……」
結局、デジタルの良さは気軽さだろ。音質云々は二の次だ。
「正直、プラシーボ効果だと思ってる」
『けなしてるほうもノシーボでしょうね』
「引き下がれないから必要以上に崇め貶すのか」
『完全に非対称戦争です』
「おっかねぇ」
『本人に効果があるのですから、いいではないですか!』
ごもっとも。
『イヤホンやヘッドホンの進化は行き詰るでしょうね。これからはbluetoothなどの付加価値を付けて値段維持するでしょう』
「技術的に無理なのか? 音質をもっとあげるとか。一般人は買わねーだろうけどな、アニメキャラクターが使ってるって理由で買う層も減ったらしいし」
『儲かりませんからね。オーダー型が主流になっていくかと』
「それこそ嘘っぽいな……」
そんな金のかかるモノを買うようになるとは思えない。大半の人が3000円程度のモノで満足していると勝手に想像しているのだが。
「あ、お兄ちゃんここにいたんだ」
透き通った声が響く。
ひょっこりと顔を出した人物は、メイド少女の新菜だった。
「休憩は終わりだよ、お仕事しよ!」
なんて無慈悲なことを、満面の笑顔で言ってくれるんだ。テロリストに襲われた直後だというのに。
「なあ新菜、ハイレゾ音源って知ってる?」
多分知っているだろうが、そうではない場合のことを考えて聞いた。
「レコードから300Aの真空管アンプから無酸素銅線のスピーカーで位相反転型のエンクロジャーを通して本物の音質の音楽を聴いてるから、ハイレゾって単語を聞くと鼻で笑っちゃうよ」
「……ん?」
「鼻で笑っちゃうよ」
最近の若者って怖いなぁ。
結局、音声データの引っ越し話は曖昧なまま打ち切られ、和夢が欠けたままデバッグ作業に突入。今日くらい休みにしてくれたっていいじゃないか。
いや負けていられない、俺の戦いはこれからだ。
久方ぶりの労働に、精神は即座に摩耗した。
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