深浦大和が死んだ
深浦大和が死んだ。
十一月二十二日水曜日の朝、登校した私に告げられたその衝撃的な知らせは、セピアに色褪せていた日々をモノクロに変えるのに十分だった。
恵那がいなくなってしまってから私の毎日はどこか赤錆に煤けていたけれど、今はまさに色素が抜け落ち切っている状態だ。
つい昨日まで一緒に言葉を交わしていた相手が、もうこの世界にいない。
しかも他殺や事故ではなく自殺。
恵那が亡くなったと聞かされた時よりもリアルな痛みを感じた。
なぜなら私は直感的に理解できていたから。
私だ。
深浦を死に至らしめた原因は、まず間違いなく私にあるのだろう。
具体的にいったいどれがトリガーになったのは不明だけど、もしこの短い間に深浦が自ら命を絶つことを決意したとしたら、私以外に理由は考えられない。
胃の中でふつふつと酸性度の高い液体が渦巻いているのが分かる。
森林限界を超えた山奥のように空気が薄く感じ、五感の働きはやけに鈍い。
どうして。どうして。浮かび上がるのはやはり疑問ばかり。
答えを与えてくれる者は誰一人いなかった。
「……ツナ、大丈夫?」
本来は食事をとるための昼休みに青のハンカチで口元を抑え、必死で吐き気を抑える私の背中を千絵が優しく撫でてくれる。
小さな声でありがとうと返すのが、今の私にできる最大限の友人を安心させるためにできることだった。
「でもまさか、深浦が犯人だったなんてね」
そしていやに平坦なトーンで千絵が再び、私の朝をかき乱した話題を呟く。
俺が恵那を殺した。その罪は俺が償う。
“Yamato Miura”、という名のアカウントで発信されたそのメッセージはちょうど今日の深夜零時のものだという。
そして今日の朝、瞬く間にこの知らせは学校中に広がり、噂の真偽を裏付けるかのように再び緊急集会が開かれた。
たった一日で、またも世界がひっくり返ってしまった。
いったいどうすればこの悪夢が終わるのだろうか。
無神論者の私には祈る相手がおらず、その事がこれほど心細く感じたことはこれまで一度もなかった。
それに悪夢はいまだ終わっていない。
恵那は消え、深浦も去り、闇には私が一人取り残されていた。
「深浦のこともあれだけど、やっぱりこっちだよね……このStoCって奴、本当に誰なんだろう。こんなくだらないデマ流してさ。ツナ、心当たりとかないの?」
千絵の問い掛けには答えないまま、私はもう一度彼女のスマートフォンの画面に表示された画像を見やる。
そこに映し出されていたのは私と深浦が昨日一緒に行動していた時に撮られたと思われる、幾つかの写真と投稿者の直筆と思われる手紙の写真で、投稿されたのはこれもまた今日の朝。
そこにはこう書かれている。
“事件の真相。深浦大和は日和恵那と付き合っていながらも、綱海鳴子と関係を持っていた。そんな二人を怪しんだ日和恵那が話をつけるべく尾行をしていたところ、ある日綱海鳴子が猫を虐待している現場に出くわす。そして口封じと深浦大和を独占するために、綱海鳴子は深浦大和と共謀して日和恵那を殺害。しかし深浦大和は自責の念に駆られ自ら命を絶ってしまった。繰り返す。これが事件の真相。綱海鳴子を決して許してはいけない。精神病質者である綱海鳴子を決して許すな”。
全体的に左側に傾いた筆圧の薄い字体。
私の見たことのない筆跡で書かれた手紙の内容は荒唐無稽な嘘ではあったが、きっとそう確信できるのは私だけ。
悪意ある虚偽か、達の悪いイタズラか判別はつかなくとも、その効果は絶大だった。
「気にしちゃ駄目だよ、ツナ。こんなの嘘八百だってうちわかってるから」
「わかってる。ありがと、千絵」
千絵だけはそう気丈に励ましてくれるが、もはや周囲の視線は無視できない領域に差し掛かっていた。
これまではちらちらと盗み見るような形だったのに、今では遠慮せずにろくに会話をしたこともないクラスメイトが睨みつけてくる。
それはもはや好奇心とは呼べず、敵意や警戒心、猜疑心と呼ぶべきものへと変貌していた。
「というかむしろツナは被害者じゃんね。盗撮されてるんだし。なのに皆してツナを犯罪者みたいな目で見てなんなんだろ。超ムカつく」
「なんで千絵が怒ってるのよ。大丈夫。私は大丈夫だから」
「本当に? もし殴って欲しい人がいたらちゃんと言ってよ? うちこう見えて腕力には自信があるから」
「殴って欲しい人なんていないよ。だいたいそんなことしたって、より一層事態が悪くなるだけだし。あと、千絵が暴行事件起こしても私庇ってあげないからね」
「えー? それ酷くない? ツナのためなのに。ふふっ。 でもなんか安心した。思ってたよりツナいつも通りだね」
千絵が柔和に顔を崩す。
ずっと沈んでいた気持ちが彼女のおかげで少しはましになった気がした。
完全に最低だったのが、まあまあ最低になった程度の差だけれども。
「だけど、これからしばらくの間、千絵、あんまり私に話しかけない方がいいかもね」
「え? なんで?」
「千絵まで私と同じ居心地の悪さを感じる必要はないよ」
「べつにうち居心地悪いなんて思ってないよ? むしろ、うち的には学校のどんな場所よりもツナの隣りがベストプレイスだし」
「なにそれ。……でもありがと」
「あ、やっぱりちょっとツナ応えてるでしょ? ツナがこんなに素直にうちにありがとうって言うなんて」
そんなことないよ、そう言って私はむりに笑う。
たしかに千絵は彼女の言う通り、全く周囲の目線を気にした素振りはない。
変なところで鈍感というか、強心臓なのだ。
だけど、千絵がこの現状を許しても、私が許せなかった。
私と一緒にいるだけで千絵もまた周りから異質な存在として扱われるのは納得がいかない。
それに正直に言えば、私は怖れていた。
これ以上千絵と私が共に時間を過ごせば、彼女にもまた不幸な出来事が起きるような気がしてならなかった。
『一年三組、綱海鳴子。至急職員室まで来なさい。繰り返します。一年三組、綱海鳴子、至急職員室まで来なさい』
そしてつい最近も聞いたことのあるような校内アナウンスを耳にしたところで、私は青冷めたハンカチをしまい席を立つ。
教室内は不気味なほどに静まり返っていて、誰もが私の方を様々な色を含んだ瞳で見つめている。
締め切られた窓は風を通さず、濁った空気を洗い流すことは誰にもできない。
「じゃあ、私ちょっと行ってくるね」
「うん。待ってる」
不自然なほどに響き渡る私と千絵の言葉。
正午過ぎには不釣り合いな沈黙の中、私は千絵に背中を見せ歩き始める。
千絵は待ってると言ってくれたけれど、そんな彼女に対して私は何も言葉を返さなかった。
なぜなら、戻るつもりはなかったから。
私の姿を見つければ、千絵は傍に来てくれる。
それは感謝すべきことだったが、同時に今の私にとっては重荷でもあった。
その後職員室に行くと担任の熊野先生と見たことのない警察の人が待ち構えていて、私は数十分ほど質問をされた。
訊かれたのはどれも些細なことで、私は全て正直に答えた。
恵那や深浦との関係や、最後に彼女たちと会話したのはいつで、どんなことだったか。
新聞部で猫の変死事件についての記事を執筆していると聞いたが、それはどのようなものか。
答えに窮するようなものは何もなかった。
そしてやっと質問攻めから解放された時、私は一応佐久本先生に最後の挨拶でもしておこうかと考えたが、先生の姿を見つけることはできなかった。
その後私は担任の熊野先生に体調不良を訴え早退の許しを得た。
五限目は体育なので、戻った頃には教室には誰もいなかった。
この日初めて心地良いと感じた沈黙の中で、私は机の内側を空きにしたところで、次いでに他のものも片付けてしまうことにした。
元々学校に荷物はあまり多く置いていくタイプではない。
他の生徒は授業中のせいか普段より広く感じる廊下の隅で、少しばかりロッカーを整理すれば私の欠片はこの学校から消えてなくなる。
空っぽになった自分のロッカーを眺めていると、不思議と心が少し軽くなった気がした。
※
十一月二十三日木曜日の朝、私はいつもより二時間ほど遅く目が覚めた。
両親はいつも私が学校に向かうより早く家を出てしまうので、私の起床時間を気にすることはない。
全身が妙に汗ばんでいて、倦怠感が身体中を包み込んでいる。
嫌な夢を見たような気がしたが、何の光景も思い出せない。
ナナフシみたいに不健康な腕を無意味に宙で揺らしてみる。
そこでやっと空気の冷たさに気づき私はエアコンの電源を入れた。
無駄に仰々しい音を立てて、生温い空気が部屋に送り込まれる。昨晩ベッドに入った時点で今日学校に行くつもりのなかった私は緩慢な動作でカーテンを開ける。
現実から逃げ出した私を皮肉気に眩しく太陽が照らしつける。
雲一つない快晴は、私の心模様とは正反対だった。
食欲も湧かないし、もう一度寝ようかな。
目覚めはずなのに、いまだ白昼夢の中にいるような感覚の私は、いっそ自分の意思で夢の懐に入り込んだ方がましに思えていた。
しかしそんな私の視界の隅で、電脳世界の社会から外れた持ち主似のスマートフォンが点滅する。
もしかしたら私の不登校を心配した千絵かもしれない。
それか噂に耳聡い詩音さんか。
でも今の私は指先一つ動かすのすら億劫だったので、二人のどちらだろうとすぐに返信はできないと思った。
メッセージの内容だけでも確認しておこうと、ホームボタンに指を重ねる。
浮かび上がった文字列は、『今日暇か? 暇だろ? 最寄りは西新井だったよな? そこまで行くからちょっと付き合え。天気もいいし』、だった。
どうやら私の予想は外れたらしい。
こんな雑な誘い文句を私に送りつける人は知り合いにたった一人しかいない。
私は“学校サボリですか? 天気もいいしの意味もわからないです”、と反射的に返事を打ってしまう。
冷静に考えるとこれは失策だった。この時の私はどうしようもなく疲れていたのだろう。
だからこんな致命的なミスを犯したのだ。それに天気もよかったから。
『今日は勤労感謝の日だろ。サボりだと思ってるのはお前だけだよ。それじゃあ二時間後に』
了承の言葉は送っていないのに、あの自分勝手な先輩は一方的に場所だけでなく時間まで指定してくる。
自室の扉を開ければ、リビングの方からテレビの音らしきものが聞こえてきた。
たぶん母親だろう。
母も父も今日は会社に行っていないことに今さら私は気づかされる。
外に出かける用事を両親に何と説明すればいいのか。
そればかり私は考えていた。
日差しが瞼を抑え込もうとする青空の下、私は家から徒歩十分程度の西新井駅を目指して歩いていた。
秋が深まり風も冷たくなってきているのに、街は案外活気づいていて、子供ずれの家族から祝日にも関わらずスーツを着込んだ社会人まで沢山の人の姿を見つけられた。
私は上は紺のシャツの上にジップパーカーを着込んで、下は黒のスキニーというまさに若者の私服といった出で立ちだ。
冬まで取っておこうと思っていたヒートテックもすでにシャツの下に着ている。
携帯に繋いだイヤホンからは憂鬱なグランジロックが奏でられていて、私の低調な心をそのままでいいと慰めてくれている。
時間はだいたい十一時半ごろ。
指定された時間通りと言っていいはず。
駅で待ち合わせと言っていたけれど、具体的に駅のどこだろうか。
改札口へと続く階段下の広場に着くと、もし私の方が着いているとしたらどうやって時間を潰そうか考える。
また食欲不振がぶり返してきたせいで朝ご飯を食べていない。久し振りに銀色の揚げたこ焼きでも食べようかな。
そしてあの中肉中背で特徴の少ない、休日の後輩をいきなり呼びだした横暴な先輩の姿を探すが案の定見当たらない。
私はとりあえず文句の一報でも伝えようかとスマートフォンのロック画面を解除したのだが、その時ふいに誰かが肩を叩く。
「綱海鳴子だな」
「え? あ、はい。そうですけどあなたは……?」
私の後ろに立っていたのはすらりとした華奢な体躯の女性。
頭にはニット帽を被っていて、真っ白なカーディガンと紅のチノパンはシンプルながらも素材の良さを表している。
年齢は三十代にも見えるし、二十代といわれても信じることができるほど綺麗な肌をしていて、必要最低限の薄化粧にも関わらず下手な芸能人以上に整った顔をしていた。
ただやる気がないというか、やけにくたびれた目つきをしているせいでどこかとっつきがたい雰囲気を感じないこともない。
服装のせいで一瞬分からなかったが、私はすぐにその私に声をかけてきた女性のことを思い出す。
「もしかして、タカラさん、ですか?」
「ああ、覚えてくれてるなら話が早い。さっさと行くよ。車に乗りな」
その女性は間違いなく前に一度秋葉先輩に連れて行って貰った、ホウ中華料理店の女店長だった。
店名のホウは、たぶん“宝”と書くんだろう。だからタカラさんなのか。もしかしたら中国系の血が流れている人なのかもしれない。
タカラさんはその挨拶といえるかどうかもわからない短い問答を経ると、すぐに踵を返して歩いて行く。
そして道脇に止めてある黒のジープに乗り込むと、窓から手を出してひらひらと振った。
それなりに目立つタカラさんの所有物らしき車の助手席に座ると、エンジンをすぐにかけ西新井の駅を離れていった。
「秋葉は先に店で仕込みをしてる」
「仕込み? あ、あの、すいません。私、まだ状況が掴めてないんですけど」
「は? なんだ? 秋葉から聞いてないのか?」
「はい。なにも」
「本当にあいつはクソだな。次会った時殴っていいぞ。アタシが許可する」
カントリー調の洋楽が流れる車内で、私はおずおずとタカラさんの横顔を窺っていた。
全くもって事情がわからない。
どうして秋葉先輩に呼び出されたと思ったら、中華料理屋の女店長の車に乗ることになっているのだろう。
まるで意味がわからなかった。
きっと私は許可がなくともあの不適切な先輩の脛くらいは蹴り飛ばしていた気がする。
「というかアンタ、事情もよくわからないまま知らない奴の車に乗ったのか? 本当に女子高生かよ。危機感なさすぎるだろ」
「いや、一応タカラさんのことは全く知らない人というわけでもないので。あ、それとこの前はご馳走様でした。どの料理も本当に美味しかったです」
「どんなタイミングで料理の感想言ってんだよ。アンタ、面白い子だね」
ふっと小さく噴き出すようにしてタカラさんは笑う。
基本的に無愛想な鉄仮面だが、笑顔は意外にも可愛らしい。
なんとなくそれを本人に言うと怒られそうなので実際に口にはしないがそう思った。
「まあいいや。秋葉からは今日臨時バイトとして綱海鳴子っていう後輩を紹介してもらうことになってる。午後からなんだから知らないけど、中国人の団体客が来るんだよ」
「バイトですか? 初耳なんですけど」
「バイトっていっても難しいことをやって貰うつもりはないから安心しな。基本的に配膳と洗い物になると思う。あとは注文……は中国語だし、むりか? アンタ中国語喋れる?」
「すいません。喋れないです」
「そりゃそうか。なら配膳と洗い物だけだな。簡単簡単。給料も弾むから、まあ頑張ってくれや」
「は、はあ」
私が気のない返事をすると、それも琴線に触れたのかタカラさんはからからと笑う。
中華料理屋で会った時は仕事中のせいか気難しい雰囲気だったが、案外よく笑う人らしい。
それにしてもあの秋葉とかいう阿呆は何を考えているのだろう。
バイトなんて全く聞いていない。
こんな大事な内容を言わずに呼びだすなんて頭がおかしいに違いない。
「それでアンタ、秋葉とどういう関係なの? あの馬鹿と付き合ってんの?」
「私ってあの人と付き合うなんてそんな馬鹿なことするように見えるんですか?」
「あはは。見えない見えない。でもなんとなくわかった気がするよ。なんであいつがアンタのこと気に入っているのか」
「私、あの人に気に入られてるんですか? 心外ですね」
「あいつが知り合いを店に連れてきたのだってアンタ以外には覚えてる限りいないし、もちろんバイトを紹介してくれたのも初めてだな」
信号が青から黄に変わり、すぐに赤になる。
緩やかに車は速度を落とし、道路を埋め尽くすパズルピースの一片に私たちはなる。
アコースティックギターの旋律が心地良く耳に馴染んでいった。
「秋葉先輩はバイト長いんですか?」
「中一の頃からだから、もう五年くらいは働いて貰ってる。性格はあれだが、まあ仕事はできる奴だよ。アタシほどじゃないけど、飯もまあまあ上手くつくれるしな」
「中一の頃からですか? よく雇いましたね」
「ああ。なんでも母親が精神系の病気で働けなくなってな、どうしてもあいつが稼ぐ必要があったらしい。あいつの家は母子家庭だから、大変だったろう」
「そう、なんですか」
てっきり私は遊ぶお金欲しさにバイトをしているかと思っていたけれど、実際はまるで異なる理由だったようだ。
いつもへらへらとして自由気ままに過ごしているように見える秋葉先輩がそんな環境にいたなんて知らなかった。
私はこれまでの秋葉先輩に対する言動が少しだけ恥ずかしくなった。
「バイトが忙しいせいで、あいつは中学はまともに学校に行けてなかったみたいだ。本当は中学生を雇うことなんてしたくなかったけどな。事情が事情だったからアタシも止められなかった。正直ずっと心配してたよ。でも高校に入ってからは、ちゃんと学校に行ってるようで安心してる。バイトも今は土日しか入らなくなったし」
心から安堵したような穏やかな顔で、タカラさんはフロントガラスの向こう側を見つめている。
この前秋葉先輩と一緒にタカラさんに会った時は口悪く言い合っていたが、この二人の間にはしっかりとした信頼のハーネスが繋がれているようだ。
「知らなかったです。あの人、あんまり自分のこと話さないので」
「だろうな。秋葉はなんというか、自己犠牲癖みたいなところあるからな。自分だけが損をして、それで全部丸く収まるならそれでいいみたいなこと考えてんだよ」
「かっこつけですね」
「ああ、そうだな。あいつ、かっこつけなんだ」
無事高校に入学して、今では不登校とはいえない程度に学校にも来ている。
そういったところから考えると、お母さんの容態がよくなったのか、それか何か別のところからお金の都合がつくようになったのだろう。
だけどそう簡単に生活が劇的に楽になるほど、この世界が不運な人に優しくできているとは私も思っていない。
何らかの形の代償をきっと秋葉先輩は払ったか、今も払い続けている気がしてならなかった。
「だからさ、本当に驚いたんだ。あいつが今日、忙しくなりそうだって言った時、手伝い呼んでいいですかって言ってきた時は。あいつにもやっと頼れるような相手ができたんだなって。あいつはもう、一人じゃないんだって」
信号はどこも青。
私とタカラさんを乗せた車を止めるものはどこにもない。
この先で秋葉先輩が一人で待っている。
急ぐ必要なんてどこにもないのに、なぜか心だけが逸った。
心の鍵を閉め、自分だけの世界に引きこもろうとしていた私を問答無用で呼びだした見栄っ張りな先輩の顔が、どうしてか今は早く見たくて仕方なかった。
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