restar01-04


 C国の悪神、つまり四凶の件。

 テューポーンの見方が正しければ、確かに面倒な話だ。


 デイモス相手なら、見つけ出して討伐してしまえば良かった。

 ま、探し出すのに苦労しているんだけどな。


 悪とか邪だろうと神は神。

 この世に必要とされて生じた存在だとテューポーンは教えてくれた。

 

 では、デイモスとは何だ?

 生き物が持つ負の感情がエネルギー体となって生じた存在。


 ではその負の感情はどうして生じる?

 生き物同士の生で生じてしまうモノだ。

 命の危険を恐れたり、欲を満たせないことで生じる自然な反応だ。

 とするならば、負の感情とは生き物の一部だと考えられる。


 悪であろうと神は滅ぼしてはいけないというのなら、デイモスは滅ぼしても良いのだろうか?


 ……いや、良いはずだ。

 俺は何を考えているんだ。

 人間同士であろうと、他の種族であろうと、自身の命を脅かす存在に対抗するのも生き物の自然な反応だ。


 悪神は命の営みで生じる事象を司っている存在だ。

 だがデイモスはそうではない。

 単なる悪意の塊だ。

 アレは何も司ってはいない。

 だから命を奪うために手段を選ばない。


 悪神とデイモスの違いはそれだけだ。

 だが、ささやかだろうと違いがあるというだけで、俺はデイモスを滅ぼすことに躊躇いを覚えずに済む。


 ……よし、何とか、気持ちに折り合いをつけられた。

 デイモスを倒す際に、タブーを犯すような気持ちでいたくないからな。


 それじゃあ、四凶の居るC国の神と会って交渉できるようゼウスに会おう。


・・・・・

・・・


「判った。テューポーンの言うとおりであろう。では、崑崙こんろんに居る伏羲ふくぎに連絡するからしばし待て」

「どこでお会いすれば宜しいでしょうか?」

「ここに来てくれるよう伝える。デイモスはお前の動きに注意しているだろう。準備もせずにC国に入るのは止めておいた方が良い」


 ヘラに呼び出され、俺が来るまでの間にゼウスは入浴を堪能していた。

 さすが大物というか、緊張感の感じられない様子にいつも通り少し苛つく。

 バスローブを纏い、ワイングラスを片手に居間で鷹揚おうようにくつろぐゼウスは、俺の説明を聞くと頷いた。


 ――ゼウスとヘラの仲は、少しは改善されたのだろうか?


 そんなことを思いつつ、ゼウスの姿が消えるのを見守った。


 三十分ほど過ぎると、再びゼウスが居間に姿を現わした。

 バスローブのまま、他の国の神に会いに行ったらしい。

 そんなことして怒られないものなのかと思っていたら、顔が人面の蛇身の男性も現れた。


「お前が玖珂駿介か。四凶のことで知りたいことがあるらしいな」

「はい。どうやら四凶が動いているらしいのです。それで封印する方法はないかと思いまして」

 

 恭しく礼をし、そして用件を伝えた。

 その大きな身体で床にとぐろを巻き、伏羲ふくぎは腕組みして俺を見下ろしている。


「ほう。滅ぼそうとは思わなんだのか?」

「最初は思いました。しかし、人にとって悪神でも神は神だと身内から指摘されまして、滅ぼすのではなく封印することに考えを改めました」

「なるほどな。不都合であっても事実は事実と受け入れる……そういうことか」

「仰る通りです。この世は人だけのものではないと考えれば、受け入れるしかないと」


 伏羲ふくぎはニヤリと笑い、ゼウスの方へ顔を向けた。


「面白い男だな。人間に害ある存在は、相手が神であろうと滅ぼさねばならぬと普通は考えるのだがな」

「我の養子むすこだからな」


 ゼウスが嬉しそうに俺を褒めている。

 ま、褒められていると判るのは嬉しい。

 ただ、俺が伏羲ふくぎの前で膝をついて話しているのに、足を組んでワインを嗜みながら笑うのは、やはり憎たらしいぞ……この去勢神め。


「玖珂駿介よ。四凶を封印するというのは、討伐と変わらんのだ。やることは一緒なのだよ」

「殺してしまうということでしょうか?」

「一見はそうなるな。だが、病にしても飢えにしても、そういった事象ある限り、それらを司る神……悪神と呼ばれる神はいずれ復活するのだよ。復活までに長い時が必要だとしてもな」

「では、四凶を倒してしまっても構わないということですか?」

「構わぬよ。だが、四凶を倒すならば后羿こうげいの矢が必要になる。……手に入れられるかどうかはお前次第だな」

后羿こうげいの矢とはいったいどういうモノなのでしょうか?」


 伏羲ふくぎは、后羿こうげいの矢について説明を始めた。

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