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「主よ。やっと我の力を使ってくれる時が来たようだな。長き間抑えていた力を解放して敵を殲滅する……任せよ」


 低音ボイスで頼もしいことを言ってくれるボーダーコリーテューポーン

 俺を見上げる、黒の白の……一メートルにも満たない身体から、ひるみそうなほどの圧力が吹き出ている。

 

「ふんっ。我が夫の意思だ。我も手伝ってやる」


 ボーダーコリーの後ろで、下半身が蛇身の美女エキドナが、切れ長の目に殺意を光らせている。

 相変わらず俺のことは嫌いらしいけど、最初に会ったときよりは口調にトゲはない。


「テューポーン、エキドナ、これまでの報告では、世界各地に潜む怪物には目立った動きは見られないということだったな?」

「そうだ。というのも、世界各地域の神々がこのところ監視を強めている。この国でも八岐大蛇ヤマタノオロチが嘆いていたな」


 うん、それは報告で聞いた。

 暴れるつもりはなく、ただ酒を飲みたいだけでうろついていたところ、御神酒を少しだけ味わおうと神社に立ち寄ったら、須佐之男が出てきて「また討たれたいのか?」と脅され、必死に逃げたとのこと。

 ちなみに、復活した八岐大蛇ヤマタノオロチは、相変わらず八つの頭と八つの尾を持っているけれど、そのサイズは大蛇オロチと呼ぶには小さく、人間ほどの大きさもないそうだ。

 テューポーンからその話を聞いて、日本酒二升渡したのだ。

 酒くらい、たまになら飲ませてやるから大人しくしとけってな。


「で、先ほど説明したように、C国で起きている異変の裏にデイモスが居るようなんだ。だが、俺の知っているデイモスには病の力なんかない。デイモスの身体はもともとギガースのものだから、そういう力を手に入れることもあり得るのか? どう思う?」

「悪神だな……多分」

「悪神がデイモスに力を貸している……ということか?」

「ああ、それならば説明がつく。病を流行らせる怪物はいる。だが怪物に動きがあるなら、我の耳に入らぬはずがない。だから先ほどの話は怪物の仕業しわざではないだろう。となると、残るは悪神が動いたと考えるのが自然だと思うぞ」

「倒せるか?」

「倒せるが……倒して良いかとなると話は別だ」

「どういうことだ?」

「悪神も神だ。この世に生じる事象を司っている。人間にとって悪でも、他の生物にとっては必要であったり、生物である以上自然という事象があり、人が罹る病もその一つ」


 ……なるほどな。

 人間からの視点では悪でも、生物界全体で見た場合は必要な、もしくはそれが自然な事象があり、それを司る神の存在は必要だということか。


「うーん、ではどうしたらいい?」

するしかあるまい」


 自分も封印されていたからだろう。

 封印という言葉を出したとき、テューポーンには嫌そうな空気があった。


「封印はどうしたらできるか判るか?」

「話を聞くと、推測だが、四凶の仕業だろう。となると、C国の神々の力を借りるべきだな。ゼウスならば会う方法を知っているだろう」

「判った。ありがとう。必要な時は力を借りるから、その時は頼むぞ」


 ボーダーコリーテューポーンを床から抱き上げた。

 エキドナが睨んでいるが、感謝の気持ちを伝えるのを躊躇ためらってはいけない。

 エキドナの殺意が濃くなったのを感じてちとビビってるけれど、気持ちよさそうに目を細めているボーダーコリーを優しく撫で続けた。


 ――C国の神か……手を貸してくれるといいが……。

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