anger01-07

 この近隣に民族解放人民戦線のTOPが居ると言う。

 主産業が農業で、特に目立ったところもない街で不穏な空気などないように見える。

 川はあるけれど、陸路も空路も不便そうなこの農業都市にデイモスが隠れている理由は判らない。


 ここら一体を見渡せる小高い丘の上で、周囲を確認していた。

 暑くもなく寒いわけでもない。

 ただ、丘の上だからか風がやや強い。

 首筋に入り込む空気が肌寒く感じるのはそのせいだろう。

 

 広い畑が目立つのどかな景色。

 だが、ここにはデイモスがテロリストのTOPとして居るはず。

 T国で見た惨劇が起きていなければいいが……。

 それが心配だ。

 あのような惨劇はできれば目にしたくはないからな。


 前回は素直に目の前に現れ戦いとなったが、今回もそうとは限らない。

 もしもデイモスが逃げるとしたらどのルートを使うだろうか。

 

「ニンフ達は今も監視している。デイモスがここに居るのは確かだ」


 デイモス退治に必須のエリニュスの腕に抱かれたクロノスが言う。


「今回は、アレス達は手伝ってくれないのか?」

「必要であれば来るだろうな。だが、彼等に頼らなくてもそろそろいいんじゃないか?」

「それはどういう意味だ?」

「デイモスを弱らせる程度なら、ゼウスから貰った杖を持つお前と我らだけで十分だろうということだ」


 デイモスと前回やりあって、多少痛い目に遭ったから、そりゃ訓練続けてきたさ。

 天上界でのアレスにも、三度に一度は素手でも勝てるようになった。

 だが、アテナには相変わらずダメ出しされてるし、ゼウスには手も足もでなかった。


 多少は強くなっただろうし、半神の力を持つから、人間よりは速く強くなっているんだろう。

 でも若者と違っておっさんの成長速度はそんなに速くないんだ。

 成長速度なら、同じ半神のネサレテやベアトリーチェの方が俺よりきっと上だ。


「負けるつもりはないけど、少しでも楽したいだろ」

「ここはお前に任せて、テューポーンの動きに注意しているんだろう。神々としてはデイモスの対処よりも、あの化物への対処の方が深刻に感じるからな」

「だが、ギガースの身体……ああ、エリニュス様が居るからか……」

「そうだ。完全に討伐できなくても、ここにお前とエリニュスが居る以上、大きな問題は生じない。そう考えているだろうし、多分、正解だ」


 ギガースの身体にダメージを与えられる俺と、デイモスを喰うエリニュス。

 確かに、敵の弱点を攻撃できる二人がいるから、さほど心配は無いと考えるのも不思議じゃない。

 だけど、何度も言っていることだが、俺は元々庶民だぞ?

 怖けりゃビビるし、逃げたくなるんだ。

 身体がすくむことだってあるだろう。

 そんな俺にあまり期待して欲しくないんだよ。


「それより、苛ついていた気持ちは静まったのか?」

「いや、気を紛らわしてるが……まだだ」

「戦いの場ではクールでいろ。熱くなったら足下掬われるかもしれんからな」

「ああ、気をつける」


 そうは言ってみたものの、どこまで冷静でいられるか自信はない。


 デイモスはこれからも、俺の大事なモノを傷つけようとするだろう。

 家族や仲間だけでなく、過去にまで踏み込んで来やがった。

 どこまでを視野に入れているか判らないんだ。

 自身の命すら大切にしないデイモスだ。

 他者の命など何とも思っていないだろう。

 ああ、T国での様子を思い出せばそうとしか思えない。

 そんな敵が俺を狙って、俺の大切なものを利用しようとしている。

 冷静でいられるわけはないんだ。


 だが、クロノスの言うことももっとも。

 勝たなければいつまでも落ち着いて趣味に没頭できないからな。


「この丘から北側がここらの住民の居住区。その先にある林の中、川の手前にテロリストの拠点がある。駿介、エリニュス、準備はいいか?」

「我はいつでも良いぞ」

「ああ、いつでもいける」


 俺達はニンフが見つけた敵の拠点まで転移した。

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