anger01-05


 牧場の自宅に戻って、捕まえた犯人二人を武田に引き渡した。

 武田には、大雑把にだが、こいつらが何をしようとしたか事前に教えていた。

 だから、気絶した二人を引きづって連れて行ったときには、部下らしき男達四名がいて、彼らは俺の手から犯人達を受け取ると黙ってどこかへ連れて行った。

 

「あとは頼む。徹底的に頼むぜ。国内の治安を一民間人いちみんかんじんに任せるなよ」

一民間人いちみんかんじんね……判りました。後はこちらで処理します」


 武田は苦笑しているが、俺が民間人なのは間違ってないだろう?


「それで、これからC国入りですか?」

「ああ、俺の入国は、ミハイルからC国には連絡が行っているはずだ。問題はないだろう?」

「ええ、我が国からも連絡しました。玖珂さんの名前は聞きたくないようでしたとのことでしたよ。ま、数千億円規模の……下手したら兆単位の損害を与えられても報復できないんですから、その態度も仕方ないでしょうが」


 仮想敵国のC国の損害が楽しそうな武田。

 だが、俺はどこかの国のためにやったわけではない。

 俺と俺の大事な人を狙うからやっただけ。

 武田の喜びに共感するつもりはない。


「知らん。水面下でとはいえ、各国で結んだ協定破って俺にちょっかい出してきたんだ。そのくらい諦めろって話だ。それに、人的被害は出していないはずだ。俺達の命を狙ったテロに協力した奴らには感謝して欲しいくらいだ」

「ついでに、我が国が抱えている領土問題も何とかしてくれませんか?」

「そんな釣りに乗るわけないだろう」

「でしょうね。……ただ、我が国の領土を侵犯してきたら、多少でいいですから、動いていただけると助かるんですけどね」

「フンッ。それか、最初会ったときにライトと話していた”例の計画”とやらは」

「どうせ判っていたんでしょ? 我が国もA国も、こちらに有利な領土状況作り、その上で軍事経費削減したいんですよ」

「具体的には判らなかったが、そんなことだろうと思ってはいたさ」

「協定もありますし、玖珂さんを利用しようとすると、A国からも睨まれますので要請はしませんよ。ただそうできたらどんなに楽かなと思っただけです。まあ、無駄口はここまでにします。テロリストの件、A国とも協力して早急に対応しますからご安心ください」


 そう言ってソファから立ち上がり、一礼して武田は家を出て行った。

 絵美を助けられて一安心し、ソファにもたれかかるとネサレテから声がかかる。


「お疲れ様でした。あとは、クロノス様からの報告待ちですか?」

「ニンフ達がテロリスト達の動きをクロノスにまず報告する。クロノスが動くのはそれからだね。その時は俺も一緒に動いて、少しでも早く終わらせるつもりだよ」

「ミハイルさんから封筒が届いています。仕事部屋の机に置いておきました」

「ああ、ありがとう。テロ組織に関連する情報だろう」


 俺の横に立ち、「紅茶のお替わりは?」と訊いてきた。

 「もう一杯欲しいな」という俺の返事に答え、台所へネサレテが向かう。


 ――さて、本腰入れてテロ組織を叩き、できるならデイモスも一緒に退治できたらいいのだが。


「仕事部屋に行くから、紅茶はそっちへ頼む」


 やはりすべきことを終わらせていないと落ち着かない。

 ネサレテに頼んでからソファから身を起こし、仕事部屋へ歩いた。



 ミハイルから渡された資料は、民族解放人民戦線に加わっているメンバーと支援者、そして拠点として使用している建物などの情報だった。

 クロノスに見せて捜索監視する際に利用して貰うことにする。


 封筒には一枚のメモ書きが入っていて、それには『メンバーの居場所は、分かり次第その都度報告して貰えたら、こちらで対処します』とあった。


 ああ、判っている。

 俺は組織のTOPに辿り着ければいい。

 犯行実行レベルの構成員は各国の組織に任せる。

 

 俺はクロノスからの報告を待つことにし、PCと睨みあった。

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