counterattack02-03


 羽田梨奈はねだりなは、数日後にもまたやってきて仲間になってくれと頼んできた。

 俺は自分の意思をはっきりと伝えたはずだ。

 それにも関わらず短い期間内にやってくるのだから、たいした心臓を持っている。

 彼女の気持ちが強いのは判るが、それでも納得できないことに協力することはしない。

 

 武田は羽田梨奈が牧場を訪問してきていることを怪訝に思っているようだし、俺にも理由を聞いてくる。

 ルポライターとしての仕事の関係で来ていると誤魔化してはいるが、多分、別の理由だというのは感じているだろう。

 だが、最初会った時と違い、俺が話さないことには突っ込んでこなくなった。

 脅しても、他の手段を使っても、俺の意思が堅いときには無駄だと判ってきているようだ。


 良い傾向だ。


 まぁ、羽田梨奈が俺の所に通っている間は、テロ組織に対して無茶な動きはしないだろう。

 だから「これに懲りずに、また来なよ」と別れ際には毎回言う。

 彼女も「ええ、諦めるつもりはないわ」と笑顔を見せる。


 テロ組織を潰そうという無謀な女性が、ペット牧場経営者を勧誘するというおかしな関係だと思う。

 だが考えてみると、最近の俺の交際関係は神々だの、諜報機関だのばかりが増えて、まともな関係と思えないものばかりだ。羽田梨奈との付き合いも、そういったおかしな関係の一つだと考えれば不思議はない。


 ライトとミハイルからまだ情報は来ない。

 何だかんだテロリスト達の特定や足取りを調査するのに時間がかかっているのだろう。

 けれど、急ぐ話でもないからしばらく待つさ。


 それに、俺はデイモスとの戦いに備えなければならない。


 アレスとの戦闘、アテナとの戦術などの訓練を数多くこなし、T国での時のような神々に頼りっぱなしの戦いにならないようにしなくてはいけないんだ。

 

「私は私の身を守れるようになります。戦いでも対等のパートナーになってみせます」

 

 ネサレテはこう言って、アルテミスの指導の下、実戦を想定した訓練をしているようだ。

 ベアトリーチェもその訓練に参加しているという。


「私も協力できるようになりますから、駿介は自分のことに集中して」


 こう言ってくれた。頼もしい。

 ちなみに、ベアトリーチェは近接戦闘と防御をアルテミスから教えられているようだ。

 ネサレテが弓で攻撃する際、無防備になる近い距離をベアトリーチェが補うためらしい。

 アルテミスの指導も厳しいらしいが、二人とも「楽しいですよ」と言ってる。


 アレスにボコられ、アテナに糞味噌に罵られている俺は、訓練を楽しいだなんてまったく思えない。

 口には出さないが、アルテミスに教えて欲しいとしばしば思う。


 今日も、アレスが率いる人型眷属の集団相手に、杖を使って戦う訓練をしている。

 敵の陣形の弱いところを見破り、的確に攻撃しないとアテナに「進歩がないな、これだからバカは困る」と吐き捨てられ、眷属に包囲されたところにアレスから殴られるというざまだ。


 そんなところへ今日はゼウスがやってきた。

 

「なかなか良い感じで絞られているようだな」


 ちょっと待て。

 その上下黒の武闘着は何だ?

 やる気満々と判る笑顔のまま裸足で歩いてきやがった。

 まさかとは思うけれど、ゼウス自ら俺を鍛えようとか考えてるんじゃないだろうな?


「さて、杖を置いて素手でかかってこい」


 げえ、……やはりか。


「手加減してくれよ?」

「ん? ま・さ・か」


 まさかじゃねぇんだよ!

 ブツブ文句を言いながら立ったところへ、アレスが「始め!」と合図した。


 特に構えもせずに、微笑みながらゼウスは近づいてくる。

 足を開き、両拳を構え、ゼウスの攻撃に俺は備えた。


「何秒もつかしら?」

「十秒もてばいいんじゃないか?」


 俺の後ろでアテナとアレスが勝手なことを言っている。

 その会話を聞き終えた時、急に目の前までゼウスが接近した。


「グフゥッ」


 いきなり腹に一撃いれられ、俺の身体は前に曲がる。

 続いて、顎に掌底が迫ってきたのが見えたので、俺は腕を交差して受け止める。


「さっさと距離を取らないからだ」


 足を刈られたようで、空がいきなり視界で広がり、俺は後ろ向きに倒れた。

 再び、腹に拳が入ってきた。


「ゲホッゲホッ」


 いや、半神になって、一応二年ほどアレスと訓練してきたよ?

 アレス相手にはそこそこ戦えるようにもなったさ。

 だからと言って、ゼウスやへラとまともに戦えるようになるわけないじゃねぇかよ。


 はっきり言わせて貰おう。


 絶対神のくせに、大人気おとなげねぇんだよ!!


「ふむ、この程度だと耐えられるのか。なかなか成長したじゃないか」


 拳を引っ込めて、俺の顔をゼウスはのぞき込んでニヤリと笑う。

 

「何をしに来たんですか?」

「ん? 退屈しの……いや、お前の成長具合の確認にな」


 おい、退屈しのぎって言いそうになっただろ?

 まったくこの不良中年ゼウスは碌なもんじゃない。


「で、本題は何ですか? わざわざアレスの領地まで来た理由は何ですか?」


 ゼウスは、訪問した本当の理由を話し始めた。

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