counterattack02-04


 上半身だけを起こし、痛む腹を押さえて息を整えている俺の頭上で、ゼウスが訪問理由を話し始めた。


「ガイアから連絡があった。テューポーンが移動しているということだ」


 テューポーンは、エトナ山のあたりの地下深くで封印され眠っていたらしい。

 だが、日本側へ移動しているのをガイアが確認したとのこと。

 去勢される原因となったテューポーンのことを話すゼウスは、憎々しげな表情と口調だった。


 ……この組み手は、八つ当たりなんじゃないのか?

 そうに違いないと確信した。

 だがそんなこと口にしても、この不良中年には否定されるだけだろう。

 

「封印が解かれたということですか?」

「一部な。エトナ山の地下から移動できるようにはなったらしいが、地上に出現することはできないだろうとのことだ」


 テューポーンの巨大な身体が地下を移動したら、進行ルートの上、地上では地震が起きてもおかしくはない。


「大丈夫なのですか?」

「封印後のテューポーンは、ギガースのように実体があるわけではないからな。地上への影響はないだろう。だが……」

「だが?」

「アレが目指しているのは、お前がいる場所だろうとガイアは予測している」

「それはどういうことでしょうか?」

「判らん。アレの目当てがお前なのか、それとも別の何かなのかまだ判らない。ただ、注意しとけよ? 我らも注視しておくがな」


 テューポーンのような化物が近づいてきているのに、その目的が判らない。

 こんな不気味なことはないだろう。

 しかし、いつも思うが、ゼウスが顔を出すと碌な話が来ない。

 疫病神かよ。

 ……去勢神で疫病神……近寄りたくないんだがな。

 これも口に出せないけどさ。


「また良からぬことを考えてるな? 雰囲気だけは判るのだと何度言えばいいのか」

「いやぁ、ゼウス様が顔を見せると、トラブルへの心の準備が出来ていいなと考えてたんですよ」


 風で揺らめく黒い胴着で仁王立ちし、腕組みして俺を見下ろしながら睨んでいる。

 いつの時代の武闘家だよってんだ。

 拘るなら鉄下駄履いてろよと言いたい。


「まぁいいが、テューポーンに関してガイアとも話し合ったが、今度何かしでかすようなら、タルタロスへ送り込もうと考えてる」

「奈落へ?」

「そうだ。以前は無常の果実を食わせて弱体化させ、地下へ封印することしかできなかった。だが今度は二度とこの世界で悪さできぬようにする。その時は駿介にも協力して貰うからな」

「へ? 私に?」

「ああ、そうだ。テューポーンが相手となると、我とお前の力が必要になるだろう」

「アレス様達の方が良いのでは?」

「もちろんアレ達の力も借りる。だが、お前と違って不死ではないからな。我とお前が主戦力になるだろう」


 へラから戦えと言われてるからテューポーンとは戦うさ。

 だけど、タルタロスへ送る手伝いなんて話は初めて聞いた。

 だいたい方法が判らないのに、何をしろと言うんだ。


「私は何をすれば宜しいのですか?」

「弱らせるところまでは我と共に戦う。そしてタルタロス送りの際には、我とガイアの二人は転送するために力を使うから、その間はお前一人でテューポーンが逃げぬよう押さえるのだ」

「は? テューポーンって巨大な化物ですよね?」

「今は実体を持っていないから、弱体化するとサイズも小さくなる。心配はいらん」

「心配にもなりますよ!! ゼウス様でさえ一度は敗れた化物ですよ? 小さくなったとしても私で押さえられるような敵なんですか?」

「その辺はお前の頑張り次第だな」

「そんなぁ……」

「先ほど、我の拳を受けても戦闘継続できるようだった。あれなら、ま、きっと、多分、おそらく、………………うん、大丈夫だろう」

「自信なさそうですね?」

「だからもっと強くなれよ?」

「例によって例の如く、私には拒否権ないんですよね」

「うむ、その通りだ。ワッハッハッハッハッハ……」


 ワッハッハじゃないんだよ。

 まったく……へラと同じ部屋に一週間ほど閉じ込めるぞ!

 説教くらい続けて、せいぜい絞られるがいいんだ。


 ……そんなことできないけどさ。

 だが、そのくらいの仕返しはしたいところだ。


「聞いていたであろう? そういうことだから、アレス、アテナ、駿介をガシガシ鍛えてやってくれ」

「おう、判ったぜ」

「判りました」


 ……今以上にかよ。


 アレスは舌舐めずりしてるし、アテナは厳しい視線を俺に向けている。

 

 はああ……ため息しかでないとはこのことだ。

 ウムウムと何かに頷きながら去って行くゼウスの後ろ姿を見送り、これからのことを考えないようにしていた。

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