counterattack02-02
羽田梨奈は、ごく普通の保険契約でもするように勧誘してきた。
「は? 仲間になれと?」
「私の目的に協力してくれるなら、私もあなたに協力するから……。公安などと違う情報ルートを持ってるのはこれまでの話で判ったでしょう?」
「それは判った。だが、目的とやらが判らないうちに手を組むことはできない。それに、その目的とやらは、仲間でもない私に話すつもりはないだろう? それにだ。俺にあなたの力が必要だとどうして思うんだ?」
「勘よ」
「ははっ、勘ね」
「笑うといいわ。でもね。何を決めるにしても、どの情報を信用するかにしても、最後は勘が必要になるものよ」
まあ、間違ってはいないな。
蓄えた知識、集めた情報、積み重ねた経験。
それらを元に判断し決断する際、勘が必要な場面は必ずある。
特に非日常的な判断が必要な場合、勘の重要性はあがる。
「断ったら?」
「……正直、困るわね」
羽田梨奈は目を伏せ、沈鬱な表情を見せた。
演技には思えない何かを彼女の空気に感じた。
「どうしてだ?」
「これも勘なんだけど、あなたは私の目的の邪魔にきっとなるからよ」
「何をしようとしてるんだ」
「復讐よ」
「民族解放人民戦線への復讐か?」
羽田梨奈について情報を集めた時に武田が嫌々見せてくれた羽田孝治の資料には、逮捕されていた民族解放人民戦線の幹部の一人を解放する際の取引で羽田孝治が引き渡されたとあった。
それまで組織のテロ行為を数多く請け負っていた羽田孝治を売ったということ。
「……そうよ……。父はいずれ捕まったでしょうし罰せられるのは仕方ないわ。それだけのことをしたんですもの。でも、父を売ったあいつらは許さない。あいつらに復讐するためなら、私は何でもするわ」
「それが無関係の人達を傷つける行為を手助けになるとしてもか?」
「ええ、そうよ。そうでもしなければ信用されない。信用されなければ組織の上とは繋がれない。私の持つネットワークは、父が使っていたモノなの。当然、組織の連中も知ってる。私独自のルートも少しずつ築いてきたけれど、まだまだね。奴らに復讐するにはいろんなものが足りないわ。だから……」
「だから?」
「あいつらの爆弾テロを未然に防いだあなたなら、あいつらの武器も無効化できるんじゃないかって……」
うーん、テロ組織を潰すのに協力するのはやぶさかではない。
俺達を攻撃してきたんだ。
羽田梨奈のことがなくても潰してやろうという気持ちはある。
どうする?
彼女の仲間になるのは却下だ。
だが、放置していていいかと言えば、違うだろう。
組織上層への信用獲得する手段とはいえ、テロに協力しているのは確かだ。
止めさせるにはどうしたらいい?
テロ組織を潰してしまうのが手っ取り早いが、口で言うほど簡単ではない。
何せ、敵にはデイモスが関わっているだろうからなぁ。
関わっていなければ、たかがペット牧場経営者の俺をテロのターゲットにするなどありえない。
T国で消滅させたデイモス達から、俺の情報を手に入れているはずだからこそ狙ってきたのだ。
ここまでの予想は外れていないはず。
「なあ? 民族解放人民戦線の壊滅は……私に任せるつもりはないか?」
「イヤよ。私が十二歳の時、父は組織に売られたの。それから十六年。組織に復讐するためだけに生きてきたのよ。今更他人の手に渡すつもりはないわ」
「詳しいことは教えられないけど、現在の組織のTOPを倒すことができるのは私達だけだよ? 嘘じゃないんだ」
「……あなた、何を知っているの?」
「すまないが教えられない」
ああ、感情的になっているのが判る。
人生の半分以上を賭けてきたのだから、気持ちは判る。
だが、無駄だ。
相手は人外なんだ。
彼女にはどうすることもできない存在なんだよ。
「ねえ、お願い。私に力を貸して」
「逆だ。君が私に力を貸すんだ。組織は必ず潰してやる。これ以上、テロに協力してまで動くのはやめるんだ」
「……それだけはできないわ。私のこの手で……」
「無理だ」
「無理でもよ!」
エリニュスを今からでも呼ぶか?
執着心を喰ってもらえば彼女も冷静になるんじゃないか。
どうするか迷っている間に、羽田梨奈はソファから立ち上がった。
「今日のところはこれで失礼するわ。あなたのことを諦めたわけじゃないから、忘れないでね」
最初と同じような表情を取り戻し、一礼して応接室から出て行った。
さて、どうしたらいいのか……。
武田達からの報告を俺は当面待つこととした。
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