反撃開始

counterattack01-01

 デイモスの生き残り、T国騒動の際に民族解放人民戦線のファハドになり替わっていた一体は慎重になっていた。

 T国を利用し、大きな騒動を起こして人間に害を及ぼそうとしたけれど、神々と半神により素早く対処され、目的を達成できずに終わってしまった。


 ギガースの身体……粘体のおかげで、姿形を変えるのは容易だ。神力を自身の力に変えられるから、いかに特異な力を持とうとも、力を使用する際に神力を纏わせてしまう神々はエリニュスを除けば怖くはない。


 問題は、T国で戦闘に参加していた半神の男女だ。

 神力を纏わせずに特異な力を使用しデイモスを攻撃できる。

 姿形を変えられることと、ギガースの持つ身体能力の他に特別な力を持たないデイモスには、半神の存在だけがやっかいだった。


 ――あいつらを排除せねば、T国での二の舞になる。


 四体居たデイモスも自分だけとなった。

 生き物から負の感情が生じる限り、いずれ新たなデイモスが生まれるだろうが、少なくとも当分の間……どのくらいの期間になるかは判らないが……は、自分だけだろう。

 自身を生み出した生物達へ、復讐できずに滅ぼされるのは我慢がならないと考えていた。


 それに、何をしているのかは判らないが、デイモスの力の源である負の感情が、身体から失われることがある。今のところ、大きなダメージを伴うものではない。

 だが、放置していいものとも思われない。

 この件にも神々と半神が関わっていると考えている。

 一旦生じた負の感情が消えるなどというのは、自然に起きることではないからだ。


 デイモスは負の感情が集まり、澱み、稀に生じる精神体化によって生まれる。

 最初は意思を持たないが、長い長い時を経る間に意思を持つ。

 生じる意思は、一つの時も有れば複数の時もある。

 共有している意思は、自身を生み出した生き物への復讐。

 

 生き物が存在する限り、負の感情が増えることはあっても減ることなどないはず。

 だが、減るのだから、そこには何らかの恣意的な意思による動きがあるはずなのだ。


 そのようなことは人間にはできない。

 少なくとも現在は不可能なのだ。 

 

 神々と半神ならば可能性はある。

 現在の身体には神々はたいしたことはできない。

 だから半神を滅ぼさねばならない。


 そこで、ファハドの部下、テロリスト達を利用し、半神の排除はできないかと考えた。

 まともにやりあっても、半神相手では人間に勝ち目はない。

 どのような手段を用いれば、半神どもを排除できるか?

 良い案が浮かばずにいた時、C国のエージェントから依頼が入った。


 『玖珂駿介の誘拐もしくは殺害』


 どのような手段を用いようと、半神の殺害は人間には不可能と判っている。

 誘拐も無理。

 だが、どこに居て、どのように生活しているかが判れば、デイモスが動き出す際に何か役立つのではないかと考えた。成功報酬の金には興味はないが、情報には興味がある。いや、情報だけは欲しいと考えていた。


 そこでデイモスは、部下の三名を犠牲にするつもりでC国の依頼を受け、玖珂駿介の現状の状況を手に入れる。

 まずデイモスは、一名を玖珂駿介の牧場を監視させるために送り込む。

 そして他の二名には、牧場から離れた場所でと念を押し、手段は任せて玖珂駿介の殺害を命じた。

 監視役はともかく、実行役は切り捨てるつもりである。こちらの攻撃に対しどのような反応が生じるかだけ知りたいのだ。

 

 ……デイモスは薄暗い笑みを浮かべて結果を待った。

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