counterattack01-02
うちの牧場を監視する者達が大勢……二十名程度のようだが居る。
各国から派遣された者達で、俺と他国のエージェントの動向を監視している。
ある者は牧場見物客に混じって、ある者は遠くから望遠鏡等で、ある者ははっきりと自身の存在を俺に伝えて監視しているのだ。
……ご苦労なことだ。
ミハイルにはうちの男子寮の一室を貸すこととなった。
「私も家でペットを飼ってるんです。ですから、お手伝いできますよ? あ、給料はいりませんからご心配なく」
素性は知られているのだし、そばに居なければならない。
ただ黙って見ているのも暇だからと言ってきたのだ。
こちらもクロノスの力が及ぶ範囲に居てくれる方が楽だ。
万が一のことが生じても対策がとれる。
そこで神田の下で、事務処理をこなして貰うこととした。
俺の仕事スケジュールは事務所で判るから、ずっと監視していなくてもいいだろう?
空いた時間には、へラの家のベランダで日光浴しているアレクセイの様子も見守れる。
ミハイルがここで働きながら俺を監視することになり、それを知った
「どういうことも何も、あなた方は俺を監視するんだろう? ミハイルはここで働いた方が監視しやすいと考えただけさ。R国とは国交も開かれているんだ。彼がここで働くと何か問題でもあるというのか?」
「つまり、どうしても我が国とA国のために動くつもりはないと?」
「各国で話し合って、俺に対しては不干渉となったんじゃないのか? 違うというなら、話は変わるがな」
「……R国は、潜在的敵国の一つだ」
俺を睨み付けながら武田は低い声で言う。
「それは偉いさん達の話だろ? 俺には関係ないな」
「玖珂駿介。我々が本気になれば、この牧場を潰し、おまえ達を捕えることもできるのだぞ?」
「その脅しには乗らない。あんた達の好き勝手を他国が黙っているというのか?」
ま、俺自身で自衛できるが、それは言わないでおく。
「愛国心はないのか?」
「この国は好きさ。生まれた国だしな。だが、あんたらの言う愛国心ってのは、あんた達の都合良く動く気持ちのことだ。それは全くないね」
愛国心だの忠誠だの、その手の言葉を交渉に利用する輩が俺は大嫌いだ。
論理的で妥当な理由もなく、他人を思い通りに動かそうとする輩が使う言葉だ。
そもそもその言葉を使う輩自身は愛国心など持ち合わせていない。
今までより武田が嫌いになったのは言うまでも無い。
「我が国に移住するつもりはないかい?」
武田に任せていては埒があかないと考えたのだろう。
実際、武田の言うことにはいちいち反発したくなっている。
そんな俺の気持ちを察したのだろう。
ライト・マーカスが提案してきた。
「A国に? そのつもりもないな。そっちに行けばR国や他の国のエージェントを排除できるだろうよ。この国に俺が居るより動きやすいだろうからな。強権的、もしくは非合法的な手段もこの国に居るより使いやすくなる……そんなところだろ? そんなの御免被る」
「フッ、馬鹿ではないな。それともR国のミハイルに入れ知恵されたかな?」
探りを入れつつ、ライトはニヤリと笑った。
「さあね。それは想像にお任せするよ」
「先日よりも……自信があるのは何故だい?」
「開き直っただけだよ。どのみちいろんな国から監視されるようだ。それは避けられそうもない。だったら、俺は俺の気持ちに正直になる……そう決めただけだ」
「では、私もこの牧場で働いてもいいかな? 理由は……ミハイルと多分一緒だろう。ただ監視しているだけは退屈だからね。それに武田さんに任せていたら、君の協力を得られそうにもない」
その提案は予想外だったようで、武田は慌ててライトを見た。
「そ、そんな!?」
「武田さん。交渉は、状況と相手を見て行うものだ。我々の調査で浮かんだ玖珂さんと、今、目の前に居る玖珂さんは別なんだよ。人は変わる……そうだ、どこかの国のことわざにもあったじゃないか。男子三日会わざれば刮目して見よ……だったか。そういうことだよ」
「で、ですが……そうなると、例の計画が……」
「ああ、白紙だね。練り直しになるだろうね。それは私から報告するよ。武田さん、あなたはあなたで玖珂さんとのコネクション強化する方法を考え直した方がいい。力ずくでは無理だ。脅迫しても無駄だろう」
「……判りました」
どうやら俺のことを調べ、力押しできると考えて武田は対応していたようだ。
ま、確かに、ちょっと前までの俺なら事なかれ主義よろしく、武田に逆らわない方が良いと考えたかもしれない。
だが今の俺には、ネサレテやベアトリーチェが居て、この牧場がある。
何が何でも守らなきゃならないモノがあるんだ。
強くならなきゃならない。
変わらなければならない。
クロノスやへラ達も助けてくれる。
弱気な俺のままでいられないんだよ。
「では、ミハイルと同じような仕事でいいですか? 事務仕事になりますけれど」
「構いません。何ならペットの世話でもいいですよ」
駒姫達に近すぎるところで仕事されるのは気持ち良くない。
「いえ、事務系の仕事が多くて、そちらを手伝っていただけるとありがたいんです」
「判りました。ではミハイルと席を並べて仕事するとしましょう」
正直、牧場運営上でるペットの餌の購入等の書類整理などの雑務を、諜報機関のエージェントにさせるのは少し気が引ける。
だけど、そこくらいしかないんだよなぁ。
これからも他の国のエージェントがうちで働きながら監視したいと言ってきたらどうしようか?
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