Alexei01-05
ニコライ二世一家が軟禁されているイパチェフ館。
皇帝一家を監禁するために、ニコライ・イパチェフの屋敷が徴用され利用された。
広い大通りに面したこの白い屋敷は、正面には石の門があり、高い木の柵で覆われ、窓も全てペンキで塗られ、外部との接触は完全に封鎖されている。数十人の兵が屋敷の周囲を歩いていて、警戒の厳しさを感じさせた。
ニコライ二世と皇后アレクサンドラ及び息子のアレクセイで一部屋、アナスタシアを含む四人の皇女で一部屋を使うという、皇帝一家に似つかわしくない生活をここで過ごしている。
両親と一緒の部屋に居ようと、クロノスの力で皇帝夫婦に気付かれる心配はない。
後に、アレクセイの遺骨は発見されDNA鑑定で特定されるが、それもハーデスが処理してくれるから問題はない。
問題があるかもしれないのは、アレクセイの意思だ。
死にたいと望んでいるはずの皇太子が、俺の言うことを信じ、新たな人生を歩もうと考えてくれるか?
皇帝夫婦はともかく、姉達も助けた方がアレクセイは生きようと考えてくれるのではないか?
ミハイルとの約束を破ることになってでも、俺の方針は決まりつつあった。
「クロノス、当初の予定とは変わるけれど、いずれは姉達も助けようと思う。協力してくれるか?」
「駿介。お前がそう望むのであれば、協力を惜しむつもりはない。……おまえならきっとそう考えると思っていたよ」
「フフフ……サンキュー。帰ったらクロノスの好きな酒と料理を用意するよ」
「じゃあ、始めるか」
抱きかかえたクロノスの温かさに感謝し、動き出そうとする俺達をエリニュスが止めた。
「このあたりを覆っている怒りや恐怖、狂気などを、我が先に喰ってからがいいと思うぞ。負の感情が蔓延していると、それに影響されて不安や迷いなどが強くなりがちだからな。建物の中の人間が冷静にいられるようにしておいたほうが良いのではないか?」
なるほど。
「そうだな。じゃあ、早速やって欲しい」
俺がそう言うと、女神は胸の前に腕を交差した。
身体から霧があふれ出し、周囲にどんどん広がっていく。
T国でも見た情景だ。
霧は建物を覆い、更に俺の視界が届く範囲に急速に広がっていった。
時間にして十分ほど過ぎただろうか。
エリニュスは交差した腕を前に突き出す。
すると、霧はエリニュスの身体に吸収されはじめた。
――これは、アレスが言っていた復讐の霧というやつだ。ああ、そうか、デイモスはこの霧に触れるのを嫌がっていた。多分、負の感情を吸着する霧なのだろうな。吸着させた後に、吸収……喰っているのか……。
エリニュスの青い瞳が金色に変わり、少し引きたくなるような恐ろしい笑顔を浮かべている。
エロくて怖い女教師っぽい女神って、Mっ気のある男の憧れだろうな。
俺にはそんな性癖ないから、目の前のエリニュスに欲情せず冷静に見ていられることを感謝した。
やがて、周囲を覆っていた霧がエリニュスに全て吸い込まれる。
「よし、これでしばらくの間は、他者の負の感情に影響されずに居られるだろう」
こちらを見たエリニュスの瞳は落ち着きを取り戻し、青い瞳に再び変わっていた。
それにエリニュスの肌はツヤツヤしている。
柔らかくてツヤツヤした肌を指でつい触りたい気持ちになったが、それはセクハラだよなと思いとどまった。
しかし、負の感情をエネルギーとしている女神らしいな。
デイモスの天敵と言われるわけだ。
奴らに触れたら触れただけ元気になってしまう。
デイモスに対するエリニュスの姿は、きっと神々に対するギガースの姿なのかもしれない。
そう考えると、俺の力を必要としたゼウスの気持ちが理解できた。
「じゃあ、行こう!」
俺達は、皇帝夫婦の部屋へ転移した。
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