liberation03-05
千八百十一年にナポレオンによって完全破壊されたタンプル塔。
今は小さな公園になっていて、ここが跡地であることを知らせるプレートが、近くの役所内にある。
プレートが無ければ、この場所で幾つの悲劇が起きたかなど誰にも判らないほど、静かな公園だ。
名前は俺には判らないけれど、白や紫の多くの花が美しく咲き、ここで亡くなった方を今も慰霊しているように思えた。
もともとは修道院として建てられたタンプル塔は、バスティーユ牢獄が解体されたあと監獄として利用された。
ルイ十六世、マリーアントワネット、マリー・テレーズ、ルイ・シャルル、エリザベートの家族五名が幽閉された塔だ。
ルイ・ジョセフの容態が落ち着いたのを確認した俺達は、そよ風に花々が揺らぐこの公園に来た。
いよいよルイ・シャルルを助ける番。
「行こう。哀れなフランス国王を救い出すんだ」
・・・・・
・・・
・
千七百九十五年六月七日深夜。
以前は、非人間的な……一言では表せないほど酷い環境での生活を強いられていたルイ・シャルル。
だがこの時は、ピエール・ジョゼフ・ドゥゾー医師やフィリップ・ジャン・ペルタン医師等の進言により環境は改善されている。
窓からは鉄格子、鎧戸や
月明り射す部屋で、重態のルイ・シャルルは一人苦しみながら寝ている。
このような状態でも看護婦等はついていない。
この状況を目にして、俺はこみ上げる怒りを感じていた。
自由・平等・友愛、美しい理想だ。
だが、それらを口にする者達が、目の前の子供にしていることを思えば、つばを吐きかけたくなる。
人が野蛮な状況から脱するためには理想は必要だ。
文明的にも文化的にも進歩しなければ、辛い生活や愚かな精神から脱することは出来ないだろう。
しかし、理想を口にする者達は、掲げた理想に反した行為を堂々と行う。
大事を為すには犠牲が生じるなどということを、いけしゃあしゃあと口にする輩が嫌いだ。
できるだけ多くの人に負担が少ないように進めていかないと、目の前にあるような悲劇が必ず生じる。
歴史で学ぶべきことの一つは、変化を急いで求めてはならないことだと思っている。
だから、革命が嫌いだ、維新も嫌いだ。
その時点では必要だったなどというのは、勝者や生き残った者が口にすることだ。
歴史の陰で、敗れ死んでいった者達の辛さを軽く扱う輩が言うことだ。
ああ、考えているとどんどん苛ついてくる。
「さあ、早速連れて行こう。この子の兄が……年齢は下になってしまったけれど、待っている場所へ」
ベッドで息をするのも辛そうに苦しんでいるルイ・シャルルを、両手で包み込むように優しく抱き上げるネサレテの目には涙が光っている。俺の目は怒りで満たされてるだろうが、彼女の目には嘆きがあった。
「クロノス。これから検死と解剖がある……判ってるよね」
「ああ、任せておけ。再びここへ戻ったら、史実を変えないようやっておくから心配するな」
俺は腕の中のクロノスに頷き、へラの家へと飛んだ。
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