liberation03-03
ルイ・ジョセフとルイ・シャルルの二人を救出する際、これまでと違い、気をつける点は医師による検死をうけているし、後世にはDNA鑑定も受けている点だ。
だが、検死はクロノスが幻影を見せれば良いし、DNA鑑定鑑定で使用された遺髪は、クロノスに現物を渡しておけばハーデスに頼れるから。こちらも問題はない。
アスクレピオスに兄弟の治療を頼む用もあるので、ゼウスとハーデスへの連絡はへラからして貰うことになった。
「久しぶりに我が夫の顔でも見てくる。女遊びに現を抜かしていなければ良いが」
現在の
その辺りは、夫婦の問題で、口を挟むような話ではない。
俺はへラからの依頼を果たすだけだ。
もう一つ、俺としては気にしていることがある。
ルイ・ジョセフとルイ・シャルルの、二人の意思が問えないことだ。
現代に連れてきて治療が終わった後に、実は来たくなかったと言われてしまうと困る。
また成長してから、両親をなぜ助けてくれなかったと責められても困る。
七歳と十歳の子供だ。
父であるルイ十六世と母マリー・アントワネットのそばで暮らしたいはずだろう。
しかし、フランス革命のおかげで、二人の子は両親と離れて暮らすことになる。
王位継承者だった七歳のルイ・ジョセフは、満足な治療を受けさせてもらえないまま、ムードンの城で病没し、ルイ・シャルルにいたっては、タンプル塔に幽閉され虐待された後、重い病に罹った上に十歳で衰弱死する。
――どうしようか。いや、助けるのは助ける。問題はその後だ……。
「悩んでも仕方ないぞ。今更、懸念事項があるので助けられませんと、へラに言えるか?」
「いや、助けるのは助ける。気にしているのは、その後のことを誰が責任をもって対応するかだ」
いつものように、責任を少しでも軽くしようと言ってくれるクロノス。
ありがたいが、やはりきちんとへラに伝えておかなければならないだろう。
「もう一度へラのところへ行って、助けた後、子供達の心を十分にケアしてあげて欲しいと頼んでくる」
・・・・・
・・・
・
へラに子供達のことを頼み、心良い返事を貰ったあと、フランスへ向かおうとすると、珍しくネサレテがついてくるという。
「どうしたんだい? ベアトリーチェや駒姫に感化されたのかい?」
ムードン城はともかく、タンプル塔の牢は劣悪な環境だったというから、作業着に近い紺のブルゾンとジーンズに俺は着替えていた。排泄物も処理されていない牢にいたという、ルイ・シャルルを抱えてくる予定だったから汚れても良い服装を選んだんだ。
「お話を伺うと、子供達はとても悲惨な目に遭っていたらしいですね。それにまだ幼い。女性が居た方が何かと良いこともあるのではないかと思うんです」
なるほどな。
精神を病んでいるとはいえ、母親を恋しむかもしれない。
女性の柔らかな温もりを欲しがるかもしれない。
だが、相当劣悪と予想される環境を見せても良いのだろうか?
「駿介さんが、私を心配なさっているのはありがたいと思います。ですが、私も貧しい街で生まれ育ちました。酷い環境の中で生活したこともあるのです。ご心配には及びません」
何を心配しているのか察したネサレテは、俺の懸念に感謝しつつ大丈夫だと言う。
「判った。では手伝ってくれるかい?」
「喜んでお手伝いいたします」
汚れても良い服装に着替えるようネサレテに伝えた。
「おまえはネサレテにもベアトリーチェにも甘いな」
クロノスの声を無視して、自分の着替えを済ませた。
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