ルイ・ジョゼフ・ド・フランス、ルイ17世
liberation03-01
牧場に来る若い男性からは賞賛され、女性達からは憧れられ、ここに来る前よりへラは明るく元気になった気がする。以前も元気だったけれど、明るいという感じではなかった。相対する者に緊張を強いるような威圧が感じられて、今から思うと、舐められてはいけないという強気が前面に出ていた。そのせいで明るさが感じられなかったように思える。
いつも褒められ羨ましがられる環境は、へラにとって何よりも必要だったんじゃないか?
最近の様子を見ていると、そう感じないわけにはいかない。
「なあ、へラって自分が愛されるために、他を排除しないといけない……そんな環境だったのかな?」
ソファに寝そべる
「そうかもしれんな。我が言うのも何だが、ゼウスは浮気性だからな。他に目移りしそうな女性の存在を排除しないと落ち着かない生活だったと想像できるな」
「やはりそうか。ここに来てからは、物言いも物腰も柔らかく明るくなった気がしてな」
「ゼウスは浮気できるような身体ではないし、それに現代では神を見られる人間もほとんど居ない。仕事も好き勝手やれた昔と違い、気を遣いながらやらねばならず……難しくなったから暇もない。昔と違ってゼウスの浮気をさほど心配しなくてよくなったが、やはり自分のところに顔を出すわけではない。寂しかったのかもしれぬな」
ここに来て、従者の他にネサレテ達も話し相手に居る。
牧場に来る人間はへラを見て……あれ?
「へラは何で人間に見えるんだ?」
「ああ、我の力が働いているからだ」
「どんな力だ? それ」
「時間と空間の神である我の力が働いているところでは、神であれその他の精神体であれ、その身を晒してしまう。例えば、ハーデスの力は、非認知能力と言ってな。周囲から自身を見えないようにしてしまう。隠れているのではない。そこに居ても意識が捕えられないので見えない。だが、我の力の影響力が及ぶところに入れば、その力は効かぬのだ」
「よくわかんないけれど、クロノスの力が働かないところに出たら、へラの姿は人間には見えなくなる?」
「その通りだ。我の力を知っているから、ガイアはここに来るとき人間の姿をしていただろう?」
「あれ、そういうことなの?」
「そうだ。ちなみに、ゼウスもだぞ」
そうか、だからゼウスとガイアは俺の前では人間の服装して出てきたのか……。
だけど、現代風のスーツ姿やカジュアルな格好してこなくたっていいんじゃないかな。
そうは思うが、神々も単にしてみたかっただけかもしれない。
クロノスの背を撫でながら「なるほど」とつぶやく。
「へラはここに来て良かったってことか?」
「今のところはそうだろうな。過度に恐れず敬うネサレテ達。素直に美しさを褒め称える人間達。それらはへラにとって喜ばしく大切なもののようだな」
俺もそう感じているから、クロノスの意見には素直に頷けた。
「そういや、へラは何故ここに来たがったんだ?」
「我は知らぬよ。へラに訊けば良かろう」
「そうなんだけどさ。俺はやっぱ怖いんだよなぁ……まだ」
考えてみると、ゼウスのそばをずっと離れなかったのに、何故だ?
急に不安になってきた。
「駿介さん。へラ様がいらっしゃいました」
ネサレテと一緒にへラが居間に入ってきた。
今日はローズレッドのワンピース。
ネサレテのラフな白いシャツとカーキー色のズボン姿と違い、牧場で生活してるとは思えない服装だ。
だが、透き通るような白い肌と相まって、似合っているし、本来持っている気品を存分に周囲に放っている。
「おお、駿介とクロノス、ちょうど二人とも居たか。都合がいい。用があって来たのだ」
――面倒な予感がする
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます