Gaea01-06
「今のままなら無理だろう。だから、もう
「聞きましょう」
「一つは、我の養子となれ」
「え? 養子?」
「そうだ。おまえは
ヘラが従者に目配せすると、ミニチュアミルクピッチャーが俺の目の前に置かれた。
「それを茶に入れて飲め」
ゼウスの件があったから、このミルクもただのミルクではないだろうと予想がついた。
だが、今回もやはり拒めそうもない。
ティーカップに残る紅茶の色が白濁する様を見ながら、ピッチャーからミルクを注いだ。
そして、カップに口をつけて飲み干す。
にやっとヘラが笑う。
「我の母乳を飲んだのはヘラクレスとおまえだけだ。いいか? 我の母乳を飲むと人間は不死の身体になる。神には効果は無い。半神半人のおまえも肉体的には不死にはなる。だが、死なないわけではない。寿命の他の理由では死なないというだけだ」
ああ、やはり、そういう裏があったんだな。
もうどうにでもなれという気持ちだよ。
「半神ってだけでも、人外になったと思っていましたが、更に人ではなくなったのですね」
「だが、これでテューポーンと戦える。神では勝てない相手でも勝てるようになる」
「それでもう一つの条件とは何ですか?」
「我がおまえ達と暮らすことだ」
はあ?
何でそんなことに……。
「え? 我々と共に暮らすのですか?」
「そうだ。おまえがおかしなことをしでかしたら、その場で罰を与えられるようにな。ああ、安心するがいい。不死となったのだから、我に何をされても死にはしないぞ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。話の流れからすると、私に罰を与えるのは決まってるかのように聞こえるのですが?」
「もちろんだ。おまえは妻の他に愛人がおるのだろう? 正妻が認めた愛人というから、そのことはこの際文句は言わぬ。気に入らないがな。だが、その他の女性に手を出すようなことがあれば、その場で殴り倒してやろう」
ヘラって、ゼウスと素手で渡り合ったはず……。
そのヘラに殴られたら、死なないだけで酷い目に遭うのは間違いない。
「し、しかし、私共の家はヘラ様が暮らすような立派な家ではありませんが……」
「おまえが生きている間の話だ。あと百年もないだろう? たまには下々の者の生活をするのも一興だ。粗末な家でも気にすることはないぞ」
「あのですね? 従者など居ないのですよ?」
「ああ、大丈夫だ。それは連れて行くからな。住居だけ用意してくれればいい。ヒュッポリテ、おまえも来るのだ」
ヒュッポリテと言えば、ヘラの計略でヘラクレスに殺されたアマゾネス。
亡くなったあと、ヘラの従者にされていたのか……。
冥府のハーデスから譲り受けたのかな?
どうやら、そばで監視されるようだ。
助けてくれないかと、チラッと見たゼウスの顔には諦めろと書いてある。
俺の平穏な日々はこれで失われるのか……。
「……判りました。では、急いで家をご用意いたします」
「うむ、良い子だ。聞き分けの良い子は好きだぞ」
もう自分の子供扱いだ。
どれだけ美しくとも、こんな怖い女神にはそばに居て欲しくはないんだがな。
「おい、今、無礼なことを考えなかったか? 具体的には判らずとも雰囲気は判るのだぞ」
夫婦揃って、悪意には敏感なんだな。
「では、ガイア様の意見を受け入れていただけたと理解して宜しいでしょうか?」
「ああ、それで良い」
――ゼウスからヘラを説得しろと言われたとき、詰んだと思ったが、本当に詰むとは思わなかったぜ。
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