Gaea01-05
エーゲ海東部、トルコ沿岸近くにある島サモス島。
ヘラの神殿跡がここにある。
ゼウスに呼ばれて、俺とクロノス、そしてネサレテが来た。ネサレテを連れてきたのは、ヘラと話すなら妻を同行させた方が話が早いかもしれないとクロノスが言ったからだ。確かに、婚姻の神でもあるヘラと話すなら、夫婦で話す方が良いかもしれない。
ちなみに、今日のゼウスの格好は、厚手の白いウールの布を肩から巻いた、まさにギリシャ神話の神の格好。
何かあったのか? と思ったが、どうでもいいかと訊いていない。
一本の柱と、壊れ崩れた神殿の跡しか残っていないが、ここには何かあると空気が俺に伝えている。
「約束通り、参ったぞ」
ゼウスが声を上げると、ネサレテもびっくりな美しい女性が、ふくよかな胸が隠れるように、ゼウスと同じような格好で現れた。ややブラウンがかったブロンドの頭部に、細かい細工が施された金色のティアラが神々しさを強調している。
――これほどならば、世界で一番自分が美しいと自尊心を誇ってもおかしくはないな。
「参られたか。ではこちらに」
ヘラの横に、どこかの空間へ繋がるに違いない扉が現れ開いた。
扉へ向かうゼウスの後ろを俺はついていく。
扉を抜けると、そこは種種様々な花が植えられた庭だった。
四席の椅子が並ぶテーブルが置いてあり、その後ろにはヘラの従者らしい女性が立っていた。
「皆の分の用意を」
ヘラが従者に声をかけると、従者の女性はどこかへ歩き去った。
「さあ、こちらへ」
ゼウスを座らせ、その横にヘラが座り、空いた席へ俺とネサレテが向かう。
座る前に、挨拶をせねばと一礼する。
「私が玖珂駿介。隣が妻のネサレテ。妻が抱きかかえているのはクロノス様です。本日はお招きいただきありがとうございます」
「我がヘラだ。今日は遠くまで来てくれて嬉しい。さあ、あとは気楽にしてくだされ」
俺達は腰を下ろした。
「夫ゼウスから、おまえ達の話を聞いてやれということ。どのような話で参ったのだ?」
「ガイア様からのお話を、ヘラ様に是非聞いていただきたいと思いまして……」
ギガースは自然に復活しているのであり、ガイアが手を貸しているわけではないこと。
生みの母としてギガースを守りたいと考えていること。
テューポーンの復活など考えていないこと。
ギガースの復活を邪魔しないでいただきたいこと。
話した限りでは、ガイアは嘘をついていないと俺には感じられたこと。
ヘラの厳しい視線から目を逸らさずに、俺は説明し、そして理解して認めていただきたいとお願いした。
話してる間に従者が紅茶を運んできたが、中断すること無く一気に話した。
「話は判った。だが、ガイアが嘘をついていたら、取り返しがつかないではないか」
やや硬めの表情を変えずにヘラは答えた。
「それはそうです。ですが、どのようなことでも可能性に触れれば、妥当な理由などなくても目障りなモノは排除すれば良いということになるのではないでしょうか? それはとても乱暴に思えるのです」
話している間に、射貫くような視線が強くなったのを感じたが、横に座るネサレテの手を握り、気持ちを強くして話し終えた。
「では万が一の場合、おまえが責任を取るか?」
「それはどういう?」
「テューポーンが復活したら、おまえが倒せ」
は? ゼウスさえ一度は倒したテューポーンを、当時より弱くなったとはいえ、俺に倒せるとは思えないが。
「私に可能だと思われますか?」
俺の答えを予想していたかのように、ヘラは自信ありげに話を続けた。
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