Gaea01-02

 

「程度の問題なのではないでしょうか? 私だって理不尽な事情で過去に亡くなった方を全て連れてくることなど考えておりません。ですから、私はと考えてます」

「あなた個人の趣味のためにことわりを破っていると?」


 ここは開き直るしかない。

 価値観の違いと、それに伴う実害がないことを理解して貰わねば、ガイアの理屈の外で話すことはできない。

 ここは勝負だ。

 乗ってくれなければ交渉決裂って奴だ。


「はい。その通りです」

「これは困りました。あなたとは争うつもりはなかったのですが……」

「私もできることなら、争いたくはありません」

「でしたら……クロノスをタルタロスへ戻し、あなたのをお止めになってください」

「ガイア様が、多少のことに目をつぶっていただくという選択もありますが……」


 人間相手に譲歩するのは嫌と言うのかもしれないが。


「つまり、あなたの趣味はお続けになり、ギガース復活阻止の手伝いもなさると? それでは話になりません」

「ガイア様。ギガースは何故復活させねばならないのでしょう? 神々が争う種をわざわざ生まなくても宜しいのではないでしょうか?」


 そもそも、ギガースを今更復活させなければゼウスは俺の力を必要としない。

 今、生じている問題の根っこはギガースを復活させようとしているガイアだ。


「わざわざ復活させているわけではありません。残った命がその姿を取り戻そうとしているだけです。その点をゼウスは誤解している。テューポーンの復活も行うつもりはありません」

「でしたら、そのことをゼウス様にお話になり、ギガース復活を認めていただければ良いのではないでしょうか?」


 カップを口に運び、少し考えてからガイアは答えた。


「いえ、あの子は認めないでしょう」

「それは何故ですか?」

「テューポーンに一度破れたため、その復活を恐れる者達があの子の後ろにいるからです」

「ガイア様が、テューポーンの復活はなさらないと約束されれば宜しいのではないでしょうか?」

「私の話を信じるかどうか……いえ、信じないでしょう。人間もそうでしょうが、神々も可能性が有る限り疑うものです」


 それはその通りなのだろう。

 恐怖というのは理屈ではない。

 自分自身の弱さ……可能性という妄想のような観念が原因で生じる場合もある。


 だが、安心するために、不安を生じさせる可能性の全てを潰すというのは、あまりに乱暴だ。

 ゼウスがそうしなければならないほどの理由が俺には判らない。

 ならば……。


「私からゼウス様に話してみましょうか?」

「それで納得してくれるかどうか……。あの子には今も潜在的な敵はいるので……」

「納得してくれるかは私にも判りません。ですが、ガイア様のお気持ちは判って貰えるのではないでしょうか?」

「そうでしょうか?」

「私が会ったゼウス様は、自分勝手ですが、話が判らないお方ではありませんでした。事情があり、理解してもギガース復活阻止の手を止めることはないかもしれません。ですが、それでも……ガイア様のお気持ちを理解していただくのは大事なことのように思います」


 俺の真意を測るように、じっと見つめる青い瞳に吸い込まれそうな気持ちになる。

 確かに頭が硬いところがあるけれど、ガイアも決して自分の都合だけで考える神ではないと感じた。

 ガイアの話を聞いて、神々が争う理由が無いとも思ったしな。


「判りました。では、玖珂駿介、あなたから話してみてください。クロノスのことと、あなたのについては私も改めて考えてみましょう。今日はあなたとお会いできて良かった。クロノスには、隠れてないで堂々としなさいと私が言っていたと伝えて下さい」


 ニコッと微笑んだガイアには、クロノスの母親だと思わせる器の大きさがあった。


「ではまたお会いしましょう。私に用があるときは、このブローチに念を送ってください」


 そう言って、黒い宝石がはめ込まれ、オリーブの葉が装飾された金のブローチを渡してきた。

 俺が受け取ると、花のもののような優しい香りが残し、すうっと姿を消した。


 「ふう。やっと帰ったか……」


 いつの間にか、俺の足下にクロノス情けない神が座っていた。

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