Gaea01-03
ガイアから逃げていたクロノスが姿を現した。
「ゼウスとガイア、この二人だけは苦手なのだ。特にガイアはな……」
まあ、その気持ちは判る。
ガイアは隙が無さそうだし、頭も柔らかいとは言いがたい。
でも、話して理解のない相手ではないとも感じた。
「タルタロスはな、宇宙の奈落だが、生きているのだ。一つの生命体なのだ。そのタルタロスもガイアから生まれた。ゼウスの他に、タルタロスに命令できるのはガイアだけ。我が苦手なのも判るだろう?」
「話せば判ってくれそうな方だったぞ」
「それはおまえが他人だからだ。幾つになっても子供は子供なのだ。親としては、気に入らないところが見えれば小言も言いたくなるし、言うことを聞かねば躾けしたくなるものだ」
まだ子供も持ったことのない俺にはピンッと来ない話だ。
でも、親になった友人知人を思い出すとそうかもしれないな。
「だが、いつまでも逃げているわけにもいかないだろう?」
「そのようなことは判っている。少なくとも元の姿を取り戻し、力の全てを使えるようになるまでは、ガイアとは会いたくないのだ」
「親子喧嘩でもするつもりか?」
「いや、喧嘩になりそうになったら逃げられるようにだ!」
何とも情けないことを偉そうに言う神だ。
困ったもんだと、後ろ足で頭を掻いているクロノスを見ていると、これまでずっと黙っていたネサレテが話しかけてきた。
「駿介さん。クロノス様にはクロノス様の事情がおありなのでしょう。あまり虐めないであげてください」
半神となった際、クロノスの
「おお、そうだぞ。美しい愛妻の言うことは聞いておくものだぞ。我もそうしていたらと反省することがあるくらいだ。神の言うことだ。間違いない」
調子の良いことを言いやがって、この去勢神が!
だが、ネサレテを困らせるのは嫌だ。
仕方ない、ここは引き下がってやる。
ネサレテに感謝するがいい……このヘタレ神め!
「……フウッ……それじゃゼウスのところに行って、話すだけ話してみるか。おい、ゼウスからは逃げないだろうな?」
「あれとの契約は守っておる。逃げる理由が無い」
「じゃあ、
「そうじゃな。あれも酒には卑しい奴だからな」
「人の酒をこっそり飲んで、何本も空にしたクロノスには、ゼウスも言われたくないだろうな」
「酒くらい自由に飲んでも良いではないか」
まあ、それは構わないんだが、ちょっと一言言ってやりたかっただけだ。
俺はクロノスを抱きかかえ、街で買い物をし、その後ゼウス神殿へ向かった。
・・・・・
・・・
・
俺達がゼウス神殿へ着くと、既にそこにはゼウスが待っていた。
今回は、白いTシャツにジーンズ。
毎回毎回誰がコーディネートして、神らしさを消してるんだ?
「私達が来ると予想してらしたのですか?」
「ああ、ガイアがおまえのところへ行ったのを感じたからな。ここへ来るだろうと思っていたよ」
つい先ほどのことをもう知っているとは、さすが全能の神というだけある。
先に
「……ですので、ガイア様とゼウス様が争われるほどのことではないのではないかと」
「その話が本当ならばそうかもしれぬな。だが、我とガイアの間だけで済む話ではないのだ」
「と言いますと?」
「我の地位を狙う者、我々を滅ぼしたい者は居るのだ。そしてガイアが言う通り、我々を脅かす可能性を持つ者の存在を許さない者が神々の中に居る。我は神々の不安を取り除かねばならぬし、我々に敵対する者は倒さねばならない」
ううむ。
神話時代でもないというのに、神々に敵対する勢力があるっていうのか?
だが、しかし……。
「しかし、力を持つ者が必ずしも敵対するわけじゃありません。可能性があるというだけで滅ぼすというのはあまりに乱暴ではありませんか。内なる恐れを克服しない限り、力ある者の出現をいつまでも恐れることになりはしませんか?」
「ふむ、それはその通りだが、恐れを抱いている者にはその意見だけでは通じないぞ」
「何が必要なんでしょうか?」
俺を見るゼウスの目が真剣さを強めた。
「それは判らん。おまえが直接話してみるか?」
「えええええ! そんなこと可能なんでしょうか?」
「できるぞ。近いうちにおまえを呼び出すから、その時試してみるが良い」
「怖い目に遭ったりしませんか?」
「それはおまえ次第だな。ま、傷つけられることはないだろう。おまえの力を我が必要としてることは知っているからな」
しょうがない。
やるだけやってみるか。
それでもダメなら、ガイアにも申し訳が立つだろう。
「判りました。で、その相手はどなたなんです?」
「我妻ヘラだ」
――詰んだかな……俺。
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