liberation02-03

 ペット牧場で働いている駒姫は、まだ十五歳の子供らしく犬や猫とたわむれれている。


 あの後、最上義光もがみよしあきが臨終を迎える山形城へ行き、人が居ないときを見計らって布団脇に座る。

 病で伏せっている義光よしあきの枕元で駒姫は深々と礼をした。


「このままそばで看病できぬ、親不孝な娘で申し訳ありません。慈しんでいただいた父上と母上のこと、そして度量が広く、文武に優れ、情に厚い父上のこと生涯誇りと抱いて生きてまいります」


 意識があるのかないのか定かではない義光よしあきが、病で弱ったとは言え数々の戦を戦い抜いた手を駒姫へ伸ばした。

 それを両手で包み込み、胸に抱く駒姫。


 義光よしあきの瞳に涙が浮かんだように見えた。

 戦国武将の涙など、俺のような部外者が見てはならぬと顔を逸らして、ベアトリーチェを見る。


 義光よしあきは、一言も発することもできないようだ。それは、言葉も出せないほど弱っているのか、それとも駒姫の姿に言葉を失ったのかは判らない。

 だが、言葉がなくても思いは伝わっていると俺は確信していた。


「さらばです、父上様。いずれあの世で再び逢いましょう」


 その短い言葉に、駒姫はありったけの想いを込めたに違いない。

 そして義光よしあきは駒姫の思いをしっかり受け取っただろう。


 二人の様子を見ていたベアトリーチェの目にも涙があった。


「……私も誇れる父が欲しかったわ」


 その一言だけで他には何も話さなかった。

 ベアトリーチェの父親の所業を知る俺は言葉をかけられない。


 駒姫が立ち上がったのを見て、俺達は現代へ戻った。





 言葉使いはさすがに現代と違うけれど、日本語を話せる駒姫はバイトの子達とも仲良くやっている。皆、可愛い妹ができたように、いろいろと世話している。


 仲が良いのはいいけれど、彼女はまだ十五歳。

 手を出そうとする者が居たらゆるさん。


 平野にもその点を気をつけて貰いたいと伝えた。


「しかし、玖珂さんが連れてくる女性は皆お美しい方ばかりですので、男子が強い関心持つのはしかたありませんよ?」


 きつく言われてしまった。

 そうだろうなとは思うよ?

 あと数年もすれば、美しさに磨きがかかりそうな日本風美人だからな。アイドルには見かけないけれど、モデルには見かけるアジアンビューティーに成長すると確信している。

 両親から大切に育てられ、礼儀はしっかりしているし、奥ゆかしさも十五歳なのに備えてる。

 それで、声をかけられると少し寂しげな微笑みを返すのだ。

 思春期男子のハート鷲づかみしてしまうのも仕方がない。


 だが、ダメだ。

 俺の眼鏡にかなった男とじゃなきゃ、結婚はもちろんお付き合いもさせん。

 最上義光もがみよしあきの涙を見た俺は、駒姫を必ず幸せにすると誓ったのだ。



 ベアトリーチェも実の妹のように接している。

 甘やかすだけでなく、時には厳しく指導している様子に、自分が説得して連れてきた責任感も感じる。


「自分が過ごせなかった幸せな時期を与えてあげたい。そう思っているのですわ」


 ベアトリーチェと駒姫の様子を見て、ネサレテが思いを教えてくれる。


「そういや、駒姫って名は現代の日本では違和感があるんだよな。相談して変えなきゃと思ってるんだけど、本人が変えたくないと言ったらどうしようもないし……」

「慌てることはないですよ。生活に慣れ、落ち着いた時に名を変えればいいではないですか」


 まあ、ネサレテもベアトリーチェも、行政関係の書類……例えば戸籍や住民票はクロノスにイジって貰っている。本来、無戸籍者の戸籍取得には家庭裁判所などでの手続きが必要だが、いちいち膨大な書類整備して、手続き踏むのは面倒なので、就籍許可申立(※)せずに戸籍を作って貰っている。

 うちのお助けワンコクロノスには、いろんな雑事も処理して貰っていて、ほんと助かっている。


 そんなクロノスのところに突然招かれざる客が来た。

 ……母ガイアである






※ 就籍許可申立:無戸籍者本人は、家庭裁判所の許可を得て就籍しゅうせきすることにより、戸籍を得て無戸籍を解消することができる。

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