解放に向けて

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 もう一つの夢、ペット牧場開設の準備に取りかかる。

 土地を探し、土木と建築の手配を始めた。


 クロノスが、そんなことは我の力でどうとでもなると言ったが、これは人の力でやるべきことだ。人の身勝手で産まれたペット達のための施設なのだから、人の力で建設し運営しなければならないんだ。

 資金はクロノスのズルで稼いでいるのだから、偉そうなことは言えない。だけど、自力で稼いでいたらいつになっても必要な資金は稼げそうもない。

 だから、一番大事な資金調達だけはクロノスの力を借りている。


 家のことは全てネサレテに任せ、俺は不動産屋、土建屋、医療関係者などのところへ毎日通い、一つずつ必要な環境を揃えていったんだ。様々な土地を見て回り、獣医や酪農関係者にも教えてもらいながら、忙しく過ごしていた。


 大変だったのは確かだけど、最も重要な資金調達で心配要らないのだから、苦労しただなんて言えないけどな。


 ……手配が終わり工事が始まったのは、クロノスと出会ってから半年後だった。


 工事は数ヶ月後には終わる。

 だけど工事が終わったからといって、すぐにも牧場を動かせるわけじゃない。

 ペットの世話をしてくれる人間が必要だ。


 殺処分に遭うペットは、犬だけでも一万頭以上居る。猫だと四万頭以上だ。

 最初から全てを預かるのは無理だが、将来的には、全てのペットを引き取りたい。

 だが、五万頭以上のペットの面倒を見るためには、一千人以上……いやもっとかもしれないが、大勢の人間が必要になる。


 給料もしっかり渡し、労働環境も整えてとなると、俺達だけじゃ無理があるだろう。

 何せ経営なんかしたことないんだからな。

 専門家にも協力を願わなくてはならないに違いないんだ。

 コネも必要になるだろうが、今はまだ何もない。


 気持だけでは何もできない。

 少しずつだ……少しずつ整えていこう。


 焦る気持を抑えつつ、俺達は次の段階へ進もうと考えた。

 そう、悲劇的な目に遭った歴史上の人物を助け、この世界へ連れてくるのだ。


・・・・・

・・・


「ねえ、駿介さん。いろいろな人物が候補にあがりましたけど、誰から始めるのですか? 」


 最近やっと、駿介様じゃなく駿介さんと呼ぶようになってくれたネサレテが訊いてきた。身近な人達から「様」を付けられるほどの人間じゃないからやめてくれと言い続けていたのだ。

 居間でコーヒーすすりながら新聞を読んでいた俺にネサレテが訊いてきたことは、歴史上で悲劇的な目に遭った人物を現代へ連れてきて、新たな人生を生きて貰おうという俺の趣味の話だ。


「そうだなあ。できればネサレテの話し相手になるような人物がいいと思っている。だけどまだ決めかねているんだ」


 歴史上で悲しい目に遭った人は大勢居る。

 その全てを現代へ連れてくることなど不可能だ。

 クロノスの力があれば、もしかしたら全員連れてくることも可能なのかもしれない。

 だが、受け入れる環境が作れないのだから、不可能と一緒だ。


 それに俺は自分の趣味でやるのだ。

 慈善でやるわけではない。


 だから、独断と偏見にまみれた人選になるだろう。

 それに、生まれた世界から本人が離れたくないというのなら連れてくることはない。

 俺は連れてきたいけれど、あくまでも、本人の意思を尊重するつもりだ。


「私には、駿介さんとクロノス様がいるので、気になさらないでください」

「そうはいかない。やはり同性の友人は必要さ」


 クロノスも俺も男性。

 会話していても、やはり女性が話すような話題はなかなか出ない。

 クロノスと俺の話題は、もっぱら金策と牧場の建築状況、そしてゼウスから言われたギガースについてに偏りがちだ。

 二十代女性が話すような、お洒落の話題など知らないし、恋バナなんかもできない。

 やはり同性の友人がネサレテには必要なんだ。


 歴史上でのネサレテは高級娼婦となるが、その前に現代へ連れてきた。俺達と話すネサレテは真面目で男慣れもしてるようには見えない。

 だから過去から友人候補を連れてくるにしても、話が合うようなタイプを連れてこなきゃと考えている。

 

 悲劇から解放したい人物はそれなりにいるのだが、ネサレテの友達になれそうなとなるとなかなか難しいのだ。王族や貴族出身の女性がいいだろうとは思っているのだが、では誰にしたらとなると決めかねている。


 だが、いつまで悩んでいても仕方ない。

 そろそろ決めなければならないんだ。

 ゼウスからいつギガースの情報が来るか分からないからな。


 そこで候補者の中から思い切って決めようと思う。

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