start02
金を稼ぐのは、我が家のペットを兼ねてるクロノスに任せられるようになってきた。株が動く時間になるとPCの前に座り、一旦、人の姿に変身して株を動かしている。今日はいくら稼いだと報告に来て、その後は「社会勉強に行ってくる」と姿を消す。
どうやらいろんなところへ行って、現代社会を勉強しているようだ。
と言っても、俺から遠く離れたところへは行かないようにしているらしく、せいぜい近所の喫茶店でアイスを食べてる程度のようだ。
まあ、クロノスは心配ない。
問題起こしても、力使えば大概のことは誤魔化せる神だからな。
だが、いつかは俺の嫁になるつもりで居るネサレテの行動は、離婚し独身に戻った俺にはとても刺激が強くて困る。
まず衣装。
古代ギリシャでは普通の格好だったから、布一枚を身体に巻いて家事をこなすことにまったく抵抗がない。
豊かな胸や白くほっそりとした脚線に、目のやり場に困る時もあって、そのことを伝えると、ニッコリと笑って「どうぞ気の済むまでご覧下さい」と言う。
嬉しいですかと聞かれれば嬉しいと答えるけど、何か違う気がしてならない。
外出時には、下着やシャツも来て、しっかりと現代の女性らしい格好をさせているのだけど、家に帰ると古代ギリシャ状態に戻る。
腰まで届く濃いブラウンの髪を後ろで束ね、その蠱惑的な姿態に布一枚で料理をし洗濯するのだ。
そして何よりも危険なのは、就寝時に俺のベッドに入ってくるのだ。
……裸体で俺にしがみついて……だ。
慣れない生活で疲れているのか、ベッドに入るとすぐ寝てしまうネサレテの横で、理性的な男でいようと、毎晩必死にクロノスを抱きしめて寝ている。
潰れそうなくらい強く抱きかかえられているクロノスもいい迷惑なことだろう。
――もう結婚決めちゃおうかな。
甲斐甲斐しく俺の世話もしてくれるし、どうやら良い子みたいだしな……。
いやいや、三十五の俺が、二十歳くらいの女の子と結婚?
あ、でも、生まれた年から考えると、二千百年の今は二千数百歳なのか?
ううん、そうじゃないだろう。
毎晩こんなこと考えて、なかなか眠れずに居る。
でも、クロノスとネサレテとの生活は楽しいんだ。
稼いでくれるからというだけじゃなく、クロノスから教えて貰える神話時代の話はとても面白い。
生で体験した神話時代の話なんか、クロノスのような神からでもなきゃ聞けない。
食事のときや、ふとした時に美しいネサレテの優しい笑顔が見られるのは、単純に幸せを感じる。
クロノスの毛をブラシで梳いている様子もとても可愛らしいし、見ていて穏やかな気持ちになるんだ。
一人暮らしの気ままさも悪くはない。
別れた妻と付き合う前は一人でのんびり暮らしていたから、あの気楽さは判る。
だけど、こうして誰かと暮らすのも幸せだ。
この生活をずっと続けたいと思ってるのだから、ネサレテとのこの先も見えてるように思える。
だが、やはり今の自分に自信がないせいか、
それに半神半人となった俺に起きる変化がどのようなものか判らないうちは、人並みの生活を続けられるのかも心配なんだよな。
だからある日クロノスに相談したんだ。
すると……。
「あれ? 話していなかったか? ネサレテも
「ふ、ふざけるな! 」
俺がどれだけ心配していたと思ってるんだ。
人間の姿はしていても、人間とは異なる存在になってしまったこと。
死んだ後、俺だけ神の席とやらに座ることになったとしたら、ネサレテはどう思うだろうかと悩んだこと。
まったく神ならその辺心配してくれてもいいはずだろう。
人を自分の都合で使うことばかり考えやがって……。
「まあ、そういうことだから……。そもそもだがな? 駿介の好みを我が分析して連れてきたのだ。結婚相手として何か気に入らないところでもあるのか? 」
「無いから困ってたんだっての……」
「面倒くさい男だな。我やゼウスなど気に入った女が居たら、なり振り構わずモノにしてきたがな」
「そんなだから二人とも去勢されるんだよ」
俺の繊細な神経を、この
しかし……ということは……ネサレテも、自分に俺の気に入らないところがあるのかもと気にしていたりするのかな?
一度、きちんと話した方がいい。
俺は具体的なことをしっかり話し合おうと決めた。
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