encounter04


 わけも判らないうちに半神半人にされた上に、ギガースの復活阻止なんていう役目を担うことになった。

 これからどうなるんだろうと考えつつ、パルテノン神殿への道を歩いていた。


 パルテノン神殿に戻ると、もう誰も居ないのに、そこには体長五十センチほどのミニチュアダックスが座っていた。


 こんな夜更けに、どこから迷い込んだのだろう? 

 ミニチュアダックスなんて野良犬とは思えないから、飼い主が探しているのではないか?


 そう思いつつ近づいていくとトコトコと寄ってきた。


「感謝するぞ」

  ――犬がしゃべった!?

「そう驚くな。我だ。クロノスだ。おまえが必要とするときにそばに居られるよう、この姿にされたのだ。タルタロスに幽閉されずに、この世界に居られるならば、姿など犬でも猫でも何でも良い。必要なときは、力を使えば姿などどうにでもなるしな」


 俺が落ち着きを取り戻そうとしていると、クロノスは話しを続けた。


「さて、これからのことを話し合わねばならんが、とりあえず、おまえは疲れているだろう。一度眠るがいい。他のことは明日でいいだろうからな」


 ああ、確かにな。

 ギリシャには休養をとりに来たはずなのに、ここ数時間で休暇数日分で貯えた体力が損なわれた気がするぜ。

 今夜はもう何も考えずにゆっくり眠りたい。

 クロノスのいう通り、ホテルへ戻ろう……って、クロノスをどうしたらいいんだ? 

 ペットの持ち込み可能だったかな?


「我は、明日おまえがホテルから出てるまで、姿を消しているから心配するな」


 随分と気を遣ってくれる神だな。

 ま、お言葉に甘えて、俺は休むことだけ考えることにするさ。


・・・・・

・・・


 翌日、クロノスを連れてゼウス神殿へ行った。

 そこでこれからのことをゆっくり話し合おうと思ったのさ。

 周囲から怪しまれないよう、クロノスを抱きかかえて神殿を眺めながら話した。


「まず、もう一度礼を言うぞ。本当に助かった。我から直接願おうとしても、手段がなかったので困り果てていたのだ。玖珂駿介くがしゅんすけ、感謝するぞ」

「それはもういい。そんなことよりも、ゼウスに半神半人にされちまった俺の、今後のことを考えたい」

神の血イーコールで発現する力は、神に等しいモノばかりだ。そもそも人間の力ではそう簡単に怪我もしない身体になっているはずだ。刃は通らぬし、昨夜おまえが眠ってる間に見せて貰った記憶で知った……銃弾とやらもおまえの身体には通用せん」

「何!? 俺の記憶を勝手に見たのか? 」


 そりゃ何億年も宇宙の果てに居たのだから、この世界のことは判らないだろうが……。

 他人には知られたくないプライベートな記憶も見られてるのだろうなあ。


「ああ、この時代のことは何も判らぬのでな。それに、おまえへの礼を何にしたらよいかも悩んでいたのでな」

「……もう見るなよ」

「全て見終わったからな。あとは自分で調べるさ」


 昨夜からいろいろなことがありすぎて、言い返す気力もない。


「俺のことは駿介と呼んでくれ。クロノスが神でも、いつまでもおまえと呼ばれるのはあまり気持ちいいものではないんでな」

「良かろう。で、駿介。神の血イーコールで何かの力が発現するまでには多少時間がかかるのだ。今、考えても仕方ないことを考えるのは無駄ではないのか? 」


 そりゃそうだな。

 だが、ギガースの情報は手に入れておきたい。


「ギガースってそんなにヤバイ奴なのか? 」

「まあな。ギガントマキアーのことは知っているか? 」

「ほんのちょっとだけだな。オリュンポスの神々とギガース達の戦争だろ? 」

「そうだ。ギガースは神の力では倒せない。人の力が必要なことは知っているな? 」

「ああ、そうらしいな。おかげで半神半人にされちまった」

「復活するのがギガースだけなら、ゼウス達も恐れはしないのだろうが、テューポーンを蘇らせられるとかなりやっかいだ。だから、ギガースの復活を阻止し、この世界のどこかで今も眠り続けるテューポーンを目覚めさせられないようにと考えているのだろう」


 テューポーンか、あのゼウスでさえ一度は破れたという化物。

 最後は、無常の果実を食わされて弱体化しゼウスに破れたとはいえ、確かにやっかいそうだな。


「いずれにせよ。今の我らにできることはない。ギガースの居場所もテューポーンの状態も何も判らないのだからな。いつになるかは判らないが、その時までに、自分の力を知り、使い方に慣れておく必要がある。日本へ帰って、いろいろ試しながら身につけていくしかないさ。それにだ……」

「それに? 」

「駿介の願いも叶えられるのだぞ? 」

「俺の願いってなんだよ」


 ミニチュアダックスの癖に、何でも知っているかのような生意気そうな口を……。


「嫁と離婚し、心の傷が癒えたら、美女を嫁や愛人にしたいのだろう? それも歴史上有名な美女をな」

「なっ!? あ、俺の記憶で知ったのか……」


 真剣に考えていたわけでもない。たわいもない戯れ言のような願いをここで出されて狼狽うろたえた。


「そうだ。過去の偉人などにも会いたいらしいしな」


 チッ……そんな俺自身ですら忘れていた願いを持ち出されるとは思わなかった。


「あ、ああ、それはそうだけれど、そんなこと無理だろうよ」

「私が何を司る神なのか忘れたのか? 」

「あ、時間の神で天空の神……」

「そうだ。我ならば、駿介、おまえの願いを叶えてやれるのだ」


 そうか!

 クロノスが居れば……。


「まあ、神の血イーコールの力が発現すれば、我の手助けなど必要なくなるかもしれんが、もし必要だとしても我は駿介を手伝うことで、この世界に居られるのだ。当然、可能なことは手伝う」

「俺、クロノスあんたのこと初めて神なんだと思ったよ」


 腕の中のミニチュアダックスを抱きしめて、しみじみと語った。


「無礼な奴め……。だが、昨夜から神らしいところなど見せておらぬからな。それも仕方ない」

「じゃあ、休暇はまだあるけれど、早速日本へ帰るか……」

「フフフ……我の力を見せる良い機会でもあるからな。そうしようぞ」


 そう、それから俺とクロノスは日本へ戻る。

 それもクロノスの力を使って転移してだ。


「おいおい、入出国の記録はどうすんだよ!? 」

「そんなもの我が勝手に書き換えておくわ! 」

 

 ――この日、ちょっと乱暴だがとても便利な神クロノスが、味方ペットになったんだ。

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